血管腫と心不全
通常は、特別に治療を必要としない血管腫も、治療を必要とする場合があり、別項で紹介しました.
その中に、心不全があり、新生児期に問題になり、それ以降にが問題になることはありません.つまり、重症の心不全は、新生児期にしか起りません.一度、軽快した心不全が、後日、再燃することもありません.
血管腫を栄養するため多量の血液が血管腫に向かうため、右心系に負荷がかかり、右心不全になります.この右心負荷や右不全は、新生児期に発症するガレン大静脈瘤や硬膜動静脈瘻の場合に起こる右心負荷や右不全とメカニズムは同じです.
血管腫は、ある時期に来たら、(通常1歳を超えたら)、腫瘍の大きさは小さくなってきます.つまり、血流が減少し消えていきます.新生児期や乳児期にある程度の大きさの血管腫がある場合、軽度の心負荷があるのは普通ですが、心不全を呈することは、新生児期を除きありません.また、心不全のない患者さんに新たに心不全が出現する可能性はありません.
もし、右心負荷や右不全を軽減するためには、血管内治療(塞栓術)は非常に有効です.それは、内科的な治療よりも血流を低下させることに関して、即効性があるからです.新生児期に心不全が高度の場合、思い切った塞栓術をしなければ、心不全を乗り切ることが出来ない場合が多いと考えられます.また、この治療は、繰り返し行なうことも可能です.
塞栓術で使用する塞栓物質は、コイル、粒子、アロンアルファーです.栄養動脈をコイルだけでつめることもありますが、あまり有効ではありません.その理由は、閉塞した動脈の末梢に、あらたに血流を供給する経路がすぐに形成されるからです.私たちは、ポリビニルアルコールという固形の粒子物質を使います.その大きさは、100-300ミクロン程度で、正常な筋肉や皮膚の壊死が起こらないような配慮が必要です.またアロンアルファーのような液体の塞栓物質を使うこともあります.
通常、大腿動脈からカテーテルを入れて、病変部の動脈まで持っていき、上記の塞栓物質を注入します.特殊な場合は、見えている病変そのものに針を刺して、塞栓物質を入れることもあります.
急性期の状態の悪い時の塞栓術に、長い時間をかけることもできず、造影剤の量も制限されるので、その治療は簡単ではありません.
左図:塞栓術前の血管撮影(矢印が腫瘍*で、後頭動脈1が脳を栄養する内頚動脈2より太いのが分かる)
右図:塞栓術後の血管撮影(塞栓物質が詰り、血管腫描出が悪くなっている)
この新生児の症例は、軽度の心負荷があり、他院での生検が潰瘍になったため、塞栓術を行ないました.治療から7年が経過し、今では元気な小学生です.皮膚の感じは正常と少し異なりますが、髪の毛に隠れ、外見は全く分からなくなっています.
2006.10.31記、2009.1.22、2010.9.15 追記