皮膚の毛細血管奇形と脳動静脈奇形・瘻の合併

Capillary malformation-arteriovenous malformation (CM-AVM)


毛細血管奇形 - 動静脈奇形



毛細血管奇形 capillary malformation (CM)はポートワインステインport-wine stainとも呼ばれ、最も頻度の高い血管奇形です.(写真の矢印は、右上腕と左大腿にある 毛細血管奇形です).生まれつき、ある場合もありbirthmarkとも呼ばれます.多くの場合は非遺伝性の孤発例ですが、多発性で遺伝性を有する場合もあり、その中で動静脈奇形AVMや動静脈瘻AVFを合併するものはcapillary malformation - arteriovenous malformation (CM-AVM)といった新しい概念で考えられています.


このCM-AVMは常染色体優性遺伝(50%の確率で、子供に遺伝子が伝わります)をし、RASA1遺伝子の突然変異 mutationが原因とされています.さらに1肢の肥大とその部位の皮膚の毛細血管奇形、皮下および筋肉内の動静脈瘻を特徴とするParkes Weber syndrome (PKWS)もRASA1の突然変異が関係していることが分かってきました.RASA1遺伝子は第5番染色体の長腕の5q13.3に遺伝子座があり、RASA1によって規定されるタンパク質は、細胞の成長、増殖、分化などをコントロールするRAS p21を抑制しています.しかし、CM-AVMの臨床症状を持つ患者さんでも、その1/3 の方で、RASA1遺伝子変異が認められないとされています.2015.1.20時点で、当院で見ているCM-AVMの7家系の検査では、5家系でRASA1遺伝子変異があり、2家系(29%)で変異はありませんでした.


CM-AVMにおける毛細血管奇形は通常のものとはやや異なり、大きさは1cmより小さく、円形から卵円形で、色調はピンク色で、時に赤色、褐色、灰色を呈し、不規則な位置に多発性に認めることが多いとされます.半数の病変では周囲に白色のhaloを伴っており、また拍動は触れませんが病変は暖かく、超音波検査で流速の増加を認めるものもあります.しかしこの皮膚病変が出血や潰瘍を形成するようなことはありません.


CM-AVMの患者さんの30%の動静脈のシャント病変があるとされ、その2/3 つまり患者さんの20%に動静脈奇形・瘻があるとされ、残る1/3、つまり患者さんの10%はPKWSを合併すると言われています.PKWSにおける動静脈シャントは、患肢に小さなシャントが多数認められ、特徴的なポートワインステインも認められます.


合併することがある頭蓋内の脳動静脈奇形・瘻は大きなシャントmacrofistulousで、出生時もしくは生後1年以内に症状を呈することが多いです.また、ガレン大静脈瘤 vein of Galen aneurysmal malformationの合併も報告されています.頭蓋外にもAVMは認められます.PKWSに合併することも知られています.


現在、血管奇形の中で原因遺伝子が明らかになっている疾患がいくつかあり、それらの原因遺伝子はいずれも血管新生因子や血管新生抑制因子と関連があります.脳動静脈奇形・瘻といった脳動静脈シャント疾患で原因遺伝子が明らかになっているものには遺伝性毛細血管拡張症 hereditary hemorrhagic telangiectasia (HHT)のendglin 遺伝子やALK1 遺伝子、phosphatase and tensin homolog (PTEN) hamartomatous tumor syndromeのPTEN 遺伝子、そしてCM-AVMのRASA1遺伝子が挙げられます.これらの疾患はいずれも特徴的な皮膚所見を有していますが、それは一見して分かるものから、注意深く診察しないと見つからないものまで様々です.これらの疾患に対する認識は遺伝性毛細血管拡張症に対しては高まってきていますが(これも十分ではないですが)、CM-AVMやPTEN hamartomatous tumor syndromeに対しては非常に低いのが現状です.しかしいずれも家族性・遺伝性の可能性があるため、このような脳動静脈奇形・瘻症例では皮膚所見にも注意を払い、積極的に家族にも問診や診察を行う必要があります.


CM-AVMでの皮膚所見である毛細血管奇形のbirthmarkは、この皮膚の病変と関連し、脳に動静脈奇形や動静脈瘻の存在を示唆する赤旗 red flagと言われています.複数個の皮膚のbirthmarkがあったり、家族や親子でそのような皮膚病変を持つ場合には、脳の病変がないか、是非、検査を行なった方がいいでしょう.また、すでに、脳の動静脈奇形や動静脈瘻と診断されて、治療を受けた方でも、多くの脳神経外科医は、このCM-AVMを知らないので、注意が必要です.

       
       









この患者さんの小脳にある動静脈瘻です. 


2回の塞栓術で、病変は消失しました.









参考文献


Revencu N, Boon LM, Mulliken JB, et al: Parkes Weber syndrome, vein of Galen aneurysmal malformation, and other fast-flow vascular anomalies are caused by RASA1 mutations. Hum Mutat 29:959-965, 2008


Brouillard P, Vikkula M: genetic causes of vascular malformations. Hum Mol Genet 16:R140-149, 2007


Revencu N, Boon LM, Mendola A, et al: RASA1 mutations and associated phenotypes in 68 families with capillary malformation-arteriovenous malformation. Hum Mutat 34:1632-1641, 2013


2009.12.9記、2010.3.19、2011.9.28、2014.5.15 、2014.6.24、2015.1.20 追記


Top Pageへ