子供の脳幹部梗塞・脳底動脈解離

子供の脳幹梗塞(動脈解離による脳底動脈閉塞)の椎骨動脈撮影の側面像

 

矢印は閉塞した脳底動脈

脳循環は、前方循環と後方循環に分けられ、大脳への前方循環は左右の頸動脈に栄養され、後方循環は左右の椎骨動脈に栄養されます.この椎骨動脈は頭蓋内で一本の脳底動脈となり脳幹部や小脳と後頭葉を栄養します.脳幹部梗塞は、この脳底動脈またはその枝の閉塞で起こります.脳梗塞になった脳幹部の部位によって、その症状は異なります.広い範囲ですと生命維持に必要な呼吸・体温維持の機能が障害され、意識障害が出て命に関わることもあります.小さい範囲の梗塞の場合、脳幹部にある脳神経の麻痺(顔面神経麻痺、眼を動かす神経の麻痺)や脳幹部を通る神経路の障害が出て運動麻痺(半身の運動麻痺)、知覚異常(半身のしびれ)が出たり、小脳梗塞が合併すると失調による運動障害が出ることがあります.

 

子供の脳梗塞は、原因が分からない場合もよくあるのですが、梗塞の起こるのは多くは前方循環、つまり頸動脈領域です.後方循環は全体の1割程度ともされ、頻度は低いです.子供の脳幹梗塞、つまり脳底動脈閉塞の原因は、恐らくこの動脈の血管解離(動脈の壁にひびが入り、血液の流れる内腔が狭くなったり閉塞したりします)が多いように思います.頭蓋内の椎骨動脈や脳底動脈は大人でも動脈解離の好発部位ですが、大人と子供の解離のメカニズムは恐らく異なると思います.大人では、やはり加齢と関係があるでしょうし、動脈解離の結果、脳梗塞だけでなく、くも膜下出血(血管壁が破れ、くも膜下腔へ出血)を起こすことも多いです.子供の場合、外傷性の動脈解離が一つの原因とされています.これは、決して大きな外傷でなく、軽微な外傷でも起こるとされ、親御さんも気がつかない外傷でも起こることがあるようです.もちろん外傷でなく、誘因なしに起こる動脈解離もあります.MR検査をすると、脳幹部の脳梗塞以外に、脳底動脈の閉塞や狭窄所見が検出されます.この閉塞や狭窄は自然にもとの太さに戻る場合と閉塞したままや狭いままの場合があると思います.

 

大人と違い子供では、発症すぐに病院に到達しても、適切な診断まで時間がかかることの多いです.恐らく、子供の脳梗塞の経験のある小児科医や救急医は殆どいないと思います.また、子供の脳梗塞では、梗塞の原因検索に時間がかかります.心臓の検査、血液学的な検査、出血・凝固系の検査、CTやMRによる脳の検査などを行います.また、それでも原因がよく分からない場合も多くあるとされ、この場合、再発はあまりないとされています.脳底動脈の動脈解離も再発することはあまりないと考えます.脳底動脈の解離も、いろんな原因検索をして、他の原因がなかったり、脳底動脈の閉塞や狭窄のMR画像を、経時的にみて判断されることも多いです.


                  










12 歳男児の恐らく脳底動脈の遠位部の動脈解離(矢印)
















8歳女児の恐らく脳底動脈の遠位部の動脈解離(矢印)









脳底動脈の狭窄・閉塞へ


脳底動脈解離へ


 


 

子供の動脈解離の報告から

 

どの血管に解離が起こっているか?

 

前方循環 73例

        頭蓋外 29、頭蓋内 44

            頭蓋内    petrous 0, cavernous 1, supraclinoid 19, MCA 15, ACA 2

後方循環 47例

            頭蓋外 37 頭蓋内 10

            頭蓋内 V4 2, basilar 6, PCA 2

 

これから、血管解離 120例の報告で、頭蓋内解離が54例、脳底動脈解離が6例ということになります.

 

Fullerton HJ, Johnston C, Smith WS: Arterial dissection and stroke in children. Neurology 57:1155-1160, 2001



参考図書

小宮山雅樹:神経脈管学、メディカ出版、大阪、2012


 

2006.9.22, 23記、2012.7.22、2012.7.30 追記


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