新生児の脳動静脈シャントに対する脳血管内治療

はじめに


小児の脳血管奇形の中で、新生児期に治療が必要になる疾患には、ガレン大静脈瘤(vein of Galen aneurysmal malformation: VGAM)、硬膜動静脈瘻(dural arteriovenous fistula: dural AVF)、脳動静脈瘻・奇形(pial arteriovenous fistula and malformation: pial AVF and AVM)がある [3, 6, 7].小児期の硬膜動静脈瘻は、dural sinus malformation、infantile dural AV shunts、adult dural AV shuntsの3つに分類されるが、出生前や新生児期に症候性になるのは、dural sinus malformationである.nidusを伴ったpial AVMが新生児期に症候性になることは稀である.逆に、新生児期に症候性になる疾患は、その疾患によらず右心系のoverloadによる心不全で発症し、この心不全から腎不全や肝不全となり、全身状態の悪化につながること [10].中枢神経系の疾患以外では、 頭頚部、四肢や肝臓の血管腫(infantile hemangiomaのproliferating phase)も同じメカニズムで心不全を呈することがあるが、アプローチは同じである [8].今回、この「新生児期」の脳血管病変にテーマを絞り、その病態や治療について論じてみたい.


胎児循環


新生児の呼吸・循環不全を理解するためには、胎児循環の理解が必要である.母体と胎盤を介してガス交換と栄養素の供給が行なわれる.胎児の左右の内腸骨動脈から分岐する2本の臍動脈が、胎盤へ血液を運び、逆に胎盤からは太い1本の臍静脈を介し、多くは静脈管(Arantius管、ductus venosus)を介して下大静脈へ、残りは門脈から肝臓へ運ばれ、さらに肝臓から肝静脈を介し下大静脈へ血液が入る.臍静脈と静脈管には動脈血が流れるが、臍動脈も含め、他は混合血が流れる.心房中隔にある卵円孔を介して右心房から左心房へ血流が流れ、出生後、左心房圧の上昇とともに心房の一次中隔が二次中隔に押し付けられ(卵円孔弁が右に押され)機能的に閉塞する.また肺動脈幹と大動脈を結ぶ動脈管(Botallo管、ductus arteriosus、1.25 cm長)を介し下行大動脈へ血液を送るが、肺そのものには血流は殆どない.動脈管は出生後の数日の間に閉塞し、結合組織に変わる.また胎児のガス交換は、酸素の親和性の高い胎児ヘモグロビン(hemoglobin F)が活躍する.


出生前の診断 antenatal diagnosis


出生前の診断は、その簡便さと非侵襲性から超音波検査が主体で行なわれる.妊娠が判明すると、産科医により2週間ごとの超音波検査が行われ、胎児の成長、胎盤の状況や奇形の合併等が検査される.正常妊娠では、胎児の体重は、27週で1000 g、33週で2000 g、35週で 2500 g程度になる.妊娠の初期に、先天性腫瘍(血管腫を含む)、二分脊椎、脳血管奇形が発見されることはなく、通常、早くても妊娠24週以降に認められることが多い [1].脳血管病変が疑われると、胎児の成長、脳血管奇形の種類、心負荷・心不全と程度、頭囲、水頭症の合併、他の合併奇形などが検索されるが、妊娠の第3期(third trimester)にならなければ、質的評価をするのは困難な場合が多い.通常は、出生後に顕在化する血管腫が、出生前診断され、心負荷が認められることもある.脳血管病変では、B-modeの超音波検査だけでなく、color Dopplerやpower Dopplerで病変内の血流を検出することにより、腫瘍性病変と血管奇形を鑑別する.ガレン大静脈瘤とdural sinus malformationが、出生前に認められることもあり、血流は前者では、rapid flow(MR でflow void)であるが、後者では、slow, turbulent flow(MRでflow voidとflow enhancement)なことが多く、注意深く血流を検出しなければ脳腫瘍との鑑別が困難である.超音波検査に加え、胎児MR検査を適宜追加する.胎児MR検査では、母体と胎児の動きを出来るだけ押さえ、また短時間で撮像するように撮像シーケンスを選択する.


