小児頭蓋内血管奇形のマネージメント

疾患と特徴


小児期の頭蓋内血管奇形で動静脈短絡を伴う疾患には、頻度の順に、広義の脳動静脈奇形 (arteriovenous malformation, AVM)、ガレン大静脈瘤 (vein of Galen aneurysm)、硬膜動静脈瘻 (dural arteriovenous fistula, dural AVF)がある.脳動静脈奇形は、nidusを持つ狭義の脳動静脈奇形とnidusを持たず比較的単純なシャントを形成する脳動静脈瘻 (arteriovenous fistula, AVF)に分けることができる.nidusを持つ脳動静脈奇形が、出血やけいれんで症候性になるのは年長児以降が多いため、その臨床像やその管理は大人の同疾患と大きな違いはないため、ここでは脳動静脈瘻、ガレン大静脈瘤、硬膜動静脈瘻を対象とする.これら三疾患は、それぞれ硬膜 dural、くも膜下腔 subarachnoid、軟膜下 subpialに存在し、発生学的背景や血管構築はまったく異なるが、その臨床像は疾患に関係なく、主に発症時期によって特徴的な症状を呈する.


出生前 antenatal periodに胎児エコーで無症候に血管病変が発見されるのは、妊娠の24週以降であることが多い.胎児エコー、特にカラードップラーとパワードップラー法で病変内の血流が検出されるが、MR検査での血流描出は、ガレン大静脈瘤と硬膜動静脈瘻で異なり、前者はsignal voidを呈するが、後者は、乱流のためsignal voidに一部flow-related enhancementを呈する.とくに後者の場合には、腫瘍性病変との鑑別が必要である.ガレン大静脈瘤や硬膜動静脈瘻は出生前に認められることがあるが、脳動静脈瘻が認められることはない.脳動静脈瘻は、遺伝性出血性毛細血管拡張症 (hereditary hemorrhagic telangiectasia, HHT)に関連する場合が多く、その場合は、 nidus typeの病変であっても比較的コンパクトで径が1cm以下の小さなmicro-AVMの病変が多い.周産期には、疾患に関わらず、心不全や呼吸不全の全身症状 (systemic symptom)で発症し、年齢が上がり乳幼児期には、水頭症や巨頭症 (hydrovenous symptom)が起こり、さらに年齢が上がると、痙攣、頭痛、精神発達の遅滞、出血 (arteriovenous symptom)などで発症することが多い.


マネージメント


上記のごとく、発症時期に特徴的な症状を呈するため、それに則した治療を選択する.特に管理が困難な周産期 (perinatal period)の心不全を中心とした血管奇形の全身管理・治療について述べる.


出産前は、胎盤循環であり子宮内環境では心不全が症候性になることは少なく、逆に、この時期に心不全が著明な症例では救命できない可能性が高く、また救命できてもその機能予後は不良である.出生前に心不全が進行すると胎児水腫 (hydrops fetalis)を呈し、胎児エコー検査では心負荷(頸静脈や上大静脈の拡張)以外に、胸水、腹水、心嚢液の貯留、皮膚浮腫 skin edemaを呈し、胎児死亡する場合もある.このような状態の母体や胎児に対する積極的な治療はなく、エコー・MR検査による観察を行いながら、母体の安静をはかり、適切な時期に専門施設への母体搬送し、出産後の管理に備える.周産期まで、心不全を呈さず、または心不全が軽度であっても右心負荷は大きな場合には、出産により胎盤循環から肺循環に変わると、一気に心不全が進行する場合があるので、それに対応できるように準備を行う.そのような高度の心負荷があり、心不全が予想される場合は、帝王切開を予定で行い (scheduled caesarian section)、それに続いて血管内治療を行う必要がある.心不全の程度は、刻々と変化するため、遅れをとらないように気をつける.胎児の肺を含めた成熟度から36週前の出産は避け、出来れば36週以降まで妊娠を継続したい.また通常は、は大腿動脈からアプローチするためには、4Fの血管シースを入れる必要があるため、出生時の体重が2,500g以上あることが望ましい.2,000gに近い低体重児で大腿動脈が細くて使えない場合は、経臍帯血管アプローチ、経大腿静脈アプローチ、直接頸動脈穿刺などの方法を考える.臍帯血管 umbilical vesselには、臍動脈が2本、臍静脈が1本あり、低体重児の場合はその確保が有用な場合があるが、大腿動脈からアプローチ可能な場合はその確保に固執することはない.帝王切開時に産科医に臍帯を長めに残すように依頼し、出生後の早い時期に臍帯カテーテルを使いルートを確保する.臍帯血管が3本とも確保できることは少なく、臍動脈は一旦、尾側に向かい膀胱の外側を走り、内腸骨動脈からUターンして大動脈につながるため、血管内治療に使うとしても簡単ではない.


