遺伝性出血性毛細血管拡張症と遺伝子
Hereditary hemorrhagic telangiectasia (HHT)と関連遺伝子
Osler-Weber-Rendu disease
遺伝性出血性毛細血管拡張症 (HHTと略します)には、恐らくいくつかの遺伝子の異常が関与していると考えられています.患者さんの個人個人の異常の部位は一カ所です.この遺伝子の部位が異なっていても、特徴的な鼻出血や肺の動静脈瘻、脳動静脈奇形が同様に認められます.しかし、この遺伝子の場所が同じである兄弟や親子といった同じ家系でも、症状が少しずつまた違うのも不思議です.
日本からHHTの遺伝子解析を報告した論文が数点ありますが、それらを発表した大学でも現時点(2008.1.18)では、遺伝子解析を行なっていません.恐らく、日本でそれが出来ないのではなく、論文を書くための検索は出来ても、患者さんのために恒常的にそれを行なっている施設・大学はないと思います.と以前、書きましたが、2010年秋頃から、ある施設に遺伝子検査を継続して、お願いしています.約10ヶ月の間に、私の患者さんで、遺伝子検査の同意を得られた方、43人のHHT患者さんの遺伝子検査を行ないました.御家族で行なったのは10家族でした.最初からHHTではないと思った方はそのような結果でしたし、HHTの臨床診断で、確診の患者さんは100%、遺伝子検査で異常が認められました.結果が出ている患者さんのうち、異常なしは8人で、endoglinの異常が21人、ALK-1の異常が11人でした.一般的に言われているよりも、endoglinの異常の患者さんが多かったです (2011/10/22).1家族で、御両親に遺伝子異常がなく、お子さんに初めて異常が出るパターンもありました.一般的に言われているように、endoglinの異常の患者さんには肺の動静脈瘻が、ALK-1の異常の患者さんには、肝動静脈瘻が多い傾向にありました.
若年性ポリポージスとHHTの両者の特徴を持つ症候群
Juvenile Polyposis-HHT (JP-HHT)
HHTとのoverlap syndromeの報告があり、Smad4遺伝子の変異が原因とされ、知識として知っておく必要があります.若年性ポリープ juvenile polypは、小児に多く、この名称で呼ばれますが、成人でも認められます.”Juvenile” 若年性という言葉は、ポリープのタイプについての言葉であり、ポリープが発見される年齢を言っているのではありません.通常は単発ですが、低頻度ではありますが多発性にも起こり、その時は、若年性ポリポージス juvenile polyposisと呼ばれます.症状は下血で、大きさは10-20 mmの有茎のポリープで、直腸とS状結腸に多発します.通常は癌とは関係はない良性疾患とされます.
若年性ポリポージス juvenile polyposisは、半数が常染色体優性遺伝し、より発癌性が高いという点で、若年性ポリープと異なります.以前は、若年性大腸ポリポージス juvenile polyposis coil (JPC)とも呼ばれ、その頻度は1/24,000出生とされています.通常は、大腸に病変がありますが、胃に限局してpolyposisがある場合や胃、小腸、大腸すべてにpolyposisが認められることもあります.症状は、下血で、その結果として貧血となります.蛋白漏出性胃腸炎や低栄養もまれに認められます.治療は、内視鏡的切除(ポリペクトミー)が行われ、この治療に限界がある場合には大腸の部分切除が行われます.
SMAD4の遺伝子変異を持ちJP-HHTの症状を呈する患者さんの中に、大動脈瘤や大動脈解離を合併する患者さんが稀のおられ、JP-HHTとの関連性が示唆されています [Teekakirikul P, 2013].Marfan症候群やロイス・デェーツ症候群は、ともにTGF-bata関連の遺伝子変異で起こるため、同じくTGF-bata関連の遺伝子変異で起こるHHT、特にJP-HHTと似た症状を呈することがあっても不思議ではありません.SMAD4の変異で起こるJP-HHTの場合には、大動脈病変の可能性を考え、エコーやCTで検査をするべきかもしれません.
Teekakirikul P, et al: Thoracic aortic disease in two patients with juvenile polyposis syndrome and SMAD4 mutations. Am J Med Genet A 161:185-191, 2013
2007.6.13記、2011.7.11、10.22、2018.12.19 追記