出生前の治療 antenatal treatment


心負荷・心不全を呈する胎児の治療目的で、母親に胎盤を通過するdigitalisの投与をすることもあるが、胎児に対する効果はさほど期待できない.母体の活動性があがると胎盤への血流が低下し、胎児の状態悪化につながる場合がある.実質的に胎児に対する治療がない現時点で出来ることは、胎児・胎盤の安定を図る目的で、母体の安静(入院の上の安静)を図る.また、新生児の脳血管内治療を含めた周産期管理が可能な施設へ相談し、転医させる.出産直前の移送(母体搬送)よりも、時間の余裕を持って転医を行ない、治療チームを作り、集学的治療を行なう.入院管理を出生前の一定の期間行ない、胎児モニター:胎児心拍数図(fetal heart rate monitoring: FHR)や胎児心拍数と子宮収縮を並列に経時的に記録した胎児心拍陣痛図(cardiotocogram:CTG)をおこなう.通常、胎動の際に胎児は生理的に一過性頻脈を呈する.我々は、多くの場合、胎児の成長や心負荷の状態を見ながら、予定出産(帝王切開)を妊娠36週以降に設定することが多く、その1週間前ぐらいに入院管理をするが、胎児の状態次第で、その前でも母親を入院させ胎児モニターを行なう.


出産方法・管理 delivery


出生児体重が、2500 g未満の場合には、低出生体重児と呼び、4000 g以上を巨大児と呼ぶ.合併疾患のない低出生体重児の管理は、新生児科neonatologyでかなり進歩しているが、脳血管奇形の合併した児の治療は、出来るだけ体重が増加し、呼吸が安定している時期の方が安全であることから、可能な限り妊娠36週頃まで出産を引き延ばす.これより前に、出産すると脳病変の治療をするよりも、低体重児そのもの(呼吸循環異常)に対する治療が必要で、脳血管病変の治療まで持って行けない可能性が高くなる.合併病変がない場合には、妊娠36週を過ぎれば、呼吸機能もかなり安定してくる.


経膣分娩 vaginal deliveryと帝王切開 cesarian sectionの適応に、決まったものはないが、院内にスタッフが揃った状態で予定出産scheduled deliveryが可能であり、medico-legalな観点からも帝王切開による出産が選択されることが多い.帝王切開の麻酔には、全身麻酔と脊髄麻酔が可能であるが、前者の場合、患児が麻酔薬の影響でfloppy baby syndromeを呈する.出生後の大腿部の血管からのカテーテル治療を考えると出生時体重が2500 g以上あることが望ましい.同じ2500 gの出生時体重の児であっても、下肢(大腿)の発達は様々である.出生前から脳動静脈シャント量が多いと、下行大動脈への血流が不十分であり、下肢の成長が身体の他の部位に比較して遅れることがあり、体重に見合う下肢の発達がない場合には、大腿動脈が非常に細い.この場合は、4F シースを挿入することが、血管径から不可能な場合が出てくるため、頚動脈への直接穿刺を含めた別ルートからのアクセスを考慮する [5].


出産と同時に、直接児に対する治療が必要となるため、チーム医療や必要な検査が行いやすい週の前半に出産を設定するのが賢明である.緊急に治療が必要な場合もあるので、週末では治療が行ないにくい場合がある.また、血管内治療に必要な特別なdevice(カテーテル、ガイドワイヤー)や塞栓物質(各種コイル、NBCA)を事前にアレンジをしておく.


新生児期の脳動静脈シャントの病態生理


出生時に新生児に認められる呼吸循環不全を主徴とする症候群を、新生児仮死 asphyxia of newbornと呼び、それには多くの原因がある.その中に大きな動静脈シャントをもつ脳血管奇形も含まれる.新生児で仮死がなければ、血圧45-50 mmHg以上、心拍数100/分以上、呼吸数40-60/分はある.


