ガレン大静脈瘤

ガレン大静脈瘤は、頭蓋内血管奇形の1%とされる稀な血管病変です.これは小児脳血管奇形の30%にあたります.治療方法の進歩で、生命予後は向上しても、機能予後が不良の症例もあり、今後治療の適応も考えていく必要があります.ガレン大静脈瘤には、直静脈洞の欠損・形成不全や大脳鎌洞、後頭静脈洞の遺残が合併することがあります.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

A. 発生学的背景及び血管構築

 

いわゆる“ガレン大静脈瘤”には、正常に発生した真のガレン大静脈が拡張したvein of Galen aneurysmal dilatation (VGAD)と発生学的にガレン大静脈ではなく胎生期の静脈で12週までに消退するはずの前脳正中静脈 median vein of prosencephalonが遺残して拡張したvein of Galen aneurysmal malformation (VGAM)があります.臨床症状や治療方法が異なるためこの両者の鑑別は重要です.この前脳正中静脈は原始内大脳静脈 primitive internal cerebral veinとも呼ばれ、発生初期の終脳の脈絡叢の導出静脈であり、胎生10週頃までに一対の原始内大脳静脈に置き換わります.退縮した前脳正中静脈の頭側の一部がvein of Galenとして残存し原始内大脳静脈と交通性を持ちます.


一言でいいますとガレン大静脈瘤は、発生の初期、胎生6-11週のころの血管構造が、残存し、そこに動静脈シャントがある状態です.この発生の初期は、脈絡叢によって脳(神経管)は、拡散いよって栄養されています.なんらかの理由・刺激・環境要素があり、動静脈シャントが形成され、その頃の血管構築つまり動脈や静脈の構造が、ずっと残った形態をしています.

 

ガレン大静脈瘤 (VGAM) は、動静脈瘻が瘤 aneurysmal sacそのものにあるmural typeと、介在する動脈のネットワークを介して瘤 aneurysmal sacとつながるchoroidal typeに分けられます.深部静脈系との交通性はないのが原則です.VGAMは、正常な脳静脈還流に関与していないため経静脈的に瘤内塞栓が可能です.VGADは、AVM、硬膜動静脈瘻が原因で二次的にガレン大静脈が拡張したものであり、深部静脈系と交通があるため経静脈的塞栓術は、原則的に禁忌とされます.

 

VGAMの栄養血管は、anterior and posterior choroidal arteries、posterior pericallosal artery、middle cerebral artery, circumferential artery、mesencephalic arteryです.Lenticulostriate artery、anterior and posterior thalamoperforating arteryがshunt部位に向かう場合もあります.栄養血管と拡張した静脈瘤間には、arterial mazeと呼ばれるnidusに似た構造がある症例もあり、動静脈奇形によるVGADとの鑑別が重要です.VGAMとVGADの血管構築上の他の鑑別点は、中脳を貫通するtransmesencephalic arteriesとdeep venous drainageが前者にはなく、後者で存在することです.このVGAMとVGADの血管構築上の鑑別も、近年、概念が少しずつ変わってきました.VGAMでも深部静脈との交通のある症例が報告されるようになり、以前はVGADに分類されていた病変との鑑別が困難となり、Choroidal cisternで、vein of Galenに直接つながるAV shuntがあれば、深部静脈との交通性にかかわらずVGAMと考えるグループも出現しています.

 

B. 臨床症状

 

新生児期発症のVGAMは高度の心不全を合併しており、多くはchoroidal typeです.小児期発症のVGAMの多くはmural typeで、水頭症、頭囲拡大、軽度の心不全、痙攣等で発症し、さらに年齢が上がると、局所神経症状、頭痛、くも膜下出血が主な症状となります.

 

C. 治療

 

治療には、保存的治療、直達手術、血管内手術、定位的放射線治療があり、個々の患者の症状、血管構築を考え治療方針をたてます.Mural typeの病変であれば、直達手術でも治療が可能の場合がありますが、choroidal typeの手術は難しく、VGAMの直達手術の死亡率は33.3-91.4%と報告されています.血管内手術により、VGAMの治療成績は飛躍的に向上しましたが、大きな動静脈シャントがあり新生児期に心不全を呈する症例は、最も治療が難しく 、逆にシャントが小さい場合には治療を必要としない症例もあります.出生前にエコーで診断された症例でも、必ずしも新生児期に治療が必要とは限らず、患者の臨床症状でその適応を決めます.現在では直達手術よりも侵襲の少ない血管内手術が治療の第一選択と考えられています.定位的放射線治療は、治療効果が出るまで時間がかかるため、治療の第1選択にはなりませんが、年長児の治療を急がない症例には治療のオプションとなります.

