静脈性血管奇形と凝固異常
大きな静脈性血管奇形や多発性の静脈性血管奇形の場合(患者には血管腫と説明されていることが少なくありません)、病変内の鬱滞した血流部位(blood stagnation)で凝固系の亢進が起こっており、local intravascular coagulopathy (LIC)と呼ばれ、血液学的にはfibrinogenの減少(消費)、D-dimerの上昇、FDPの上昇があるが、血小板数は、原則的に正常か軽度減少がみられます.
局所の凝固異常であるLICが、全身に波及した場合にはdisseminated intravascular coagulopathy(DIC)となります.Fibrinogen減少と第5因子の減少が重なった場合、PTが延長します.大きな病変の場合、慢性的な凝固異常(chronic LIC)があり、これに硬化療法、部分的切除術、外傷、骨折、長期の不動化、月経、妊娠、出産などの因子によって、さらに凝固系が悪化し、疼痛や重篤な出血傾向、止血困難による大出血が出現することがあります.出血は、静脈性血管奇形と異なる部位に起こることもあります.病変が、上肢にあるのに、自然分娩時に全く病変のない子宮・膣からの出血が全く止まらず、大出血になった患者さんを私は、二人知っています.静脈性血管奇形がある若い女性には、私は症状がある、ないに関わらず、凝固系の検査を普段から行なっています.症状がなくても、凝固異常がデータであれば、外傷や出産時に、出血が問題になることを説明します.逆に、知らずに手術や出産すると、命に関わる出血を起こすことがあり要注意です.
これらの状態の基本的な治療は弾性包帯 elastic compressionなどによる圧迫と低分子ヘパリン low-molecular-weight heparin (LMWH) の投与です.抗血小板療法や経口抗凝固薬は効果がありません.つまりLIC/DICで起こっている出血を止めるためには抗凝固薬のheparinが必要です.これらlow flowの血管奇形で起こる凝固異常は、血管性腫瘍であるkaposiform hemangioendothelioma(KHE)やtufted angioma(TA)に起こるKasabach-Merritt現象とは現象も治療も全く異なるため、鑑別が重要です.Kasabach-Merritt現象は血小板減少がその本態であり、血管奇形には起こりません.Kasabach-Merritt現象には、シロリムスが著効することが最近は分かっています.
静脈性血管奇形による凝固異常とKasabach-Merritt現象の違い
表は、文献 Mazoyer 2002から
凝固系の亢進した静脈性血管奇形の治療
表は、文献 Dompmartin 2008 から
Mazoyer E, Enjolras O, Laurian C, et al: Coagulation abnormalities associated with extensive venous malformations of the limbs: differentiation from Kasabach-Merritt syndrome. Clin Lab Haem 24:243-251, 2002
Mazoyer M, et al: Coagulation disorders in patients with venous malformation of the limbs and trunk: a case series of 118 patients. Arch Dermaltol 144:861-867, 2008
Dompmartin A, Acher A, Thibon P, et al: Association of localized intravascular coagulopathy with venous malformations. Arch Dermatol 144:873-877, 2008
2015.5.15 記、2015.5.18、2022.12.6 追記