出生前の胎盤循環において肺循環は高抵抗(high resistance)であるが、出生とともに肺呼吸が始まれば、肺抵抗が低下し(low resistance)、頭蓋内の動静脈瘻による右心負荷がかかり右心不全を呈する.動脈管開存 PDA、卵円孔開存など胎児循環の遺残や肺高血圧症、右心不全、頻脈、三尖弁閉鎖不全、不整脈を伴うことがある.出生直後には、動脈管開存と卵円孔開存は当然存在し、前者は正常では自然閉塞していくが、後者は、生理的にも長期間残存する.超音波診断で心肺機能を評価する必要がある.心拍数の増加、1回拍出量の増加で心筋負荷の増加、さらに拡張期圧の低下は、冠動脈血流の低下につながり心筋虚血が起こり、やがて左心不全も起こる.つまり両室不全になる.シャントの量の多い場合は、拡張期に大動脈血流の脳へ逆流が起こるため、下行大動脈への血流は少なく、臓器そのものは異常がないにも関わらず、腎・肝・腸管などへの血流は非常に不良であり、無尿・腎不全を伴う.このため大腿動脈は、体重に見合う大きさより小さい.右心負荷のため静脈圧は高く、肝不全を伴い、肺高血圧のため呼吸不全を起こす.新生児の肺は、未熟のためさらに呼吸不全が進行する.肝機能障害で、出血傾向・血小板減少など凝固系異常も伴う.静脈系の圧亢進は、髄液循環不全を起こし、脳の正常発達を障害し、巨頭症、水頭症、稀には小脳扁桃の下垂を合併することになる.この時期はpacchionian granulationの発達が未熟であるため、髄液の吸収の多くは、脳表の静脈から吸収されるため、静脈系の圧亢進(venous hypertension)は髄液の吸収機能の低下をもたらす.脳障害は、静脈性梗塞や脳萎縮・石灰化の形をとりmelting brain syndromeといわれる.出生時の石灰化や痙攣は、既に高度の脳障害があることを示す.髄鞘化障害から脳の成熟障害が起こり、高次機能障害につながる.


緊急性がない場合は、新生児科医の管理のもと呼吸管理、利尿剤を含めた水分管理、カテコールアミンの投与などの内科的管理を行う.心不全、肝不全、腎不全が進行する前に動静脈短絡を減らすべく血管内治療を行う.治療の適応は、心機能、肝機能(凝固系の機能も含む)、呼吸機能、神経症状、腎機能の機能を考量し、緊急の血管内治療、治療適応なし(ギブアップも含め)、内科的治療を選択することとなる.Lasjauniasらは、これらの機能を点数化したneonatal evaluation scoreを提唱し、その点数により、新生児期の治療の適応を、適応なし(7点以下)、緊急の血管内治療(8-12点)、経過観察(13点以上)に分けている.全身状態が悪くなくても、脳障害があれば7点以下に分類している(表1).既に脳出血、脳梗塞、脳萎縮、石灰化などの所見が示唆する高度の脳障害がある場合の治療適応は難しいものがある.


血管内治療(新生児期の治療)


一般的な注意事項として、患児の体温維持が非常に重要である.深部体温が35.5度以下の低体温は、全身血管の収縮をきたし、循環系の異常やacidosis、DICをきたし患者の状態は重篤になる.体温維持のため四肢を綿や銀紙でラップし、室温にも気を配る.冬期には、スタッフの出入りだけでも血管撮影室の室温は低下する.また、維持液に生理的食塩水を使用すると電解質が入りすぎるため5%グルコースを使用する.ヘパリンが入り過ぎないように1unit/mlの濃度にした5%グルコースを溶媒にしてヘパリン溶液を作る.造影剤の量は6ml/kgを極量と考えて使用するが、心不全や腎不全があるときは、さらにその使用量は制限される.新生児の血管撮影には、造影剤量を減らす目的でも、bi-planeのDSA設備が望ましい.カテーテルの死腔内の造影剤量は、約0.5mlあるので、毎回吸引して捨てる.造影剤の総量を出来るだけ少なくするために、不必要な撮影はするべきでない.反対側の用手的頚動脈圧迫による頚動脈撮影で反対側頚動脈の情報を得るのが有用な場合もある.撮影時間を長くして、造影剤の第二循環まで撮影すれば、全脳の血管情報(pan-angiography)を得ることができるので有用である.動静脈瘻がある場合、短時間で造影剤の第二循環がやってくる.


