頭頚部の血管異常: 血管腫と血管奇形

1. 分類

 

表在性のcongenital vascular anomalyは、血管性腫瘍 tumor血管奇形 malformationを含 めた先天的な多様な血管病変birthmarksを指す.しかし、これらが、すべて血管腫 hemangioma と呼ばれてきたために混乱を来してきた.つまり「血管腫」という用語は使う人により異なる 病変を指し、共通の言葉がなかった.1982年にMullikenとGlowackiが、臨床症状、病理組 織所見、自然経過により「血管腫」と呼ばれてきた病変を、血管腫hemangiomaと血管奇形 vascular malformationの2グループに分類した1).ここで言う血管腫は、内皮細胞の急速な 増殖期があり、これに続く緩徐な退縮期があることが特徴である.これとは対照的に、血管奇 形は内皮細胞の増殖を伴わない血管構造を特徴とし、決して退縮することはない.

 

MullikenとGlowackiの分類を基本とし、1996年のローマでのthe International Society for the Study of Vascular Anomalies (ISSVA)の会議で、血管性腫瘍と血管奇形に分類するISSVA の分類が承認された(表1).現在は、このISSVAの分類に従って診断・治療を行うのが主流 である.

 

2. 血管性腫瘍 (vascular tumor)

 

A. 血管腫 infantile hemangioma

 

小児期で最も高頻度の良性腫瘍であり、30%の症例で出生時に認められ、多くは出生後の数週 間以内に出現し、1歳まで増大し、その後、数年間で退縮していく.男女比は1:3、未熟児に やや多いとされる.「血管腫」と呼ぶ場合は、このinfantile hemangiomaに限定するべきであ る.その臨床経過は、増殖期proliferating stage (8-12ヵ月)、退縮期involuting phase (1-12年)、end-stage (線維脂肪組織として残存) の3時期に分けられる.苺状 (strawberry)、 毛細血管性 (capillary)、海綿状 (cavernous)血管腫などと歴史的に呼ばれてきたが、それら の明確な定義が無く、このような用語は使うべきではない.血管腫のsubtypeを、部位により superficial, deep, mixedと分類する.superficialの病変に対するレーザー治療は、経過観察 のみとほぼ同等の予後であるとする報告が最近出たため、その適応はcontroversialである2). 90%以上のinfantile hemangiomaは、経過観察 (wait and see policy)のみで特に治療は必要 としない.この例外は、alarming hemangiomaとも呼ばれ眼・鼻・口・気道・耳などの 圧迫や閉塞症状、出血・潰瘍・心不全などのある症例で、何らかの治療を必要とする. corticosteroid投与が治療の主流であり、30-80%の症例で有効とされるが、副作用のリスク もある.他にinterferon alphaの投与も行われる.

 

B. Hemangiomaのvariants

 

Congenital hemangiomaは、rapidly involuting congenital hemangioma (RICH)と noninvoluting congenital hemangioma (NICH)の2つのvariantに分けられる.両者は、胎内で成長し出生前に増殖のピークを迎えている.外見は紫色で毛細血管拡張も認められる.RICH は、生後6-10か月で急速に自然退縮するが、NICHは自然退縮しない.

 

C. 他の血管性腫瘍

 

kaposiform hemangioendothelioma (KHE)とtufted angioma、化膿性肉芽腫pyogenic granuloma, 血管周皮腫hemangiopericytomaがある. KHEとtufted angiomaは、多くの Kasabach-Merritt現象の原因である.infantile hemangiomaは、Kasabach-Merritt現象 の原因にはならない3) . 治療は困難な場合が多く、corticosteroid, interferon alpha, vincristine投与, 塞栓術などが行われる.化膿性肉芽腫は、化膿性病変でも肉芽腫でもなく、 易出血性の病変であり、切除や電気焼灼法で治療される.

 

3. 血管奇形 (vascular malformation)

 

血管奇形は、生下時から存在し、dysplastic vesselより構成され、内皮細胞は正常であり、病 変自体は退縮せずに、患者の成長と比例して大きくなる.必ずしも生下時に血管奇形が気付か れるわけではない.毛細血管・静脈・動脈・リンパ管などを構成成分とし、動静脈瘻を伴うこ ともある.血管奇形は、血行動態によりslow-flowとhigh-flowに分けられる.

 

A. 毛細血管奇形

 

毛細血管奇形には、port-wine stainsとtelangiectasiaがある.レーザー治療が適応となるこ とがある.

 

B. 静脈性血管奇形

 

表在性の病変は拡張した静脈腔が青色を呈し、Valsalva手技や体位により病変が拡張する. Collapsibleな病変であり、静脈石が触知できることがある.外傷、出血、ホルモンの影響など のため、急速に病変が大きくなることもある.動脈撮影ではavascular massであり、その診 断に動脈撮影の必要はなく、臨床所見のみでも診断可能であるが、病変の深部への進展を見る ためには、MR検査と病変を直接穿刺する造影が有用である.直接穿刺による造影で、この静 脈腔が認められる.塞栓物質にはエタノールとオルダミンが用いられる. 23Gの翼状針を用い、 病変を直接穿刺し、血液がゆっくり返ってくることを確かめる.造影剤をゆっくり注入し、病 変の範囲、cavity全体の造影に必要とする造影剤量、造影剤のclearanceをみる.多房性病変 の場合、抜針せずに次々と別の翼状針を用いて、何カ所も穿刺する.エタノールは内皮細胞に 永久的な障害を引き起こす4) . エタノールとlipiodolを混ぜ造影能を持たせるか、非イオン性 造影剤で約70-80%濃度にする.オルダミンはかなり粘張で、その作用は、血管内膜細胞障害 と血栓形成である.複数回の塞栓術を必要とすることが多く、長期的には再発の可能性も低く はない.起こりえる合併症は、皮膚壊死と末梢神経麻痺である.

