染色体22q11.2欠失症候群

染色体22q11.2欠失症候群(chromosome 22q11.2 deletion syndrome)


この症候群は、過去に、DiGeorge syndrome(ディジョージ症候群: 先天性心奇形 conotruncal cardiac anomaly、副甲状腺機能低下 hypoparathyroidism、低カルシウム血症 hypocalcemia、胸腺の低形成 thymic aplasia、免疫異常、顔面・頭部の形態異常、学習障害)として報告されていました.他に、心奇形、特徴的な顔貌、口蓋帆咽頭の機能障害、開鼻音 hypernasal speech、発達障害などの特徴を持つconotruncal anomalies face syndrome (CTAF)やvelocardiofacial syndrome (VCFS)とも報告されていました.


これらDiGeorge syndrome、CTAF syndrome, VCFSは、22番の染色体の22q11.2のmicrodeletionが発見され、表現形の異なる同一の遺伝子疾患として理解されるようになってきました.これはまた、cardiac anomalies 心奇形、abnormal face顔面異常、thymic hypoplasia胸腺の低形成、claft palate口蓋裂、hypocalemia 低カルシウム血症の頭文字をとってCATCH 22とも言われますが、non-win situationを示唆するこの言葉が使うべきではなく、染色体22q11.2欠失症候群と呼ぶべきとされています.ただし、古典的なDiGeorge syndromeの全てが22q11.2のmicrodeletionというわけではなく、他の染色体異常の場合もあるとされています.


病因:染色体の22番の長腕 long arm (q)にある2-300万塩基対の欠失 3-megabase microdeletionが原因とされています.この部には40の遺伝子が含まれています.この遺伝子異常は胎生期の第4週の神経堤細胞 neural crest cellの移動の異常と咽頭弓の早期形成につながり、さらに第3と第4咽頭嚢 pharyngeal pouchの発生異常となるとされています.この咽頭嚢から心臓、頭頸部、胸腺、副甲状腺が形成されます.85%の症例は散発性 new mutationで、7%は常染色体優性遺伝とされます.患者の子供には50%の確率で遺伝します.


この症候群の発生頻度は、1/2000-4000出産とされ、人種に特性は無く、性差もないとされます.症状の重症度により診断される時期が異なり、重症の心奇形や低カルシウム血症があれば新生児期に診断され、繰り返す感染症は、3−6ヶ月をすぎた幼児に認められます.低カルシウム血症がなく、免疫能も正常な場合は、重症でない心奇形や顔面奇形が、より年齢が上の子供に認められます.


心奇形は、心臓からのoutflow部分の2次的形成異常から起こり(conotruncal type)、約8割の患者に認められます.Fallotの4徴症(tetralogy of Fallot)、総動脈管(truncus arteriosus)、大動脈離断(interrupted aortic arch)、心室中隔欠損症、肺動脈閉塞などがあります.他に大動脈転位、大動脈縮窄症、心房中隔欠損症、肺動脈狭窄症、動脈管開存なども稀に認められます.他に、血管の走行異常もあり、咽頭の手術 pharyngoplastyが必要な場合には、咽頭部の内頚動脈や他の動脈の異常走行がないか調べる必要があります.内頸動脈は通常、内側に変位し、蛇行して走行しています.頭蓋底での内頸動脈の蛇行・走行異常やそれに伴う狭窄も起こります.


通常、この症候群の患児は特徴的な顔貌を呈し、teenagerになるとさらに顕著となります.鼻梁が高く、かつ広く、面長で、眉毛間が狭く、顎が小さいです(micrognathia, retrognathia).2次口蓋裂の頻度は高く、口蓋帆咽頭不全(velopharyngeal incompetence)もよく認められます.このため吸引力が弱く、鼻腔への逆流なども認められます.反復する中耳炎に罹患することも多いとされます.眼科的な問題(後胎生環、白内障など)も多く認められます.胸腺の低形成によるT-cell異常のため自己免疫疾患も認められます.副甲状腺機能不全のため低カルシウム血症が半数近くの患児で認められます.精神発達障害や学習障害は70-90%に認められます.


脳のMRIでは、厚脳回 pachygyria、多小脳回polymicrogyria、脳梁の形成異常、脊髄髄膜瘤、小脳低形成などが認められることがあります.


治療には以下のようなチームアプローチが必要です.


小児循環器内科医、小児心臓外科医、免疫や内分泌が専門の内科医、小児科医、形成外科医、耳鼻咽喉科医、眼科医、遺伝の専門家、精神科医、言語療法士、臨床心理士.


内頚動脈の咽頭後部走行



2009.8.24記載、2015.12.1追記


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