内頚動脈の咽頭後部での蛇行・異常走行
elongation, coiling, retropharyngeal course of the internal carotid artery
内頚動脈が頚部から頭蓋内に向かって、通常はまっすぐ走行します.しかし、時々、蛇行した走行をすることがあります.また、内頚動脈がループを形成し(looping, loop formation)、脳に向かうこともあります.御高齢の患者さんに時々、認められるため、動脈硬化と関係があると考えられています.しかし、中には、子供さんにも同様な走行をする内頚動脈が見つかることがあります.また、左右全く対称に走行することもあります.動脈硬化と関係のない、幼児で何故、このような走行をするかは分かっていません.
このような場合、内頚動脈がのど(咽頭)の粘膜の正中付近を走行することもあるため、のどの奥を見ると粘膜が拍動しているのが分かります.内頚動脈の咽頭後部走行 retropharyngeal courseとか異常走行aberrant courseとも呼ばれます.特に基礎疾患のない子供さんに見つかることもありますし、DiGeorge syndrome(ディジョージ症候群)、conotruncal anomalies face syndromeやvelocardiofacial syndromeの場合、大動脈や心臓の奇形以外に、このような頚部内頚動脈の走行異常も認められることがあります.
CTやMR検査を行いますと、内頚動脈が咽頭粘膜にカバーされているだけで、咽頭腔に飛び出したように見えます.この内頚動脈の異常走行が、何か症状を出すかが問題です.内頚動脈に狭窄が無い限り、脳梗塞の原因になることはないと誰もが考えます.魚の骨が刺さり、大出血することもないでしょう.(このようなことを言って、患者さんを脅かす医師がいますが、私は、別の似た疾患の患者さんを含め、このようなトラブルの経験はありません).摂食不良・嚥下困難など何らかの理由で、胃管 naso-gastric tubeを鼻から挿入していても、咽頭粘膜の潰瘍形成から出血になることもないでしょう.問題になるのは、この走行異常を意識せずに、外科的な治療をこの部に行う場合に、大出血を起こすことはあるかもしれません.上述のディジョージ症候群では、口蓋裂などの合併の問題があることがあり、この部に外科的治療が必要な場合は、注意が必要です.扁桃腺の手術も同様です.しかし、外科的治療以外では、問題になることはないと考えられます.
ディジョージ症候群では、胎生期の第4週の神経堤細胞 neural crest cellの移動の異常と咽頭弓 pharyngeal archの早期形成のため、第3と第4咽頭嚢の発生異常となるとされています.このことから、子供で偶然、内頚動脈の異常走行が発見された場合は、脳血管だけではなく、心臓・大動脈などの形態も検査をしてもいいように思います.
子供の脳梗塞患者さんでこのような内頚動脈の蛇行をみることがあります.少ない経験ですが、頭蓋底で、内頚動脈が頭蓋内の頚動脈管に入る直前の蛇行があり、特に狭窄はありませんでした.無症状で、子供の頭痛の検査で偶然に見つかることもあります.一側のこともあれば、両側のこともあります.この異常走行が、本当に脳梗塞の原因になるかは、不明ですが、他に明らかな原因が見つからない場合、無視することもできません.症例のさらなる経験でいろいろ分かって来るかもしれませんが、まとまって経験する医師・病院も少ないと思われます.
同様に、ディジョージ症候群の患者さんで、内頚動脈が頭蓋内の頚動脈管に入る直前に第1頚椎の前を走行しているために、内頚動脈が高度に狭窄した患者さんもおられ、この部では、蛇行・走行異常だけでなく、それに伴う狭窄・閉塞も起こることがあると思います.
2009.9.28. 記、2010.6.30、2015.12.1 追記