頭蓋内に動静脈シャントがあっても、出生前の胎児循環の環境では、心不全が顕在化することは少ない.また母体に症状が出ることはない.この時点で胎児に心不全があれば、かなり重症例であり、出生しても治療は困難な場合が多く、またその生命予後や脳の機能予後は不良である.心不全が高度な場合は、胎児水腫 hydrops fetalisと呼ばれ、出生前に胎児死亡することもある.重症例では胎児超音波検査で、胸水・全身の皮膚の浮腫が認められる.動静脈シャントのために、出生前にすでに慢性脳虚血による脳軟化cerebromalaciaが存在する場合もある.出生前の胎盤循環において肺循環は高抵抗(high resistance)であるが、出生とともに肺呼吸が始まれば、肺抵抗が低下し(low resistance)、頭蓋内の動静脈シャントによる右心負荷がかかり右心不全を呈する.動脈管開存、卵円孔開存など胎児循環の遺残や肺高血圧症、右心不全、頻脈、三尖弁閉鎖不全、不整脈を伴うことがある.出生直後には、動脈管開存と卵円孔開存は当然存在し、前者は正常では、数日以内に自然閉塞していくが、後者は生理的にも長期間残存する.200/分に近い心拍数の増加や1回拍出量の増加で心筋負荷が増加し、さらに拡張期圧の低下は、冠動脈血流の低下につながり心筋虚血、これによる弁の閉鎖不全(どの弁にも起こりうる)も起こり、やがて左心不全も起こる.つまり両室不全になる.シャントの量の多い場合は、拡張期に大動脈血流の頸動脈へ逆流(引き込み)が起こるため、下行大動脈への有効な血流は少なく、臓器そのものは異常がないにも関わらず、腎臓・肝臓・腸管などへの血流は非常に不良であり、無尿・腎不全を伴う.右心負荷のため静脈圧は高く、肝不全を伴い、肺高血圧のため呼吸不全を起こす.新生児の肺は、未熟のためさらに呼吸不全が進行する.肺界面活性物質(サーファクタント)の質的・量的欠乏による肺胞虚脱による呼吸障害は呼吸窮迫症候群(respiratory distress syndrome: RDS )と呼ばれる.また低酸素血症により、脳・心臓・副腎への血流を保とうとするが、腸管・腎臓・四肢(筋肉・皮膚)へは血行不全となり、嫌気性解糖が進み代謝性アシドーシスとなる.肝機能障害で、出血傾向・血小板現象など凝固系異常も伴う.静脈系の圧亢進は、髄液循環不全を起こし、脳の正常発達を障害し、巨頭症、水頭症、稀にはキアリ奇形(小脳扁桃の下垂)を合併することになる.この時期はpacchionian granulationの発達が未熟であるため、髄液の吸収の多くは、脳表の静脈から吸収されるため、静脈系の圧亢進(venous hypertension)は髄液の吸収機能の低下をもたらす.脳障害は、静脈性梗塞や脳萎縮・石灰化の形をとりmelting brain syndromeといわれる.通常、arterial steal phenomenonが原因ではなく、静脈系の問題であり、比較的急速に進行する.病変は両側、左右対称に起こる.melting brain syndromeは、ガレン大静脈瘤では、出生前や新生児期に起こり、硬膜動静脈瘻では、新生児期や早期の乳児期に起こり、動静脈奇形では、乳児期以降に起こることが多い [10].出生時の石灰化や痙攣は、既に高度の脳障害があることを示す.髄鞘化障害から脳の成熟障害が起こり、高次脳機能障害につながる.


出生後の評価と治療適応  perinatal evaluation and treatment indication


出生時にはApgar scoreによって新生児の状態が評価される.このスコアは、1952年に女性医師のVirginia Apgarによって提唱されたが、その頭文字をとって、Activity, Pulse, Grimace, Appearance, Respirationをチェックすると覚える.心拍数(pulse)、呼吸(respiration)、反応性・反射(grimace)、筋緊張(activity)、皮膚色(appearance)の5項目である.出生後、1分と5分の時点でチェックするが、点数が低い場合には10分後にも再チェックする.各項目で、0,1,2の点数が付けられ加算される.従ってApgar scoreは0-10点の間にある. 1分値は出生直後の呼吸不全の程度を、5分値は神経学的な予後を反映するとされるが、児の麻酔・神経疾患などによっても影響される.


他にneonatal ischemic encephalopathyを評価するシステムとして、1976年に発表されたSarnat and Sarnat system (stage 1-3)や他にMiller system (total score 0-6)がある.これらの評価システムはある程度、神経機能の予後との関連が示されている.


