子供の脳梗塞

子供の脳梗塞の頻度は低いですが、その基礎疾患には様々な原因が考えられます.再発を予防する意味でも原因検索は重要です.成人に比べて、子供の脳梗塞の頻度は低いですが、非常に珍しいというわけでもありません.MRI、MRを使った血管撮影、CT、CTを使った血管撮影など、非侵襲的な検査をまず行い、必要であればカテーテルによる血管撮影も行います.カテーテルによる血管撮影をすれば何でも分かるということでは決してありません.

 

成人の脳梗塞との違いは、その頻度だけではなく、上述のように、その原因の多様性にもあります.正しく基礎疾患を把握しなければ、再発につながるのは言うまでもありませんが、長期にわたり患児を再発の危険に晒すことになります.約1/5の患者さんでその原因は不明と言われていますが、十分な原因の検索は重要です.また、子供の脳梗塞の場合、成人と異なり確立した治療が乏しいことも治療を難しくしていますが、成人での治療法を参考にしながら、子供を治療しているのが現状です.いろいろ検査をしても原因がわからない子供の脳梗塞の場合には再発が少ないことも知られています.


子供の脳梗塞の特徴


1.低頻度、1-3人/10万人/ 年とも言われています.4000出産に一人とも言われます.

2.原因が多様であり、成人とは異なります.

3.小児の脳は可塑性があり、その意味で成人の脳梗塞より予後は良い.

4.成長・成熟過程の小児の脳に梗塞が起こるため、長期的な機能的な予後は不良のことも多い.

5.本邦では、ウィリス動脈輪閉塞症(もやもや病)が多い.

 

 

脳梗塞の原因

 

 

心臓疾患

 

先天性であれ後天性であれ、心臓疾患は、子供の脳梗塞の大きな原因の一つです.先天性の心臓疾患の治療が早期に行われるようになり、心臓疾患が原因の子供の脳梗塞は、近年、減少しています.心臓カテーテル検査で、脳梗塞が起こることもあります.

 

動脈解離

 

大人でもそうですが、子供の動脈解離は、実数より少なく考えられているようです.動脈解離は、外傷が原因の場合もあれば、非外傷性、つまり誘因なく解離する場合もあります.血管解離を起こす外傷は、必ずしも重症の外傷とは限らず、軽微な外傷の場合もあります.椎骨動脈よりも内頚動脈の解離が、また頭蓋内の内頚動脈よりも頚部の内頚動脈の解離の方が多いとされています.臨床像は、外傷性であれ、非外傷であれあまり差はありません.解離直後から症状を出す場合から、数時間後、数日後に症状を出す場合もあり、さらに遅れる場合もあるとされています.大人では、頭蓋内の動脈解離は、くも膜下出血を起こすことがありますが、子供の場合、多くは脳梗塞を起こします.

 

血管炎

 

子供の頭蓋内の血管炎の原因は多様です.下記の水痘もその原因の一つです.動脈の血栓症、脳内出血、クモ膜下出血、脳静脈洞閉塞などが起こります.細菌性の髄膜炎の頻度が高いとされますが、結核性の髄膜炎による脳梗塞は、成人よりも子供に多いとされています.他に、成人ではしばしば認められる側頭動脈炎や中枢神経系の弧発性血管炎はあまり多くはありません.

 

水痘・Varicella

 

varicella zoster virusは、水疱や帯状疱疹の原因のウイルスです.水疱瘡(や帯状疱疹)と子供の脳梗塞は、近年注目されるようになって来ました. 水疱瘡 に罹った子供15,000人に一人、脳梗塞になるとされています.報告されているvaricella zoster virusによる子供の脳梗塞は、前方循環(anterior circulation)に起こっており、その多くは基底核に起こっています.また、再発に関しては、45%で再発があったとされますが、その時期や重症度に関しては良く分かっていないです.決まった治療はないですが、急性期には抗凝固療法が、再発予防目的では、抗血小板療法のaspirin投与が勧められます.

 

ある報告では、原因のはっきりしない脳梗塞を起こした11人の子供のうち7人(64%)が、過去9ヶ月以内に水痘に感染していましたが、対照の44人の子供のうち4人(9%)だけが、水痘に感染していました.水痘感染がなぜ脳梗塞を起こすかは、良く分かっていませんが、多くの子供が一過性の動脈症arteriopathyを起こしているのが知られています.

 

血管走行の異常


狭窄もない内頚動脈の蛇行や異常走行が脳梗塞の原因になるかは不明ですが、それ以外に原因を考え難いそのような子供の脳梗塞患者さんがいることは事実で、ここでこのような記載をするのは、問題提起の意味もあると御考えください.

 

ウィリス動脈輪閉塞症 (もやもや病、もやもや症候群)

 

ウィリス動脈輪閉塞症 (もやもや病)は、頭蓋内の内頚動脈の末端における血管症です.進行性の動脈の狭窄・閉塞とそれに伴う側副路の血管拡張が特徴的です.この側副路をもやもや血管と呼ぶため、側副路の発達していない場合には「もやもや血管」はありません.混乱を招く病名であり、あまり勧められた病名ではありません. 一側だけに病変があることもよくあります. 詳しくは、私のホームページをご覧ください.

 

 

他の全身疾患

 

鎌状赤血球症は、欧米では頻度の高い原因のひとつですが、日本にはありません.子供の脳梗塞で、唯一、鎌状赤血球症に対する輸血治療がエビデンスのある治療です.また、AIDSが原因で脳梗塞になった報告もあります.


大人の急性期脳梗塞に対するt-PAの投与は、よく知られ確立した治療です.しかし、子供の脳梗塞の原因が大人と全く異なり、その原因も多様ですし、問題が起こる血管も異なります.血液の凝固系も大人と子供では異なるので、t-PAの治療は、子供では勧められません.TIPSという子供の急性期脳梗塞に対するt-PA治療のtrialが企画されましたが、患者さんが集まらないため2年ほどで、中止になりました.つまり、t-PAの有効性の証明はいまでもされていません.

 

参考図書

小宮山雅樹:神経脈管学、メディカ出版、大阪、2012


2004.6.7記、2010.6.30、2011.2.28、2015.1.26、2015.3.7 追記 


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