肺動静脈瘻

肺の動静脈瘻(ろう)は、肺動脈と肺静脈が直接つながった構造をして います.他の疾患の合併無しで、肺の動静脈瘻が起こることもあります が、30-40%の患者さんは、遺伝性出血性毛細血管拡張症 (hereditary hemorrhagic telangiectasia: HHT、オスラー病とも言っていました)の家系の患者 さんに起こります.頻度は50%を超える報告もあります.この意味で、肺の動静脈瘻が発見された患者さん は、遺伝性出血性毛細血管拡張症でないか検索が必要です.

 

 

 

 

 


 

 



肺の動静脈瘻があるため酸素化されない血液が瘻を通過するため、進行性の低酸素血症になるため、全身倦怠感、呼吸困難、チアノーゼなどの 症状を呈します.臨床症状がなくても、軽度の低酸素血症のために多血症になっている場合が多いです.稀に胸腔内出血も起こします.重症例では、血痰(喀血)、一過性脳虚血発作、脳梗塞、脳膿瘍(脳の中に膿がたまる)、全身の膿瘍などになる場合もあり、この疾患の10%の死亡率の原因と なっています.

 

静脈側にできた血栓が(エコノミー症候群では、大きな血栓が肺動脈に引っかかるわけです)、通常は肺がフィルターになって動脈側に抜けないのですが、肺動静脈瘻があると、動脈側に抜けて、脳に血栓がつまり 脳梗塞になったり、抜歯やけがをした場合などに細菌が、静脈血に入り(菌血症になり)、さらに動脈へ入り、脳に到達して、脳膿瘍になるわけです.

 

肺の動静脈瘻は、その構造により分類され、単純型simple typeと複雑型complex typeに分けられます.単純型は肺動脈が直接、静脈性の拡張部を介して肺静脈につながった構造をしており、複雑型は数本の肺動脈が、異常血管構造を介して、数本の肺静脈につながる構造をしています.介在する異常血管構造がない場合もあり、単に栄養動脈が複数の場合を言うこともある.単純型の方が多く、約 80%の患者さんがこの構造で、20%が複雑型です.多くの肺の動静脈瘻が、下葉か中葉、または左下葉の舌部に出来ます.

 

肺の動静脈瘻の診断は、造影剤を使わないCT検査でよく分かります.肺は、空気を含んでいるため造影剤を使わなくても血管病変は、非常によく分かります.造影検査が必要であると信じ込んでいる医師もいますが、これは間違いです.ただ、非常に小さな病変を探す場合は、コントラストがさらにつく造影のCT検査を行う場合もあります.また、コイルによる塞栓術後の場合、残存シャントがあるかどうかは、造影した方が分かりやすいです.通常の1cm厚のスライスではなく、3mm程度の薄いスライル厚で、検査を行えばよく分かります.3次元CTとして撮影する時もあります.血管造影検査を行なう必要もなく、造影検査はカテーテル治療を行うときに検査します.ただし、肝臓の動静脈瘻の診断を一度に行なう場合には、造影のCT検査の方が診断能が高いために、造影のCT検査を肺から肝臓まで行ないます.

 

肺動脈の径が3mmを超える動静脈瘻は、脳梗塞や脳膿瘍の原因なり得るため治療の適応があります.もちろん呼吸不全のある人は、治療の対象です.しかし、栄養血管の径が3mm以下でも脳梗塞・塞栓症を起こす場合があるように思います.基本は、治療のリスクと予防効果のバランスで、治療適応を決めるわけですから、多くの場合、治療を行なった方が良いと考えています.肺の動静脈瘻を持つ患者さんは、歯科治療のような外科的治療を受ける場合には、予防的抗生物質投与が重要です.肺の動静脈瘻の治療後の場合も、完全にすべての瘻が閉塞されている場合以外は、やはり予防的抗生物質投与が必要とされます.また、肺の動静脈瘻による脳梗塞予防の目的のワルファリン投与は、基本的に適応はなく、本来の原因である肺の動静脈瘻を治療するべきと考えます.遺伝性出血性毛細血管拡張症の患者さんが多いので、鼻出血を呈する患者さんが多く、それでなくてもコントロールが困難なところに、ワルファリン投与されると、鼻出血がさらに止まりにくくなります.