 

C. 動静脈奇形

 

動静脈奇形は、生下時より存在するものの顕在化しておらず、その後の外傷、感染、そして二 次性徴や妊娠などのホルモンの変化、医原性要因などを契機に増悪することが多い.60%の症 例で、出生時から生後1か月以内に病変が顕在化する.動静脈瘻には先天性と後天性があるが, 後天性の血管病変は,血管奇形とは区別した方がよい.男女比は、1:1.5で女性に多い.これ らの病変は熱感を持つ拍動性の腫瘤として認められる.動静脈奇形の診断には、血管撮影が必 須である.臨床症状の分類には、Schobingerのstagingが使われる(表2).動静脈奇形の治 療は最も困難であり、その適応は、重篤な美容的理由や出血、疼痛、潰瘍などであるが、治癒 を望めない場合も少なくない.治療には、保存的治療、塞栓術、摘出術、塞栓術+摘出術があ る5,6) . 動静脈奇形の全摘出は、病変が小さい場合を除き、困難で不可能な場合が多い.その ため軽症の症例や子供の症例は、保存的治療が薦められる.栄養血管の結紮は、症状を悪化さ せるばかりでなく、その後の塞栓術を不可能にするため、また病変の境界の評価を困難にする ので避けるべきである. 摘出術前の塞栓術には、コイルやpolyvinyl alcohol (PVA)などを用い、塞栓術のみで治療する ときは、エタノールやn-butyl cyanoacrylate (NBCA)などを用いる.PVAによる塞栓術のみ で治癒することはなく、いずれ再開通により再発する可能性が高く、繰り返し塞栓術を行う必 要がある.エタノールやNBCAは皮膚壊死、脱毛や脳神経麻痺の合併症の可能性があるが、再 開通は少なくより効果的である.経動脈的塞栓術だけでなく直接穿刺法、経静脈的塞栓術も行 なわれる.塞栓術にひき続く摘出術には、再建手術を必要とすることが多く、形成外科医との 協力が必須である.塞栓術を術前に行うことによっても切除範囲を小さくするべきではない. これは、残存病変からの再発の可能性があるからである.塞栓術と広範切除、さらにtissue expanderによるlocal flapを使った再建術を積極的に行った報告でも治癒は約60%である6) . 創の一次的閉鎖が出来ない場合は、皮膚移植を行い、時間が経って再発がないことを確認し、 二次的な形成術を行う場合もある.この疾患の予後、現在可能な治療とその限界を患者自身に 説明・教育することが重要であり、精神的な面でも有用である.治癒という場合には、長期の follow-upの後で、血管撮影で病変が認められない場合を言い、治療直後の血管撮影では、残 存病変の評価は困難な場合がある.このため「治癒」という代わりに「コントロールされてい る」と言った方がより現実的である.

 

D. リンパ性血管奇形

 

1歳までに顕在化し、70-80%は頚部に認められ、macrocysticとmicrocysticに分類される. 嚢胞の内容は、タンパク質に富んだ液体で、静脈成分も多くあることよりlymphovenous malformationと呼ばれることもあり,出血が認められたり、感染すれば膿が認められたりす る.外科的摘出術が適応であるが,症例によっては静脈性血管奇形と同じ方法で、直接穿刺に よる塞栓術またはそれに続く外科的摘出術が適応となる.

 

 

参考文献

 

1. Mulliken JB, Glowacki J. Hemangiomas and vascular malformations in infants and children: A classification based on endothelial characteristics. Plas Reconstr Surg. 1982; 69: 412-20.

 

2. Batta K, Goodyear HM, Moss C, et al. Randomised controlled study of early pulsed dye laser treatment of uncomplicated childhood haemangiomas: results of a 1-year analysis. Lancet. 2002; 17;360(9332):521-7.

 

3. Enjolras O, Wassef M, Mazoyer E, et al. Infants with Kasabach-Merritt syndrome do not have "true" hemangiomas. J Pediatr. 1997; 130: 631-40.

 

4. Yakes WF, Luethke JM, Parker SH, et al. Ethanol embolization of vascular malformations. Radiographics. 1990; 10: 787-96.

 

5. Bradley JP, Zide BM, Berenstein A, et al. Large arteriovenous malformations of the face: aesthetic results with recurrence control. Plast Reconstr Surg. 1999; 103: 351-61.

 

6. Kohout MP, Hansen M, Pribaz JJ, et al. Arteriovenous malformations of the head and neck: natural history and management. Plast Reconstr Surg. 1998; 102: 643-54.

 

 

1: The International Society for the Study of Vascular Anomalies (ISSVA) の分類(一部改変).

 

Vascular tumors

 

Hemangioma of infancy

 superficial, deep, mixed

Congenital hemangioma

 Rapidly involuting congenital hemangioma: RICH

 Noninvoluting congenital hemangioma: NICH)

Kaposiform hemangioendothelioma (KHE)

Tufted angioma


Pyogenic granuloma (lobular capillary hemangioma)

Hemangiopericytoma

 

Vascular malformations

 

Simple malformation

 Capillary

 Venous

 Lymphatic (microcystic, macrocystic)

 Arteriovenous malformation

 

Combined malformations

Capillary-lymphatic-venous

Capillary-venous

Capillary-venous with arteriovenous shunting and/or fistula

Cutis marmorata telangiectatic congenita

 

2: 動静脈奇形のSchobinger staging

 

Stage I: cutaneous blush/warmth

Stage II: bruit, audible pulsations, expanding lesion

Stage III: pain, ulceration, bleeding, infection

Stage IV: cardiac failure


参考図書

小宮山雅樹:神経脈管学、メディカ出版、大阪、2012

 

2005 5 18記


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