PHACES Syndrome フェイス症候群
比較的大きな乳児血管腫 infantile hemangioma があり、特徴的な合併する他の病変があるのが.このPHACE症候群(フェイス・しょうこうぐん)です.
以前から、顔面の血管腫と後頭蓋窩の先天奇形の合併や顔面の血管腫と脳血管の狭窄・閉塞、さらに顔面の血管腫と大動脈の狭窄の関連が知られていました.このような血管腫は、明確な定義がないのでが、分節性の血管腫 ”segmental hemangioma”として、単独で認められる血管腫と区別されることがあります.
PHACE 症候群は、以下の病態の頭文字をとって名付けられています. PHACES 症候群という場合もあります.
P: posterior fossa anomaly、後頭蓋窩(小脳のあたりを指します)の先天奇形、特にDandy-Walker 症候群や小脳の低形成、小脳の皮質形成不全、くも膜のう胞など
H: (large) hemangioma of the face and neck、顔面の乳児血管腫、眼窩への進展、通常の結節性のnodular type血管腫と異なり平坦なplaque type血管腫が多いです.咽頭等、気道に関連する部位に起こることも多いです.(Sturge-Weber syndromeにおけるport-wine stainとは全く異なります).血管腫が、頭蓋内や脊髄にも認められることもあります.
A: arterial anomaly、 脳血管の狭窄・閉塞・拡張・蛇行、脳動脈の形成異常・低形成、遺残動脈(三叉神経動脈)、loop形成やredundancy、もやもや現象、遺残脳動脈
C: coarctation of the aorta、 大動脈縮窄症、大動脈離断 interruption、大動脈の狭小化と蛇行、動脈管開存、cardiac anomaly(この頭文字Cを言う場合もあります)、 ファローの4徴、心室中隔欠損
E: eye anomaly、 眼球の奇形、目の血管腫、虹彩、網膜、視神経の低形成・萎縮、小眼球症、眼球欠損、白内障などがあるが、緑内障は少ない.
S: sternal cleft、 胸骨の分離やsupraumbilical raphe(臍の上の瘢痕のような線で、左右の皮膚の融合不全を示しています), skin tagなどの正中腹側の奇形・欠損 ventral developmental defectsの合併をさします.唇裂・口蓋裂、甲状腺機能低下もある.sternal pit: 皮膚の小さな窪み、sternal cleft: 胸骨に溝があります.胸骨が部分的に、または完全に分離しています.sternal agenesis: 胸骨が部分的または完全に形成されていない場合で、心臓や肺を囲む骨構造がないので臨床的に大きな問題になります.PHACE症候群では、20%にsternal defectがあるとされています.
これらの症状のすべてが揃うとは限らず、その程度もまちまちですが、疾患概念をして、このような組み合わせを念頭において診断にあたります.男女比は、通常の血管腫よりも女性に多く、男:女 1:9とされ、圧倒的に女性に多いのが特徴です.過去に世界で、約300例ほどの報告があります.(あくまでも、論文報告の症例数で、実態はもっと多数の症例があります).
顔面に大きな血管腫を生後すぐに見た場合に、PHACE症候群である可能性を考えながら診断をすすめます.発生初期の脳動脈の形成異常、例えば、遺残三叉神経動脈や内頚動脈欠損や形成不全、延長、蛇行などでは、側副路からの血流のお陰で、脳血流自体が不足し、脳虚血・脳梗塞になることは多くはありません.しかし、この PHACE 症候群に関連する脳血管の形成不全では、稀に脳虚血症状が出ることあることが知られています.そのために脳血管の血行再建手術の報告も数は少ないですがあります.しかし、その治療適応に決ったものはありません.
血管の異常の検索は、患児に負担の少ない超音波検査をまず行い、単純・造影のMRIやMR angiographyを次に考えます.CT angiographyやカテーテル検査は、侵襲が大きいので、スクリーニングには使いません.鎮静や麻酔自身にも危険があるため、できれば食事後の睡眠に合わせて検査を行ってりします.Feed and Wrap technique.
私の数少ない経験ですが(11 例)、全例で女児で、左に多く(2例は、右側病変)、両側に認める場合もあります.血管腫は、通常の血管腫と異なり5cm以上の大きさがありました.生まれときには認められず、少し遅れた血管腫が出現することが多いです.多くの場合、レーザー治療はしなくても、かなりきれいになります.今では、血管腫で治療が必要な場合、まずβブロッカーのインデラールが投与されます.インデラールには血圧低下などの副作用があり、慎重投与を考えます.また、小学校に入ると、嘔吐を伴う頭痛を訴えるお子さんがおられました(3名).この頭痛も時間とともに、消えることが多いです.精神発達は皆さん、全く正常です.大動脈の外科的治療(バイパス手術)が必要な患者さんが、3/11例、おられました.1/11例は軽症例で経過観察中.
PHACE syndromeの診断基準が2009年に出され、2016年に改定されました.この症候群の確診症例と疑診症例で、確診は5 cm以上の顔面血管腫があり、診断大項目1つあるか小項目2つある場合や血管腫があり、かつ2つ大項目がある場合です.疑診は5 cm以上の顔面血管腫があり、小項目1つある場合、頚部や体幹上部に血管腫があり、大項目1つか小項目2つある場合、血管腫が無く大項目が2つある場合、としています.以下が少し細かいですが、その診断基準の表です.
最近は、良性の乳児血管腫から、多数の血管腫がある血管腫症 hemangiomatosisさらに、PHACE症候群まで、いろんな形態をとる疾患群(広いspectrum)と考えられるようになってきました.PHACE症候群の血管腫は、顔面が主体で segmental hemangiomaと呼ばれますが、これ以外に内臓の血管腫が合併することが少なからずあることが分かってきました.部位は、肝臓、消化管、脳、縦隔、肺が知られ、他に膵臓、脾臓、骨、腎臓にも報告があります.
PHACE症候群の遺伝的背景は、現時点で不明ですが、網羅的な遺伝子検索が可能になって来たため、精力的な研究がされています.私たちの患者さんの御家族も、8家族の患児・御両親が、血液での遺伝子検索に御協力してくださいました.動静脈奇形、毛細血管奇形、海綿静脈奇形、静脈奇形、など多数の候補遺伝子の検索を行いましたが、現時点(2020.10.10)で、責任遺伝子・関連遺伝子・感受性遺伝子などの発見には至っておりません.これは、血液からの遺伝子検索では異常は出ないけれども、病変部位でのみ遺伝子変異が起こっている可能性があるように思われます.
PHACE症候群では、頭蓋内の動脈に異常があることはよく知られています.拡張・蛇行・ループ・屈曲、狭窄、低形成・無形成などですが、この中で、狭窄から脳虚血・脳梗塞になる患者さんが少ないですが報告があります.虚血が起こった患者さんには、間接吻合術が行われた数例の報告がありますが、虚血例を含め、頭蓋内動脈異常を持ったPHACE症候群の患者さんの長期予後に関する報告はなく、この点は今後の課題だと思います.私の診ている患者さんの中でお一人だけ、一過性の脳虚血のエピソードがありましたが、神経学的な予後は良好で、今後も注意して経過を追っているところです.
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フェイス症候群の患者・家族会の立ち上げのおすすめ 2013.3.14
参考文献
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