小児の血管腫:そのレーザー治療について

小児の血管腫は、ほっておいても自然と退縮していきます.そのため、この疾患に対するレーザー治療には、いろいろな考え方があり、専門家の間でも意見は一致しません.生まれてきたお子さんに血管腫があり、生後1週間から一ヶ月頃からどんどん大きくなっていくのを見る親御さんの不安は想像に難くはありません.この時期に、的確なアドバイスをしてあげる必要があります. つまり、レーザー治療の有効性は定まっていないこと、多くの症例で、自然に退縮していくことの説明が必要です.

 

これに関して、2002年にLANCET(かなり重要な論文しか掲載されない医学雑誌です)に血管腫に関する重要な論文が掲載されました.これまで、レーザー治療が、効果があった、なかったという、あまり実証性のない、経験の報告がしかなかったのですが、科学的にレーザー治療をする患者さんとしない患者さんを2群に、無作為に分けて検討をした報告です.下にそのサマリーを載せます.結論だけを言うと、レーザー治療の有用性を認めなかったということです.

 

この結果に関しても、賛否両論があるようですが、この論文の事実を覆す事実はありません.従って、現在、小児の血管腫の治療に対するレーザー治療の有用性は、認められていないということになります.しかし、これに関しては、異論もあるのが現状です.小児の血管腫のお子さんを持つ御両親が、レーザー治療に関して医師の意見を聞いたときに、この論文の事実を説明してもらい、それでもその医師はレーザー治療が有効と信じる場合は、その説明をお聞きになり、レーザー治療を受けるかどうか、決められたら良いと思います.

 

何が何でもレーザー治療が、必要であるという医師・病院には要注意でしょう.レーザー治療自身、痛みを伴いますし、治療費もかかります.病院側からいうと収益にも関係してきますから、単純に医学的な論議だけでその治療適応が決定されていなことも、御両親は知っておく方がいいかもしれません.恐らく、保険給付の厳しいアメリカでは、この論文の発表後、レーザー治療はされなくなっているように思います.


血管腫とは異なる毛細血管奇形には、ポートワインステイン port-wine stainsと毛細血管拡張症 telangiectasiaがあり、場合によっては、広い意味の(使い方は間違っていますが)血管腫と呼ばれている場合があります.この場合、レーザー治療が有効とされています.後者の場合、自然退宿せず基本的には生後も見た目の変化は大きくありません.しかし、血管腫は自然退宿するため、臨床的に異なることが分かります.


 

合併症のない子供の血管腫に対する早期の色素レーザー治療の有効性に対する無作為比較試験:一年後の結果

 

はじめに:小児期の血管腫の治療における色素レーザー治療の役割りは論議のあるところです.我々の研究の目的は、色素レーザー治療と経過観察という治療方針を比較することです.

 

方法:生後1−14週の早期の血管腫を持つ121人の子供を前向きに無作為に2群に分け検討しました.60人が色素レーザー治療を受け、61人が保存的治療(経過観察)を受けました.そして1歳まで経過を観察しました.評価項目は、完全に消失または僅かな残存になる率、色素沈着や皮膚の萎縮を含む副作用、潰瘍や感染の合併症、血管腫が問題であると考える御両親の率、血管腫の性状、5組の御両親による血管腫の問題に対する別個の評価です.分析は、包括解析で行いました.

 

結果:すべての患児は1年間の研究を終了しました.1歳時に完全に消失または僅かな残存になる率は、レーザー治療群と経過観察群で有為差はありませんでした(25, 42%, vs 27, 44%; p=0.92).しかし、レーザー治療群を受けた患児の方により皮膚の萎縮 (17, 28%, vs 5, 8%; p=0.008)と低色素沈着(27, 45%, vs 9, 15%; p=0.001)が認められました.合併症率は両群同じでした.レーザー治療による客観的改善は血管腫の赤さだけでした.1歳時に血管腫を問題と感じる御両親の数は両群で差はありませんでした(11 of 60, 18%, vs 9 of 61, 15%; p=0.78).別個の御両親の評価委員会もこの結果を正しいとしました.

 

結論:合併症のない血管腫に対するレーザー治療は、経過観察という方針に対する優位性はない.

 

Batta K, Goodyear HM, Moss C, Williams HC, Hiller L, Waters R:

 

Randomised controlled study of early pulsed dye laser treatment of uncomplicated childhood haemangiomas: results of a 1-year analysis. Lancet. 2002 Aug 17;360(9332):521-7.

 

INTRODUCTION: The role of pulsed dye lasers (PDL) in the treatment of childhood haemangiomasis controversial. Our aim was to compare treatment with PDL with a wait-and-see policy.

 

METHODS: We did a prospective, randomised controlled trial in which we enrolled 121 infants aged 1-14 weeks with early haemangiomas. We assigned infants to PDL treatment (n=60) or observation (n=61), and followed them up to age 1 year. The main outcome measures assessed were proportion of lesions completely clear or with minimum residual signs, adverse reactions, including pigmentary disturbance and skin atrophy, complications such as ulceration and infection, proportion of children whose parents considered the haemangioma a problem, characteristics of the haemangioma, and an independent assessment of the haemangioma problem by a panel of five parents. Analysis was by intention to treat.

 

FINDINGS: All infants completed the study. The number of children whose lesions showed complete clearance or minimum residual signs at 1 year was not significantly different in the PDL treated and observation groups (25, 42%, vs 27, 44%; p=0.92). However, PDL treated infants were more likely to have skin atrophy (17, 28%, vs 5, 8%; p=0.008) and hypopigmentation (27, 45%, vs 9, 15%; p=0.001). The frequency of complications was similar between groups. The only objective measure of resolution that improved with PDL treatment was haemangioma redness. The number of children whose parents considered the haemangioma to be a problem at 1 year did not differ much between groups (11 of 60, 18%, vs 9 of 61, 15%; p=0.78). The independent parent panel validated this result.

 

INTERPRETATION: PDL treatment in uncomplicated haemangiomas is no better than a wait-and-see policy.

 

2005.5.14 記 2006.11.5追記


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