鉄欠乏性貧血の治療薬の静注鉄剤に関して



オスラー病(遺伝性出血性毛細血管拡張症、hereditary hemorrhagic telangiectasia: HHT)では、繰り返す鼻出血や消化管出血により慢性の鉄欠乏性貧血(iron deficiency anemia: IDA)の患者さんが多くおられます.鉄欠乏性貧血の治療としては、出血を減らす、無くすのが一番なのですが、オスラー病では、困難な場合が多く、鉄剤の補給も重要な治療の一つになります.緊急の場合は、輸血も躊躇なく行われる場合もあります.


鉄剤の補給は、内服薬として経口で服用するのが原則ですが、悪心、嘔吐、食思不良などのため、経口摂取の継続が困難な場合があり、そのような場合は、静脈注射(静注)により鉄の補給が行われます.また、経口の鉄剤では鉄の損失が大きく、追いつかない場合や高度の貧血のため、急速に鉄の投与が必要な場合も、静脈投与が選択されます.ちなみに、比較的、消化器症状の少ない経口の鉄剤としては、リオナ®(クエン酸第二鉄水和物、鳥居薬品)があり、2021年3月から鉄欠乏性貧血に対しても適応になっています.


現在、投与可能な静注可能な薬剤は、3種類あります.含糖酸化鉄(フェジン®)、カルボキシマルトース第二鉄(フェインジェクト®)、デルイソマルトース第二鉄(モノヴァー®)で、モノヴァー®は、2022年3月28日に認可されています.どの薬剤も副作用が出る可能性がありますが、中でも低リン酸血症は重篤な合併症であり、骨軟化症にもつながります.


低リン酸血症とは、血清リン濃度が正常値(通常2.5mg/dL以上)を下回る状態です.症状は、筋力低下、呼吸不全、心不全などがあり、重症化すると痙攣や昏睡に至る可能性もあります.


3種類の静注鉄剤の中で、最も低リン酸血症の合併症の可能性が低く、また短期間の少ない回数で必要量の鉄の投与が可能な鉄剤が、モノヴァー®(日本新薬)です. ただ、重大な副作用としてショックやアナフィラキシーの報告もあります.


静注可能な鉄剤による低リン酸血症の合併症は重篤で、静注鉄剤の投与が頻回に必要になる可能性の高いオスラー病の患者さんには、私はモノヴァー®の投与をお勧めします.



2025/4/19  



鼻出血と鉄剤の関係   2019.3.6記

静脈注射による鉄剤投与による鉄欠乏性貧血治療と低リン酸血症について 

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