 

病変への到達ルートは、経大腿動脈と経大腿静脈があります.現在では、まず経動脈的塞栓術が行われ、栄養血管まで到達できないときに経静脈的ルートが選択されることがあります.塞栓物質には、経動脈的塞栓術にはNBCA(アロンアルファーと同じと考えていいです)やプラチナコイルが用いられ、経静脈的塞栓術にはコイルが用いられます.

 

一回の経静脈的塞栓術の終了目標に明確なものはないですが、複数回の段階的治療が薦められます.少しの短絡血流低下でも臨床症状の改善が認められることが多いです.VGAMでは深部静脈系との交通性はないですが、急速に動静脈短絡を閉塞すると(特に導出路を閉塞すると)急性脳浮腫、視床出血、脳室内出血、クモ膜下出血を起こす場合があります.これは、未熟な脳室下のgerminal layerに出血が起こりやすいこと、また視床穿通動脈の領域にperfusion pressure breakthroughが起こるためと考えられています.

 

D. 水頭症

 

VGAMの約47%の症例に水頭症を合併し、その多く(73%)は幼児、年長児の症例です.水頭症や頭囲拡大が起こるメカニズムは、中脳水道の圧迫ではなく、hydrodynamicsの異常によると考えられています.脳室ー腹腔シャントは、脳室穿刺の時に拡張し動脈化した脳室上皮層にある静脈から出血するのが主な原因とされています.水頭症の治療は、まず血管内手術で動静脈シャントを減らすべきです.

 

E. 治療成績

 

Lasjauniasらの120例のVGAMの経験では、出生前診断が24例あり、50例が新生児症例、35例が幼児症例、12例が年長児症例でした.12例でfollow-up出来ず、21例に治療の適応がありませんでした.5症例が自然に血栓化しました.78例に経動脈的塞栓術を行ない、血管撮影上の治癒は38症例で可能でした.治療を行った患者(78例)のうち、47症例が正常に成長し、10例が一過性の脱落症状を呈しました.6例が本来の病気のための神経学的脱落症状を残し、3例が術後の永続する脱落症状を呈し、7症例が死亡しています.

 

治療成績は、もちろん治療そのものや患者さんの管理能力(治療をする側の因子)に依存しますが、それよりも、患者さん自身の症状・状態によるところが大きいです(患児側の因子).つまり、状態の良い患者さんは、その予後は比較的良好ですが、心不全の高度な新生児の患者さんの治療は困難なことが多いわけです.出生前に診断されても、心不全がなかったり、心負荷が軽度の場合は、予後は良好です.ガレンの大静脈瘤であるから、どの患者さんも予後が悪いと考えるのは間違いです.管理・治療が、簡単でないことは事実ですが、この頻度の低い疾患に対して、情報を共有して、その治療成績を向上させるべく努力しているところです.


ガレン大静脈瘤 の患者さんの御両親に、さらに次のお子さんが出来た場合、同じ疾患がそのお子さんにも現れる可能性は殆どないと考えられます.


ガレン大静脈瘤と関連遺伝子


ガレン大静脈瘤と自然血栓性閉塞


わたしが書いた短いがレン大静脈瘤の論文 → ガレン大静脈瘤.pdf






2012年3月に出版したこの本の表紙の画像は、choroidal typeのガレン大静脈瘤のCTによる血管撮影像です.


3回の治療で、動静脈シャントが完全に消失した沖縄のS君は、もうすぐ6歳になる元気な男の子です.






 




参考図書

小宮山雅樹:神経脈管学、メディカ出版、大阪、2012


2004.12.31記、2006.7.17、2007.2.20、2008.1.31、2012.7.24、2014.11.6 追記


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新生児のガレン大静脈瘤のMR画像