脳動静脈瘻 pial AVF

広義の脳動静脈奇形の中には、介在するnidus(異常血管網)を持たず、栄養動脈が直接、導出静脈につながる脳動静脈瘻(ろう)が含まれ、その頻度は約5%とされます.ガレン大静脈瘤や硬膜動静脈瘻を除くと、小児期の脳動静脈瘻は、非常に頻度は低いですが、その多くは5歳以下で診断され、成人になって初めて脳動静脈瘻が診断されることはほとんどありません.性別では、男児の方が多いとされます.脳動静脈瘻の約30%が、遺伝性出血性毛細血管拡張症(HHT)に関連しています.小児の場合、鼻出血や皮膚症状に乏しいことが多いため、家族歴を注意深く聴取します.脳の多発病変の場合は、他の臓器病変(肺・肝・消化管)がなくても、HHTを疑います.HHTでは、フォローアップ中に、新たな 動静脈瘻が形成されることはないとされます(絶対にそうだとも言えませんが).

 

脳動静脈瘻の症状は、心不全、巨頭症、痙攣、脳局所症状で発症します.新生児は、心不全で発症することが多いです.出生前に偶然に発見されることもありますが、通常、症状は出生後に出現します.比較的、出血発症は少ないとされますが、痙攣や局所神経脱落症状の原因になります.病変部位は、テント上の方がテント下よりも高頻度であり、テント上では、前頭葉と側頭葉に多いとされます.多発病変を持つ症例もあります.

 
診断には、まずCT, CT angiography, MRI, MR angiographyを行います.MRI画像上では、病変内の遅い血流がparadoxical enhancementで高信号として認められる場合があり、出血や血栓との鑑別を必要となります.皮質動脈が栄養動脈で、single feeder-single drainer type(single hole AVF)が多く、multiple feedersでもsingle drainerの構造をとることが多いです.


またfeeder aneurysm(動脈瘤の合併)は少ないとされます.静脈側には、拡張 ectasia・静脈瘤 varixや狭窄性変化が高頻度で認められます.病変が脳表(superficial drainage)にあるため、deep drainageはほとんどありません.また、他の小児血管奇形に認められるほど、脳静脈洞の閉塞は多くはありません.


治療のタイミングは、心不全があれば、新生児であっても急がれます.それ以外、治療の時期を待っていても出血のリスクがあり、患児が小さい場合を除き、待たずに治療をするのが普通です.新生児期を過ぎ、半年を過ぎれば、特にカテーテル治療が、困難というわけではありません.

 

治療方法は、心不全(新生児期のみの症状)や痙攣コントロール目的の内科的治療以外に、病変そのものに対しては、 血管内治療が中心となりますが、それ以外に 外科的治療や定位放射線治療があります.nidusを伴う動静脈奇形に対しての定位放射線治療は、新生児や乳児は対象になりませんが、それよりも年長であれば、治療選択の一つになります.外科的治療と血管内治療に関しては、対象が小児であり、血管内治療は低侵襲であり、第一選択となります.血管内治療では、プラチナコイルやNBCA(アロンアルファーのような接着剤)を用いて塞栓を行います.病変部が、かなり末梢であればコイルを持っていくのが困難な場合があります.また、高流量の病変では、NBCAが病変を抜けて静脈側にmigrationする(流れ出る)危険性があります.非常に短い距離で、病変の閉塞が必要な場合には、コイルが有用なことがあります.また、複数回の治療を必要とする場合もあります. 
 



脳動静脈瘻の半年後のCT angiography

一回の血管内治療で治癒している.

開頭術の必要はありません.



ゆうた君の脳動静脈瘻





非常に大きな動静脈シャントがある場合に、急にシャントを閉塞すれば、心不全が悪化しないか、脳に浮腫や出血が起きないか、また閉塞した静脈側に血栓化が進み静脈性梗塞が起きないか、の危惧があります.心不全が悪化することはありません.しかし、出血や脳浮腫が続発する可能性は否定できませんが、その可能性は低いと思っています.静脈血栓症は、脊髄の動静脈シャントの場合は可能性があり、抗凝固療法を行なうことが多いですが、脳の動静脈シャントの場合、静脈側の側副路が多いため、その可能性は、高くないと考えています.


CM-AVM (RASA1遺伝子変異)という疾患は、身体のportwine stain (毛細血管奇形)と脳動静脈瘻を合併する常染色体優性遺伝をする疾患と関連がある場合があり、脳動静脈瘻の患者さんを見たら、portwine stainがないか?御家族に同じportwine stainや脳の病気がないかを必ず聞く必要があります.


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参考図書

小宮山雅樹:神経脈管学、メディカ出版、大阪、2012



2006.3.12記, 2006.5.8, 2007.7.31, 2009.12.9、 2010.7.30、2014.1.14  追記


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