 

肺動静脈瘻の治療は、古くは外科的切除が行われていました.しかし、 最近はコイルを使った塞栓術(血管内治療)で治療が行われるようになっています.小さな肺動静脈瘻が、時間とともに大きくなることありますが、きちんとした検査を行った時点で、肺動静脈瘻がなければ、新たに病変はできないと考えられています.


大きなシャントがある場合でも、風船のついたバルーンカテーテルを用いて、肺動脈の枝を、一時的に血流を止めて、コイルを用いた塞栓術を行ないますので、外科的手術が必要なことは、殆どないと考えます.HHTの患者さんは、通常、複数の動静脈瘻がありますが、一期的に治療を行います.左右に病変があっても、同時に治療を行います.多数の病変がある場合、治療に時間がかかることや造影剤の量も多くなることから、一回で治療が終わらないこともあります.頻度は低いですが上葉にある病変は、カテーテルを持って行くのが、下葉より難しい場合が多いです.


治療の合併症に、一過性脳虚血、脳梗塞、肺出血、喀血、下肢の静脈血栓症、塞栓物質の移動(左心室や全身の動脈系に)、カテーテル・コイルの抜去困難などが起こる可能性があります.

 

呼吸困難で発症した患者さん(写真)は、治療を行う血管撮影室まで、酸素ボンベで酸素の供給が必要でしたが、コイルで大きな肺動静脈瘻をつめたとたん、酸素の必要がなくなり、部屋に帰ると酸素無しで、晩ご飯を食べ ていたのは、主治医の私だけでなく、御本人や御家族が驚いておられました.(私は、脳神経外科医ですが、血管内治療医でもあり、遺伝性出血性毛細血管拡張症の患者さんを診る機会も多いため、循環器内科や放射線科の同僚と一緒に、肺の動静脈瘻も治療しています.子供の場合は、小児循環器内科医に参加してもらいます).

 

実際の治療例を紹介しています


手技的な観点から見ると、


  1. 箇条書き項目局所麻酔、(子供の場合は、全身麻酔)

  2. 箇条書き項目大腿静脈からのアプローチ

  3. 箇条書き項目全身の抗凝固

  4. 箇条書き項目一側の肺動脈に親カテーテルを導入

  5. 箇条書き項目必要があれば、バルーンカテーテルによる血流コントロール

  6. 箇条書き項目マイクロカテーテルを病変へ持っていく

  7. 箇条書き項目離脱型プラチナコイルによる病変の閉塞

  8. 箇条書き項目他に、病変があれば、その部位も治療


のような、流れになります.


当院で行っている治療の説明書

肺動静脈瘻の塞栓術後の再発

肺の動静脈瘻のスクリーニング:造影超音波検査

HHT関連ページへ


2007 7-12月の間に、ホームページの関連のためか、症例が集まり、12例の肺動静脈瘻の患者さんを治療しました.このような短期間に症例が集まることは、通常はありません.10例は、HHTの患者さんで、2例はHHTとは関連はありませんでした.親子で治療をした患者さんが、2組もおられました.肺だけではなく、脳の病変も治療した患者さんが御家族におられたりしました.皆さんの症状は、教科書通りで、このホームページで紹介しているそのままでした.つまり、非常にバラエティーに富んでいました.鼻血、呼吸不全、脳梗塞、脳膿瘍、肺出血、脳動静脈瘻、消化管出血、肝臓の動静脈瘻、貧血など、全てがある個人に揃う症状ではないですが、可能性があり、そのつもりで検査を進める必要があります.


2015年は、年間17件、2016年は、年間11件の塞栓術でした.


肺動静脈瘻を治療した感想ですが、多発病変であれば、すべて1日で閉塞するのは難しい.病変部位によって、比較的簡単に閉塞できるところもあれば、栄養動脈が上方、後方等に向って屈曲している場合は難しいこともある.一人の患者さんの治療中に、脳へ血栓が飛び、慌てて血栓を溶かす治療を必要としました.この患者さんは、一部脳梗塞になり、少し視野が欠ける合併症になってしまいました.治療中に脳に血栓が飛ぶ可能性もあり、肺の病変ですが、脳血管内治療医がいるところで治療するべきであると思いました.


肺動静脈瘻のYさんからの手紙


2005.7.16記、2006.6.29、2007.3.11、8.25、8.30、9.16、12.9、2008.7.16、2009.4.19、2017.7.26追記



 

左肺にある大きな動静脈瘻で呼吸不全を呈した.