静脈性血管奇形

顔面・頚部の「血管腫」と診断されている病変のかなりの数が、静脈性血管奇形 venous malformationです.ISSVA分類を使うのは、臨床の場では、常識になっています.国際的に、共通の言葉(分類)はこれだけです.

 

下を向いたとき、力んだとき、朝方に腫れて、それ以外は、腫れがよくなる.触ると小さな硬い石が触れる.(静脈石と言います).この石が月日とともに数が増える.決して小さくはならない.病変から出血することはない.生まれた時から、表面から見える場合もありますが、遅れて現れるのが通常です.

 

以上の特徴があれば、静脈性血管奇形です.CTやMRIや、ましてや血管撮影(カテーテル検査)など必要はありません.診断だけであれば、これで十分ですが、病変の広がりを見るためには、MRIが非常に有用です.ただ、いくらMRIをもってしても、血管腫と静脈性血管奇形の区別はできません.ともにMRIでは、同じ色合いを示すからです.(造影のMRI検査をすれば、血管腫は強く造影をされます).画像診断よりも病歴(患者さんまたは親御さんからの情報)の方が大事なわけです.ただ、血管腫や他の血管奇形には静脈石はありません.あまり静脈性血管奇形に詳しくない医師、特に脳神経外科医が診察すると カテーテル検査を行ないがちですが、この疾患の経験があまり‘ないのが原因です.しかし静脈性血管奇形は、実は、珍しい疾患ではなく、かなりの頻度で見られ、全身で考えると最も高頻度の血管奇形です.

 

静脈性血管奇形は、外傷、出血、ホルモンの影響などのため、急に病変が大きくなることがあります.血栓性静脈炎・血栓性閉塞を起こせば強い疼痛を起こします.

 

血管撮影を行なえば、その動脈相は正常であり、静脈相で葡萄の房に似た静脈腔の一部が認められることがあるが、一般的には何も写りません.血流が病変に動脈経由であまり入って行かないので、写らないわけです.つまり診断にカテーテルによる動脈撮影をする意味はありません.

 

静脈性血管奇形には、硬化療法が症例によって有効ですが、何回か繰り返さないと十分な効果が得られないことが多いです.また、完全に病変を摘出するのではないので(摘出できないことも多く)、再発することも少なからずあります.時間が経つと、元の状態になることも少なくありません.塞栓物質には、ブレオマイシン、エタノール(無水アルコール)、オルダミン、ポリドカノールが主に用いられます.

 

ブレオマイシンは、本来は悪性腫瘍に投与するお薬ですが、静脈性血管奇形の一部には有効です.これを病変内に注入します.局所麻酔や全身麻酔下で、ブレオマイシンを注入しますが、注入自身に痛みはありません.効果が出るには複数回の注入を必要とすることもあります.他の薬剤と比較して、ブレオマイシンの投与では局所の腫脹はさほど高度には起りません.ブレオマイシンは、積算で大量に投与をすると、肺線維症や間質性肺炎の合併症が起こることがあり、トータルで、150-300 mgになると注意が必要ですが、静脈性血管奇形への一回の投与量は通常、10-15 mg程度で、多くはないですが、繰り返し治療を行う場合には注意が必要です.


エタノールは内皮細胞に永久的な障害を引き起こします.オルダミン(ethanolamine oleate)は、陰イオン系界面活性剤で、下肢や食道・胃の静脈瘤の硬化剤として使用されており、静脈性血管奇形にも使用されるようになりました.ポリドカノールも本来は、下肢の静脈瘤に使う塞栓物質が、流用されています.

 

エタノールやオルダミンの注入時にかなりの局所痛(shooting pain)がありますが、持続はしないため、大人の場合は、局所麻酔で治療は可能ですが、全身麻酔で治療するほうが多いです.ポリドカノールは、痛みは、少ないので、局所麻酔下で使用が可能です.硬化療法後、患部の腫脹や疼痛がみられるためステロイドを使用します.病変の腫脹は、塞栓術の12-24時間後にピークになり、1-2週間ほどで消退します.腫脹の程度が高度なほど塞栓術は効果的であり、逆に腫脹が軽度であると効果は小さいです.

 

起こりえる合併症は、皮膚壊死と末梢神経麻痺です.他にショックやアレルギー反応もあります.舌の静脈性血管奇形の塞栓術においては、舌前部に病変がある場合には、問題は少ないですが、舌後部に病変がある場合は、気道の確保が重要で、術前に気管切開をするか、集中治療室で病変の腫脹が減少するまで気管内挿管したまま術後管理する必要があり、治療は簡単ではありません.

 

家族性で、全身の皮膚、筋骨格系、泌尿生殖系、消化器系に静脈性血管奇形ができるblue rubber bleb nevus syndrome またはBean症候群があります.また頭蓋内の静脈血管奇形の合併が認められたり、この病変と頭蓋外の頭頸部の血管奇形に交通性が認められたりする場合もあり、complex cranio-facial malformationと呼ばれます.


静脈性血管奇形に凝固異常つまり局所の血栓形成や出血傾向が出ることがあります.病変が特に、筋肉にある場合には血栓化により痛みが出る事が良くあります.局所の血管内凝固異常 local intravascular coagulopathy (LIC) が全身の播種性の血管内凝固異常 disseminated intravascular coagulopathy (DIC) に進展すれば大出血の危険性が高くなることがあります.このような凝固異常は、顔面・頚部の静脈性血管奇形には多くはありませんが、体幹や四肢の静脈性血管奇形では、約半数にあるとされます.D-dimerやfibrinogenの血中レベルを時々、血液検査します.普段から、凝固異常があるかないかを知っておくことも重要です.ですから、比較的大きな静脈性血管奇形を持つわたしの患者さんは、コントロールの意味もあり、症状の有無にかかわらず、凝固系の検査・貧血の検査を時々しています.


例えば、普段から凝固異常があり、D-dimerの上昇やfibrinogenの減少がある患者さんは、外傷・手術・妊娠、出産といった刺激が加わった場合、この凝固異常が顕在化し、出血が止まり難いような状況が考えられます.侵襲の大きな手術や出産に関しては、そのような事態への準備が必要です.


静脈性血管奇形と凝固異常


咽頭部の静脈性血管奇形



Mazoyer M, et al: Coagulation disorders in patients with venous malformation of the limbs and trunk: a case series of 118 patients. Arch Dermaltol 144:861-867, 2008


 

2005.1.1. 記 2005.1.10、2011.3.14、2011.10.4 、2014.2.12、2014.10.9、2015.5.15、2022.12.6  追記


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