Lasjauniasら [9,10]の提唱するNeonatal Evaluation Scoreがあり、これは、心機能、呼吸機能、脳機能(凝固系も含む)、肝機能、腎機能を21点満点で評価する.低スコアー(7点以下)は、治療の適応はないとし、高スコアー(13点以上)は待機治療とし、その中間は、迅速な血管内治療 emergency interventionを提唱している.ここで、出生前を含め、脳出血、脳萎縮、脳梗塞等の、脳障害が認められる症例は、他の機能が問題なくても治療適応外(7点以下)としている.脳機能は正常であるが、他の全身状態が非常に悪いという状態は少なく、多臓器不全があると脳神経系の機能予後も不良とされる.言い換えれば、全身状態が悪ければ、多くの場合、救命できても脳障害が残存する.新生児期の重症心不全は、通常、出生時に認められ、出生2週以降に新たに(de novo development)臨床上問題になることはないとされる.画像上、石灰化があれば慢性的な脳虚血(venous hypertension)を示し、予後は不良である.この石灰化は新生児期にでも認められることもあるが、これをもって治療の適応なしとするほど予後が不良かどうかは予測できない.ヨーロッパと日本では、障害を持つ子供に対する考え方も異なり、倫理的な観点も考慮しながら慎重に治療適応を決めることが必要である.実際、Lasjauniasら [9]は、317症例のガレン大静脈瘤症例で、67例は治療適応なしと判断し、新生児症例の140例中の45例(32%)にあたるとした.実際に治療適応ありとされ、治療が行なわれた23症例の長期予後は、良好17%、やや精神発達遅延26%、高度遅延4%、死亡52%であった.これは、全身状態がさほど悪くない症例のみを治療対象(patient selection)にしても新生児の治療予後は、決して良くないことを示している.


脳血管奇形に心奇形の合併は多くないが、それを含め小児循環器内科医による呼吸循環器系の評価を行なう.心奇形、弁の逆流、動脈管の開存、その血流方向、大動脈の血流、その逆流(引き込み)、肺高血圧、腎動脈の血流、頚静脈や大静脈の血流などを評価する.


脳の画像評価は、まず超音波検査で、脳障害(出血、梗塞、萎縮)の有無、水頭症、シャント量の評価を行なう.適宜、CTやMR検査を追加するが、出生前にMR検査が施行されている場合には、検査室に連れて行くリスクもあり、超音波検査を主体に考える.全身状態が安定すれば、MR検査による評価が望ましい.カテーテルによる血管撮影の適応は、診断目的ではなく、必要があれば血管内治療時に治療と同時に行なう.


新生児期の治療 neonatal treatment


治療選択には、内科的治療、外科的治療、血管内治療が考えられるが、新生児期に外科的治療は侵襲が大きく、第一選択にはならず、強力な内科的治療を行いながら、必要があれば血管内治療を考慮する.血管内治療の時期の決断は、必ずしも容易ではない.血管内治療には、経動脈的塞栓術と経静脈的塞栓術があるが、その選択にも決まったものはない.しかしLasjauniasらの経験から経動脈的塞栓術を中心に治療を考えて行くことが主流である [9].何故、経動脈的塞栓術の方が良いかに関しては、出血性の合併症が少ないことが挙げられる.治療に必要な時間も短く、造影剤の量も少量ですむ利点もある.しかし新生児期にhigh flowの動静脈シャントに対して塞栓術を行うことが手技的にも容易でなく、高度な技術が要求される.また、主に使われる100%に近い高濃度のNBCAによる合併症の可能性も高くなる.DSA下では、80%濃度のNBCAでも認識可能である.経静脈的塞栓術では、急激な動静脈シャントの閉塞によるsubependymal anastomosisの鬱滞からの出血を避けるべく、段階的な閉塞を考慮する.経静脈的塞栓術の場合、コイルを主体とした治療になるため、血流を有効まで減少させるには、大量のコイルを使用することとなり、医療経済学的な問題が出てくる.また、手術時間も長時間になる.内科的治療や血管内治療に対する反応が十分でないときには、合併する心奇形や動脈管開存も疑う.動脈管開存症例で、左→右シャントがある場合には、脳血管内治療の前に動脈管閉鎖術を先行させる場合もある.


