ガレン大静脈瘤と関連遺伝子
ガレン大静脈瘤の患者さんの多くは、遺伝的な要素は無く(判明せず)、家族歴もありません.また、妊娠中にも特に何かが起こったこともありません.最近は、母体の超音波検査で、妊娠の20週過ぎでガレン大静脈瘤が診断されることもあり、そのような場合は、MR検査で確認します.胎児期・新生児期の症状は、心不全で、重症であれば助からない患者さんもいれば、出生すぐに治療が必要な場合もあります.また、出生後も、全く心不全症状のない患者さんもいます.
ガレン大静脈瘤の患者さんで、遺伝性出血性毛細血管拡張症(hereditary hemorrhagic telangiectasia: HHT、オスラー病)や毛細血管奇形-脳血管奇形 (capillary malformation – arteriovenous malformation: CM-AVM)の遺伝子を持つ患者さんがいます.つまり、それぞれエンドグリンendoglin遺伝子 [1,5]やRASA1遺伝子 [2]やEPHB4遺伝子 [7]を持っていて、かつガレン大静脈瘤も持つ患者さんがいることになります.これらの遺伝子は、患者さんで突然変異が起こったのでない限り(その可能性は高くありませんが)、御両親のどちらかから、50%の確率で伝わって来たはずです.ALK1遺伝子のvariantとガレン大静脈瘤の報告もありますが、画像から恐らくガレン大静脈瘤ではないと思われます [3]. 家族内発生の報告もありますが、これも一方の子供のガレン大静脈瘤についての記載は全くなく、真偽は不明です [4].ガレン大静脈瘤と オスラー病の合併の症例報告が、別に1例ありました [6].
endoglin遺伝子の異常は、遺伝性出血性毛細血管拡張症の病変に関係があり、脳・脊髄・肺・肝臓などに動静脈奇形や動静脈瘻を作ります.RASA1遺伝子の異常も、脳や四肢に動静脈奇形や動静脈瘻を作ります.EPHB4遺伝子もRASA1遺伝子に似ているにですが、後者は口唇などに毛細血管拡張病変を持つ特徴もあります.それでは、ガレン大静脈瘤との関連はどうなるのでしょうか?ここからは、私の推論ですが、ガレン大静脈瘤は6週ごろから11週頃までに形成される原始内大脳静脈(原始正中前脳静脈: median vein of prosencephalon)の正常な分化・発生に異常が起こることで形成されます.この分化・発生異常に、endoglin遺伝子やRASA1遺伝子・EPHB4遺伝子が、何らかの関与をしているのだと思われます.これらの遺伝子、またはこれらに関連する遺伝子の働く時期が、もっと遅い場合には、通常認められる動静脈奇形や動静脈瘻を、特徴ある部位に作るように思います.
ガレン大静脈瘤の成因は分かっていません.その遺伝的背景を研究するグループに2018年から参加しています.中心は、米国のエール大学脳神経外科で、ボストンこども病院、ウィスコンシン大学病院、ニューヨークのマウント・サイナイ病院、アリゾナのバロー神経研究所、パリのFOCH病院、それに日本から大阪市立総合医療センターが参加して、全ゲノムの解析を精力的に行なっています.現在まで、各施設からの50症例の解析を行いました [8].2018.4.4
ガレン大静脈瘤のお子さんだけでなく、脳血管奇形のお子さんを持つ御両親が、もう一人お子さんを持ちたいという時に、とても不安になるのは想像に難くはありません.上記のように、遺伝性疾患が背景にあるか、ないか、にかかってくるわけで、このような疑問・不安に、多くの脳血管奇形の知識を持って、また責任持って相談できる施設は多くはありません.お困りの場合は、私の脳血管奇形・オスラー病外来(火曜日)を、予約・受診されることをお勧めします.
1. Tsutsumi Y, Kosaki R, Itoh Y, et al: Vein of Galen aneurysmal malformation associated with an endoglin gene mutation. Pediatrics 128:e1307-1310, 2011
2. Revencu N, Boon LM, Mulliken JB, et al: Parkes Weber syndrome, vein of Galen malformation, and other fast-flow vascular anomalies are caused by RISA1 mutations. Hum Mutat 29:959-965, 2008
3. Chida A, Shintani M, Wakamatsu H, et al: ACVRL1 gene variant in a patient with vein of Galen aneurysmal malformation. J Pediatr Genet 2:181-189, 2013
4.Xu DS, Usman AA, Hurley MC, et al: Adult presentation of a familial-associated vein of Galen aneurysmal malformation: case report. Neurosurgery 67: E1845, 2010
5.Komiyama M, et al: Neuroradiological manifestations of hereditary hemorrhagic telangiectasia in 139 Japanese patients. Neurol Med Chir (Tokyo) 55:479-486, 2015 [PDF]
6.Dardik D, Perez Akly M, Besada C, et al: Prevalence of cerebrovascular malformations and associated intracranial hemorrhage in Latin American HHT adults patients. Abstract (P64) of 11th International HHT Scientific Conference, June 11-14, Captiva, Florida USA.
7. Amyere M, Revencu N, Helaers R, et al. Germline loss-of-function mutations in EPHB4 cause a second form of capillary malformation-arteriovenous malformation (CM-AVM2) deregulating RAS-MAPK signaling. Circulation 2017;136:1037-1048.
8.Duran D, Zeng X, Jin SC, et al. Mutations in chromatin modifier and ephrin signaling genes in vein of Galen malformation. Neuron 2019;101:429-443.
2010.8.16記載、2015.7.7、2015 7 15、2018.4.4、2020.2.24 追記