カサバッハ-メリット現象
Kasabach-Merritt Phenomenon, Kasabach-Merritt Syndrome
カサバッハ・メリット現象、カサバッハ・メリット症候群
1940年に放射線科医のKasabach MMと小児科医のMerritt KKによって初めて報告された症候群(現象)で、小児の血管腫に血小板減少、溶血性貧血、凝固異常などが合併するの特徴で、出血や感染、多臓器不全などで、当時は12-24%の患者が死亡するとしています [1].彼らの報告は、’capillary hemangioma‘つまり毛細血管性血管腫という病名で報告されていますが、実際は、血管腫ではなく、後で出てくる kaposiform hemangioendothelioma (KHE)という病変についてを報告していました.
多くの小児期の血管腫が、自然に消退する良性の臨床経過をたどる中で、このカサバッハ・メリット現象を起こす病変は、非常に治療が難しく予後不良です.どのような病変(血管腫)が良性の経過をたどり、どの病変(血管腫)がこのカサバッハ・メリット現象を起こすかは、良く分かっていませんでしたが、病理学的にkaposiform hemangioendothelioma (KHE) とtufted angioma (TA)がこの現象を起こすことが分かってきて [2]、実際、この2つの病変は、同じ物であると考えられるようになってきました. kaposiform hemangioendotheliomaは、カポジ型血管内皮細胞腫と訳されます.
治療は、ステロイド投与、オンコビン(抗がん剤の一種)投与、 インターフェロン投与、 プロプラノロール投与、ラパマイシン(シロリムス)などの内科的治療があり、これらの治療に抵抗を示す場合は、血管内治療(経動脈的塞栓術)を行なうことが あります.必要があれば血小板輸血や血漿輸血も行なわれます.一つの治療法に固執するのではなく、他科と協力しながらいろいろな治療を試みる必要があります.過去の論文では、放射線治療が有効であったとするものもありますが、長期の利点・欠点を考えると、放射線治療は、現在は受け入れられていません.理由はいろいろありますが、主な理由は将来の二次性の悪性腫瘍の発生の可能性、照射部位の成長障害などの可能性があるからです.
幼児血管腫 infantile hemangiomaでも、プロプラノロールの投与の有効性が多く報告されるようになり、Kasabach-Merritt syndromeでも、同様の治療を行い、有効な症例の報告があります [4].しかし、実際は無効という考えが最近は主流です.kaposiform hemangioendotheliomaやtufted angiomaが良性と悪性の中間的な組織であるとの報告がありますが、いままで見てきたカサバッハ-メリット症候群の患児は、通常の小児の血管腫と臨床像はかなり異なるものの、最終的に落ち着き、皮膚の色彩がやや異なる等が残りますが、殆ど分からなくなっていることが多かったです.その意味で、悪性という要素は、活動期には血液学的に見て悪性であり、癌や肉腫を思わす悪性という所見はありません.血管腫が一歳を超えて活動性であることはありませんが、このカサバッハ-メリット症候群を呈する病変は一歳を超えたも活動性である場合があり、また稀に大人でも報告があります.
カサバッハ-メリット現象を呈するkaposiform hemangioendothelioma (KHE) またはtufted angioma (TA)は、性差はなく、人種の差もないとされ、家族発生の報告もないことから、遺伝的な要素は少ないと考えられています [5]. 年齢は、一歳未満が81%、平均年齢は2ヶ月で、四肢に43%、頭頸部が18%、死亡率は3%とされています [7].
kaposiform hemangioendotheliomaで起こる現象は、血小板減少が主体であり、静脈性血管奇形やBEAN症候群で起る凝固異常が主体の病態と異なると考えられ、後者をカサバッハ-メリット現象とは呼ばない方がよいと思われます.
静脈性血管奇形でも、病変が大きかった場合、凝固異常による出血傾向が出る場合があります.これは凝固因子の局所消費によって起こる現象で、カサバッハ-メリット現象が血小板の現象を主体とする病態なので全く異なる病態であり、その治療も全く異なるため、鑑別が重要です.
2006.3.22の時点で、カサバッハ-メリット現象の患児を、4人経験しました [3].他に、2人のコンサルテーションを受けました.治療の主流は、ステロイドとオンコビンという薬剤を使う化学療法、に インターフェロンやプロプラノロール、さらに抗血小板薬などが使われます.どの薬剤が効果的かは、患児毎に異なり、同じ患児でも、時期によって効果が異なるため(つまりある時期ステロイドが効いても、その後効かない場合もあります)、試行錯誤が繰り返されます.一進一退の血液データや薬の副作用をどうするか悩みながら、時期を過ぎると、血液データも良くなるような経過が多かったように思います.私の専門である塞栓術の役割は、以前ほどではないように思っています.(でも、必要ならいつでも行うように、小児血液内科の先生といつも相談しています).
最近の治療の進歩
ステロイド+ビンクリスチン:この組み合わせを治療の第一選択とするガイドライン [4] がある.
インデラール(プロプラノロール):乳児血管腫での有効性の報告は多数あるが、カサバッハ・メリット症候群における有効性はないとされる.
mTOR阻害薬(シロリムス):ここ数年、有効症例の報告が増えてきている [6, 7].ただ、第一選択にはならない.
実際の症例の紹介(病変は右上肢にあった)
小児慢性特定疾患センターのカサバッハ・メリット症候群のページです.
このページは、文責は日本脳神経血管内治療学会になっていますが、私が書いています.
参考文献
1.Kasabach HH, Merritt KK: Capillary hemangioma with extensive purpura: report of a case.
Am J Dis Child 59:1063-1070, 194
2.Enjolras O, et al: Infants with Kasabach-Merritt syndrome do not have "true" hemangiomas.
J Pediatr 130:631-640, 1997
3.Komiyama M, et al: Endovascular treatment of huge cervicofacial hemangioma complicated by Kasawach-Merritt syndrome. Pediatr Neurosurg 33:26-30, 2000
4.Hermans DJJ, van Beynum IM, van der Vijver RJ, et al: Kaposiform hemangioendotheliom with Kasawach-Merritt syndrome: a new indication for propranolol treatment. J Pedatr Hematol/Oncol 33:e171-e173, 2011
5. Drolet BA, et al: Consensus-derived practice standards plan for complicated Kaposiform hemangioendothelioma. J Pediatr 163:285-290, 2013
6.Wang Z, Li K, Dong K, Xiao X, et al: Refractory Kasabach-Merritt phenomenon successfully treated with sirolimus, and a mini-review of the published work. J Dermatol 42:401-404, 2015
7. Chinello M, Di Carlo D, Olivieri F, et al: Successful management of kaposiform hemangioendothelioma with long-term sirolimus treatment: a case report and review of the literature. Mediterr J Hematol Infect Dis 10:e201843, 2018; http://dx.doi.org/10.4084/MJHID.2018.043
参考図書
小宮山雅樹:神経脈管学、メディカ出版、大阪、2012
2004.3.14記、2006.3.22、2006.8.28、2008.10.31、2009.1.22、2011.6.13、2013.10.26、2015.5.15、2017.3.3、2018.11.15 追記