造影剤の量の極量に関しては、6 mL/kgとも言われるが、新生児で体重が3 kgとすると、造影剤の極量は18 mLとなる.腎不全のない場合は、この量を超えても問題のない量であるが、preloadの減少や代謝性アシドーシスによる有効腎血流の減少による腎不全があるため、動静脈シャントを減らし、preloadを増加させアシドーシスを改善させなければ、大量の造影剤は、さらに腎機能を悪化させる可能性がある.このような場合、造影剤を使った数日後にまだ腎盂に造影剤が残存するようなことが起こる.血管腫のような腫瘍性病変の塞栓術では、通常PVAのような粒子性塞栓物質を用いて塞栓することが多いが、新生児期にPVAを造影剤に混ぜて注入する場合に、造影剤の量が多くなるため注意が必要である.当然であるがコイルは造影剤なしでも透視下で確認可能なのが特徴である.治療により心不全が改善すると、一連の腎不全、肝不全、弁の逆流、肺高血圧等も改善する.治療前に無尿であっても、比較的早期に尿が流出するようになる.


血管内治療のタイミングと目標


治療のタイミング、言い換えれば therapeutic windowを決めるのは簡単ではない.治療を行なっても正常な精神発達よりは遅れる場合でも、その程度は多様であり、早期にその脳機能の予後を予測することや治療を行なわない決定 therapeutic abstentionを行なうことは現実には困難な場合が多い.胎児がmacrocraniaを呈する場合、その原因がガレン大静脈瘤の場合には予後は不良とは限らないが、dural sinus malformationの場合には予後不良のことが多いとされる [10].明らかに予後が悪い可能性が高い場合でも、欧米のように「治療の適応はない」とすることが出来ない本邦では、治療適応は慎重に検討するべきである.また人工流産 therapeutic abortionが法律上可能な時期に、脳血管奇形が胎児診断されることは殆どないので、日本では診断されれば妊娠を継続することになる.予想される予後を、両親と相談しながらその後の治療方針を決定する.


出生前や新生児期に脳血管奇形が診断された段階で、緊急の治療がすぐに必要だと考えるのは間違いである.出生後、しばらくしてからの血管内治療の治療適応やその時期に関しては、Neonatal Evaluation Scoreが参考になる [10].しかし、出産直後に、高度の心不全がある場合には、脳機能や肝機能を正確に評価することは困難である.この場合、Lasjauniasらは治療適応なしとしている.出生前からのエコー検査の所見を参考にしながら、遅滞ない治療時期の決定が必要である.要するに動静脈シャントの程度により、右心負荷、そして心不全・呼吸不全・無尿が起こり、さらに全身状態が悪化するため、それらをいかに客観的に評価するかの問題である.出生前でも、出生直後でも、超音波検査での右心負荷の程度が最も客観的な評価である.脳障害をすでに起こしているような場合は、重篤な右心負荷・心不全が認められる.重症例では、時々刻々と全身状態が変化する可能性があり、その点を念頭において治療に当たる.時期的に不必要な超早期治療を行なうことには問題があるが、その超早期治療が許容範囲のリスクで行なわれるのであれば、患児の心不全は改善するため、大きなマイナスにはならない.しかし、一方で治療のタイミングを逃せば、心不全から全身状態の悪化で、本来助けられた患児を、助けられない状況も発生する.この点を良く考慮し、最終的な治療のタイミングを新生児科医と小児循環器内科医と相談しながら決定する.


治療の最終的な目標は、患児の神経学的な欠落なしでの正常な成長normal developmentあり、血管構築の正常化 anatomical cure、つまり病変の消失ではない [9].根治が困難な状況も多く、病変と共存しても、正常な脳機能の発達が重要である.従って新生児期の治療目標は、この時期の心不全を主とする全身状態の改善であり、必要があれば繰り返し治療を行なう.初期のシャント減少の目標は、1/2から1/3とされ、この程度でも全身状態の改善が得られる場合が多い.つまり、次の治療につなげる程度の動静脈シャントの減少を新生児期の治療の目標とする.動静脈シャントをある程度減少させるだけで、アシドーシスや低酸素症の改善、呼吸循環機能の改善が得られることが多い.新生児期に治療を繰り返す必要がある場合もあり、その遅滞ない決断は重要である.治療の有効性と脳機能発達の時期を考慮し、必要があれば次の治療を生後5ヶ月頃に考慮する [9].


