青色ゴム乳首様母斑症候群

Blue rubber bleb nevus syndrome(Bean Syndrome)

 

青色ゴム乳首様母斑症候群Blue rubber bleb nevus syndrome (BRBNS)は、Bean症候群とも呼ばれ、全身の静脈性血管奇形と消化管疾患を中心とした内臓疾患の合併を特徴とします.皮膚病変が、赤ちゃんのゴム乳首に似ており、それが青色がかった病変なので、1958年にWilliam Beanによってこのような病名がつきました.この疾患は、重篤な出血性合併症を起こすことがあることで知られています.致命的な出血を起こすことがありますが、基本的に動脈性出血ではなく、静脈性の出血です.また、全身の皮膚と消化管以外にも、中枢神経系、甲状腺、口腔、食道、耳下腺、眼球、筋肉、肺、肝、脾臓、腎臓、膀胱など多臓器に病変が認められることもあります.経時的に病変が増えることも知られています.慢性の出血による鉄欠乏性貧血もよく認められます.組織病理学的には、 一層の内膜による 血液を含む拡張した血管構造で、周囲に結合組織があります.

 

散発性の場合と遺伝性の場合があるとされています.多くは散発性ですが、遺伝性の場合には常染色体優性遺伝するとされています.第9染色体の短腕に遺伝子が存在します.これは、静脈性血管奇形 venous malformationと同じ場所です.男性女性とも同じ頻度とされます.生まれつきに皮膚病変が認められる場合や早い時期に認められる場合もあれば、大人になってから顕在化する場合もあります.消化管症状は、通常、大人になってから現れます.遺伝性出血性毛細血管拡張症(オスラー病)とは、まったく別の疾患です.

 

皮膚疾患からまず皮膚科を訪れることが多く、診断は容易です.多くは、病変による醜形のために受診することが多いです.ただ、慢性の消化管出血で高度の貧血になっている場合もあり、消化器の検索も必要な場合があります.皮膚病変の大きさや数はまちまちです.数mmのものから数cmの大きさのものまであります.多くは、多発性(数百のこともあり)で、暗青色で、圧迫により小さくなります.必ずしも同じ性質の病変とは限らず、色調や硬さ・圧迫に対するへこみ具合は異なることが多いです.痛みを伴う場合や発汗異常を伴う場合もあります.しかし、外傷がない限り出血することは稀とされています.病変が悪性化することはありません.皮膚が被っている場合は、その厚さにより暗青色の濃さが変わります.ほとんど皮膚を被っていない場合は、乾燥しこげ茶色を呈します.

 

消化管病変は、口腔から肛門までどこに起こってもいいのですが、小腸に多いとされ、皮膚病変と異なり、出血することが多く、貧血や時には命に関わる大出血を起こすこともあり、大量の輸血を必要とすることもあります.消化管からの出血が問題になるのは大人になってからが多いです.吐血、喀血、下血など、緊急の治療が必要になることもあります.基本的に静脈性出血なので、経動脈的な塞栓術は、無効です.血小板減少・凝固異常などを呈しますが、局所の凝固異常が主体であり、それが全身の出血傾向になることがあります.稀に、新生児期に出血傾向による全身症状を呈することがありますが、 Kasabach-Merritt現象とは異なります.内視鏡検査で、明らかで、静脈瘤に似ていますが、静脈性血管奇形です.従って、消化管の壁にある病変の中に静脈石が認められることがあります.


皮膚疾患は、美容的な目的や機能的な目的以外では通常、治療の対象にはなりません.また痛みを伴ったり、機能的に問題がある時には治療対象になります.貧血に対しては鉄剤の投与で保存的治療が行われたり、内視鏡的に止血治療が行われる場合もあります.多発性であり再発も多いとされています.


Klippel-Trenauney syndromeやKlippel-Weber syndromeなどとの鑑別が必要ですが、病変の特徴や部位により、その鑑別は容易です.


予後は、一般的に良好とされますが、罹患臓器の種類にもより、消化管出血や中枢神経系の出血が、致命的になることもあります.


私は、過去に5例のこの疾患の患者さんを診察したことがあります.男性2人、女性3人、診察時には4人が成人で、一人が、小児でした.4人が散発性、1人が家族性、3人が血液学的に、貧血や血小板の減少等の問題がありました.外科的治療を一部の病変に受けられた患者さんが3人おられました.積極的な治療方法はなく、対症療法として、症候性の病変に対して外科的な治療を行うことが多いのですが、通常、この疾患であると診断はされておらず、ゆっくり、疾患について説明をすると少し安心されることが多かったです.


2022 1 追記

従来の内科的な治療や硬化療法には限界があり、外科的切除術も侵襲が大きすぎる欠点がありました.近年、シロリムス(m-TOR inhibitor)の低容量投与で、臨床的な改善の報告が相次いでいます [1-3].さらに多数の患者さんでの検証が必要なものの、大きな期待が持てるように思います.

 

静脈性血管奇形と凝固異常


2004.3.15記、2008.7.29、2011.6.23、2011.7.21、2013.4.7 、2015.7.13、2022.1.25 追記


文献

  1. 1.Yuksekkaya H, et al: Blue rubber bleb nevus syndrome: successful treatment with sirolimus. Pediatrics 129:e1080-1084, 2012

  2. 2.Salloum R, et al: Response of blue rubber nevus syndrome to sirolimus treatment. Pediatr Blood Cancer  63:1911-1914, 2016

  3. 2.AlNooh BM, et al: Sirolimus in the management of blue rubber bleb nevus syndrome: a case report and review of the literature. Case reports in Dermatol 13:417-421, 2021

 


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