喉頭・咽頭の血管腫、静脈性血管奇形
喉頭・咽頭の血管腫、静脈性血管奇形
のどや食道の入り口、つまり咽頭や喉頭に、いわゆる血管腫は良くできます.この時、注意が必要なのは、まず血管腫の意味です.あなたが、一歳以上であれば、診断は、恐らく血管腫ではなく、静脈性血管奇形 venous malformationです.海綿状血管腫と昔は言われました.一歳以下では、鑑別が難しいことがありますが、血管腫(infantile hemangioma)は、基本的に一歳を超えると(6ヶ月ぐらいからが一般的)退縮傾向が認められる、つまり小さくなって行くのが原則です.静脈性血管奇形は、病変自身の大きさは変わりません.または、血行動態が変化すると大きくなることもありますが、腫瘍ではないので、どんどん大きくなることはありません.下を向いたり、泣いたり、力んだりすると、病変が大きくなり、静かにしていると小さくなるのであれば、まず静脈性血管奇形です.この静脈性血管奇形は、咽頭や喉頭から頚部の表面まで、病変が存在することが多く、外から見えている部分は、氷山の一角を見ている場合も多くはありません.子ども(基本的に1歳以下)の場合は、真の血管腫がこの部分に出来て、稀に呼吸障害を呈することがあり、インデラール・ステロイド・インターフェロン治療や呼吸管理が必要になる場合があります.本来、子どもの乳児血管腫は、ほっておいたら小さくなる、消えていく病変ですから、気道や目を塞ぎそうな状況以外は、ほっておくのが治療です.
子供では、3歳ぐらいまでは、顔面がまだ発達していないために、口呼吸が十分に出来ません.つまり、鼻腔が十分に通っていないと、口呼吸が出来ないために、乳児血管腫であれ、静脈性血管奇形であれ、咽頭を閉塞する病変があると、窒息することになります.従って、そのような場合には、早期に気管切開が必要になります.
風邪をひくと病変によって咽頭が閉塞気味な場合、さらに閉塞気味になることがあります.従って、風邪を引かさないのがコツです.といっても、そんなことが出来るわけではないので、少しそのように努力すると御考えください.お母さんからもらった免疫力が生後半年ぐらいで、弱くなるため、2歳の頃までは、保育所等、可能な範囲で、風邪ひきさんの多い集団から離す方が良いかもしれません.
MRやCTの画像診断では、乳児血管腫と静脈性血管奇形の区別は困難なことが多いです.ともにMR検査では、T1画像で低吸収域、T2画像で高吸収域を呈します.撮像のコツは、脂肪抑制 fat suppressionを行なって撮像します.こうすれば、T2画像で病変だけが 高吸収域を呈します. ある程度の病変に大きさがあり、空気が通る気道が狭められる所見が必ず認められます. 静脈石が認められれば、まず静脈性血管奇形ですが、通常は、臨床症状(病変の大きさが変化するかどうか)を聞いて判断することが多いです.造影検査を行えば、静脈性血管奇形は、病変の一部が造影され(造影剤の投与からの時間も関係し、撮影するタイミングによっては、造影されない場合もあります)、乳児血管腫は、その時期によってことなる造影効果が得られます.増殖期には強く造影されます.また、静脈性血管奇形では、嚢胞内にいくつかの血液の水面(level formation)が認められることが多いです.
大人で、胃カメラを行なおうとしたら、大きな「血管腫」があり、カメラを入れるどころか、出血でもしたら大変だと、言われた患者さんを、治療したことがあります.この病変は、血管腫ではなく、静脈性血管奇形でした.気管切開をして、病変、つまり静脈性血管奇形にアルコールを注入しました.結構、患者さんにとって大変な治療でした.気管切開したのは、治療時に病変が腫れて窒息しては困るからです.短期間に2回治療を行い、病変は小さくなっていますが、病変は広範囲にあり、今も病変と共存されています.治療から15年以上たちますが、出血したことは一回もありません.もう一方、同じような治療を行い、14年以上外来で、診ている患者さんも一度も出血はしたことはありません.しかし、覗くと静脈性血管奇形の一部が、咽頭粘膜から顔を出しており、ひっかくなどの外傷を加えると容易に出血する病変と思われます.病変の外、つまり喉頭や咽頭に出血することはあまりないですが(全くないとも言えません)、静脈性血管奇形内が血栓化して、病変が大ききなることがあります.血栓化をあまり知らない医師は、出血していると判断します.しばらくすると、血栓は解けて、もとの病変の大きさに戻るのが普通です.血栓化している時に、痛みや違和感を感じます.
上記のような咽頭静脈性血管奇形の患者さんを、何人か外来で長い間、診察していますが、その間に、見るから大きくなった患者さんや出血した患者さんは一人もいません.一時的、血栓化の方はおられます.逆に、耳鼻科の先生に、大手術をしなければならないと説明され、セカンドオピニオンで来られ、帰っていかれた患者さんもいます.私は経過を見てはどうですかと言いました.(この関東の方は、どうされたか不明ですが).
喉頭・咽頭の静脈性血管奇形も、大きさ、症状等、様々であると思います.論文では、出血も症状の一つとして書いてありますが、実感としてあまり起こるような症状ではないように思っています.ただ、ひとつ言えることは、あまり自分で経験がないのに、この病気は、非常に稀であるとか、出血したら窒息しますよ、と患者さんに告げるのはまずいように思います.それは事実と異なるからです.
我々は、保存的な経過観察と硬化療法の経験しかありませんが [1]、最近では、レーザーによる治療も報告されており、複数回の治療を必要としますが、患者さんとっては、侵襲が小さく、病変の大きさや範囲によっては、いい適応かもしれません [2, 3].また、レーザー治療と外科的治療の組み合わせもあります.
咽頭部静脈性血管奇形 「耳鼻咽喉科・頭頸部外科」に掲載 [1]
文献
1.石黒友也、小宮山雅樹、中野友明、他:呼吸障害で発症した乳児咽頭部静脈性血管奇形の1例. 耳喉頭頸 82:291-294, 2010
2.Kishimoto Y, Hirano S, Kato N, et al: Endoscopic KTP laser photocoagulation therapy for pharyngolaryngeal venous malformations in adults. Ann Otol Rhinol laryngol 117:881-885, 2008
3.Eivazi B, Wiegand S, Teymoortash A, et al: Laser treatment of mucosal venous malformations of the upper aerodigestive tract in 50 patients. Laser Med Sci 25:571-576, 2010
2007.3.6記、2008.1.4, 2008.7.1, 2008.12.24, 2010.9.28、2012.2.28、2016.5.9、2017.10.2 追記