血管内治療には、経動脈的と経静脈的塞栓術がある.経動脈的塞栓術の場合、塞栓物質にはNBCAまたはコイルが使われ、経静脈的塞栓術の場合は、コイルが使われる.コイルを動脈側で使うためには、末梢までover-the-wire (OTW) typeのマイクロカテーテルを誘導する必要があり、それが困難な症例がある.また頭蓋内動脈の屈曲をカテーテル・ガイドワイヤーが直線化するため、くも膜下出血を起こすこともある.また脆弱な血管壁をカテーテル・ガイドワイヤーが穿孔するリスクもある.頸動脈は頭蓋外の頭蓋底部でループ形成や屈曲蛇行している場合が多く、同じ形状であっても大人の場合と異なりR(曲率半径)が小さくカテーテルの操作性が極端に悪い場合が多い.この場合は、flow-guided typeのカテーテルを使った治療を選択せざるを得ない.また経静脈的塞栓術にコイルを使う場合には、大量のコイルの使用が必要な場合があり、医療経済的な観点の考慮も必要である.経動脈的塞栓術にNBCAを使用する場合は、栄養動脈内の血流量は多く、かつ速度も速いので、高濃度のNBCAを使う.高濃度のNBCAの視認性は低くなるが、70%濃度であれば通常のDSA撮影下では十分視認可能であり、tantalum powderを混ぜる必要はない.また高濃度のNBCAの場合にはカテーテルの血管壁への接着の可能性が高くなるため注意が必要である.僅かに接着した場合のカテーテルの抜去はflow-guided typeよりもOTW typeのカテーテルの方が確実である.また動静脈シャントの近傍にカテーテル先端があるとNBCAが静脈側を抜けて、数えきれない小さなglueの粒子が形成され、それが肺に飛んでいくことになるため、栄養動脈にNBCAのcastができる距離をシャント部からとれるようにマイクロカテーテルの先端を置いたり、コイルを同部に置いてそこにNBCAを引っ掛けるようなテクニックを使うことがある.新生児の収縮期血圧は60mmHg程度であるが、塞栓術中の意図的低血圧 induced hypotensionは有効である.硬膜動静脈瘻内の血流は、渦巻いておりコイルを留置することは容易であるが、ガレン大静脈瘤内の血流は非常に速く、コイルが泳いでしまい、migrationせずにコイルを置くことが困難な場合もある.


経動脈的治療と経静脈的治療の選択に関しては、ガレン大静脈瘤と硬膜動静脈瘻では理論的には両者が可能である.脳動静脈瘻では静脈側に塞栓物質を入れることがあっても、動脈側の閉塞を同時に行う必要があるため経動脈的治療を行う.ガレン大静脈瘤における経静脈的治療で、急速にシャントを閉塞した場合、急性脳浮腫、視床出血、脳室内出血、クモ膜下出血を起こす場合がある.これは、未熟なgerminal layerに出血が起こりやすいこと、また視床穿通動脈の領域にperfusion pressure breakthroughが起こるためと考えられている.これは動脈側からのNBCAによる塞栓術ではおこらないとされる.新生児期の塞栓術は短時間で終了する必要があり、この点では経動脈的治療の方が有利である.コイルを用いる経静脈的治療は長い30cmの18-typeのコイルを中心に使うことになるが、大量のコイルの使用には、長時間の操作が必要である.


治療により短絡血流が減少した場合には、静脈側のvarixやdural ectasiaは小さくなる.このため病変がmass effectを持つ場合は、病変への短絡血流量を減らすことでこのmass effectを減らすことが可能であるが、コイルを拡張した静脈構造に使った場合はmass effectが残存することになる.しかし、コイルをtight packingしなければ、血流の減少を得られ、時間とともにcoil compactionが起こり、静脈側の拡張は小さくなる.動静脈シャントを急速に閉塞することによる全身への影響は、多くの場合には考慮する必要はない.


治療のエンドポイントは、心不全がコントロールされるまでのシャント量の減少である.つまり患児の正常な成長 normal developmentが目的であり、解剖学的治癒 anatomical cureではない.新生児期に複数回の治療が必要になることも珍しくはない.


水頭症 hydrocephalusは、どの疾患でも、またいつの時期にもおこる可能性があるが、新生児期には多くはない.ガレン大静脈瘤では、脳室腹腔シャント術(ドレナージを含めた脳室穿刺も)は出血性合併症が多いため、可能であれば先に血管内治療を行い、静脈性高血圧を改善する.その後、必要があれば脳室腹腔シャント術を行う.出血の原因は、subependymal veinもcortical veinともvenous hypertensionとなっていることに関連があるとされる.脳室腹腔シャントを行うとすれば脳表静脈の怒張のある後頭・頭頂部からよりも前頭部から脳室穿刺を行う方が安全とされる.



2006.11.18 第22回日本脳神経血管内治療学会 総会(徳島)のContinuing Education Programの一項目である「小児頭蓋内血管奇形のマネージメント」についての原稿である.


Melting Brain Syndrome


ヘリでやってきたミーちゃん


参考図書

小宮山雅樹:神経脈管学、メディカ出版、大阪、2012


2006.10.1記、2009.4.1追記


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