血管内治療のアクセスルート


可能性のあるアクセスルートは、大腿動脈、大腿静脈、臍動脈、臍静脈 [2]、頚動脈 [5]、頸静脈が考えられるが、基本は、大腿血管からのアプローチである.それが不可能な場合には、他のルートを考慮するが、臍血管からのアプローチに固執して時間を使うのは得策ではない.ただ、臍血管を確保できるのは、出生後しばらくの間に限られるため、特に低体重児では、その確保に努めても良いと思われる.出生前の場合は、帝王切開時にある程度の臍帯の長さを確保する.大腿静脈でも治療時のシース留置により同側下肢の虚血が起こることがある.いずれにせよ下肢の皮膚色が悪くなればそのルートを直ちに抜去する.


水頭症


水頭症は、新生児期よりも乳児期以降に認められることが多いが、出生前を含め、どの時期にでも認められる.出生前や新生児期に脳実質障害は画像で描出されにくいため、脳虚血による脳萎縮による脳室拡大と水頭症の鑑別は困難な場合がある.水頭症について考える場合には、新生児・乳児期の髄液循環について、まず考える必要があり、髄液の生成、移行、循環、吸収は大人と全く異なること、かつこれに動静脈シャントが加わると、さらにその循環は複雑である [10].新生児期は、髄液吸収を行なう上矢状洞近傍のgranulationは未発達であり、脳実質(脳髄質静脈 medullary vein)から主に髄液吸収が行なわれる.動静脈シャントがあると、脳静脈洞の圧は高くなり (venous hypertension)、脳室から脳表に向かう髄液の圧差 (ventriculo-cortical gradient)が無くなり、髄液吸収が悪くなり、脳室の拡大が起こり、脳圧も亢進する.これらにはpacchionian granulationの発達、頭蓋内静脈系の側副路の形成(中大脳静脈から海綿静脈洞への逆行性のルート: cavernous sinus capture、海綿静脈洞から眼静脈・顔面静脈へのルート、海綿静脈洞から翼突静脈叢へのルート、下錐体静脈洞の開存状態)、原始脳静脈洞の遺残(occipital sinusやmarginal sinus)、S状静脈洞の発達(閉塞状態)、頚静脈孔の発達などの多数の要素が複雑に絡み合って決まる.ガレン大静脈瘤における水頭症の成因に関して、venous hypertension(hydrovenous mechanism)と中脳水道の閉塞 (obstructive mechanism)の両者の可能性が論議されるが、前者が主な原因と考えられており、実際に中脳水道が閉塞していることは殆どないとされる.VP-shuntでは、病因はまったく治療されず、その手技自身に出血性合併症が多いことから、まずは動静脈シャントを治療対象とする.しかしVP-shuntが必要な症例があることも事実である.動静脈シャントがあり、S状静脈洞の狭窄・閉塞が加わり、後頭蓋窩の静脈流出の側副路の発達が不十分であると小脳の静脈のstagnationが起こり、扁桃下垂 tonsilar herniationが起こる.


血栓形成と凝固系の異常


脳血管奇形が、治療前や治療後に血栓形成と凝固系の異常を来すことがある.いわゆる Kasawach-Merritt現象である.本来は、血管腫に合併する現象であるが [4]、脳血管奇形、特に硬膜動静脈瘻で合併することが知られている.検査データで、貧血、血小板減少、fibrinogen減少、FDP増加、PT延長、APTT延長を呈する.血小板減少が、主体の現象であり、病変によって貧血を合併する場合とそうでない場合がある.大きなdural ectasia を合併するdural sinus malformationでは、自然経過において、また治療経過でもKasawach-Merritt現象を合併することがある.ガレン大静脈瘤での合併は少ない.新生児期には、jugular bulbは発達しておらず(dysmaturation)、occipital sinusやmarginal sinusの遺残があればconfluenceからの静脈の流出はそれを介するため、jugular bulbは発達しない.また海綿静脈洞を介する静脈の流出路(cavernous sinus capture)は発達しておらず、横・S字状静脈洞が閉塞すると、静脈性の虚血・梗塞を来たし予後は不良となる.これを予防する目的で、抗凝固治療(heparinやwarfarin)の投与が行なわれることがあるが、その投与量や投与期間に関して決まったものはなく、治療は難しい.


合併症


動脈損傷による下肢の虚血


昔からカテーテル血管撮影の合併症として、下肢の虚血による壊疽や成長障害(左右の下肢長の差)が起こるとされるが、その頻度は低い.しかし、何回も動脈を穿刺した場合には、内膜損傷が起こり、動脈が閉塞したり末梢へ塞栓が飛んだりする場合がある.すでに採血や動脈ラインの確保目的で、何回も穿刺を受けていると、そのような合併症が起こりやすく、脳血管奇形があり血管内治療の可能性のある症例では、出来る限り採血や動脈ラインの確保目的では、下肢動脈の穿刺を避ける.posterior tibial arteryと大腿動脈の両者に損傷が起こると足底に強い虚血が起こる.通常の血管内治療時だけの大腿動脈への4F シース挿入で、下肢に虚血が起こることは殆どない.


Vitamin K不足による出血傾向


どの新生児も出生後、数日以内に経口でVitamin Kが投与される.何らかの疾患のある場合は、静脈ルートから確実に投与される.通常では、出産早期に転院した児には、入院時点で投与される.このルーチンな作業も、「投与忘れ」が起こることがある.特に、この時期に転院した場合、Vitamin Kの投与を確認するべきである.我々は、Vitamin Kの投与忘れに転院が重なり、重篤な出血傾向を呈した症例の経験がある.その時点での血液検査所見では、先天性凝固因子欠損との鑑別が困難であった.これは、凝固異常の診断に時間を使わず、Vitamin Kの投与をすれば、凝固系のデータはすぐに改善したはずであった.


褥瘡


新生児の皮膚は、脆弱であるため、血管内治療時だけでなく、常に褥瘡に注意が必要である.例えば、血管内治療時に心電図のリードが引っぱり加減となり、皮膚に少しでも食い込むと短時間で褥瘡になってしまう.新生児室では、このようなことに対する配慮は慣れているが、稀にしか行なわない血管撮影室での新生児治療では、慣れていないスタッフが担当するため、褥瘡を作らないように慎重な配慮が必要である.


文献


1. Komiyama M, Ishiguro T, Kitano S, Sakamoto H, Nakamura H: Serial antenatal ultrasound observation of cerebral dural sinus malformation. AJNR Am J Neuroradiol 25:1446-1448, 2004


2. Komiyama M, Nishikawa M, Kitano S, Sakamoto H, Miyagi N, Kusuda S, Sugimoto H. Transumbilical embolization of a congenital dural arteriovenous fistula at the torcular herophili in a neonate. Case report. J Neurosurg 90:964-969, 1999


3. 小宮山雅樹、安井敏裕、北野昌平、坂本博昭:新生児・乳幼児期の脳血管奇形に対する血管内治療.脳神経外科速報 13: 732-738, 2003


4. Komiyama M, Nakajima H, Kitano S, Sakamoto H, Kurimasa H, Ozaki H: Endovascular treatment of huge cervicofacial hemangioma complicated by Kasawach-Merritt syndrome. Pediatr Neurosurg 33:26-30, 2000


5. Komiyama M, Matsusaka Y, Ishiguro T, Kitano S, Sakamoto H: Endovascular treatment of dural sinus malformation with arteriovenous shunt in a low birth weight neonate. Case report. Neurol Med Chir (Tokyo) 44:655-659, 2004


6. Komiyama M, Nakajima H, Nishikawa M, Kitano S, Sakamoto H: Interventional neuroangiography in neonates. Interventional Neuroradiol 5:S1-127-S1-132, 1999


7. Komiyama M, Nishikawa M, Yasui T, Kitano S, Sakamoto H, Inoue T: Vein of Galen aneurysmal malformation in a neonate treated by endovascular surgery.  Case report. Neurol Med Chir (Tokyo) 36:893-900, 1996


8. 小宮山雅樹: 頭頚部の血管異常 - 血管腫と血管奇形. Clinical Neuroscience 23:1173-1175, 2005


9. Lasjaunias PL, Chung SM, Sachet M, Alvarez H, Rodesch G, Garcia-Monaco R: The management of vein of Galen aneurysmal malformations. Neurosurgery 59:S3-184-S3-194, 2006


10. Lasjaunias P: Introduction and general comments regarding pediatric arteriovenous shunts. In Surgical Neuroangiography, vol. 3 Clinical and interventional aspects in Children, Springer-Verlag, Berlin, 2006, pp 27-104


参考図書

小宮山雅樹:神経脈管学、メディカ出版、大阪、2012


Top Pageへ