スタージ・ウェーバー症候群
スタージ・ウェーバー症候群は、Encephalotrigeminal angiomatosisとかSturge-Weber-Dimitri syndromeとも呼ばれます.
1878年にSturge WAが6歳女児の症例報告をしています.またCushingが、1906年に、三叉神経領域の生まれながらにある皮膚病変 birth mark (port-wine stain、cutaneous nevi)と脳血管奇形の関係(nevoid condition of the dura mater)を3例の小児例の経験から示唆しています.1922年にWeber FPがX線単純撮影での石灰化症例を報告しています.
William Allen SturgeとFrederick Parkes Weberの論文へ
この疾患の脳病変の本質は、原因不明の脳表の静脈灌流の悪化・不全で、このため脳の静脈灌流は、深部の脳静脈に委ねられます.ここで静脈性の虚血やこの部の静脈性高血圧が起こり、脳の萎縮・石灰化・脳表の造影(pial enhancement)が起ります.
スタージ・ウェーバー症候群と毛細血管奇形 の原因となる遺伝子変異が第9染色体の長腕の9Q21に発見され 、病変におけるGNAQ遺伝子の単一ヌクレオチドのモザイク変異 (c.548G→A, p.Arg183Glin)が報告されています [Shirley, Nakashima].
次の3つのtypeにも分類されています.Roach Scaleと呼ばれています.Type IIIは5-15%の症例とされます.
Type I: 顔面病変、脈絡叢病変、頭蓋内病変 pial angioma、および緑内障が揃う場合(classic form).
Type II: 頭蓋内病変を伴わない顔面病変のみ.緑内障が伴うこともあります.
Type III: 顔面病変を伴わない頭蓋内病変 pial angiomaのみの場合.通常、緑内障は伴いません.
脳病変の部位は、頭頂部と後頭部が多いです.しかし前頭部や側頭部を中心に病変のある患者さんもいます.症状には、その病変部位にもよりますが、痙攣、片麻痺や半盲などの局所症状、頭痛、精神発達の遅延などがあり、片麻痺と半盲は、一過性で脳卒中に似た発作 stroke-like episodeと呼ばれます.また、緑内障 glaucomaや牛眼 buphthalmosなどの眼症状を呈することもあります.緑内障は30-70%の患者さんに認められます.
スタージ・ウェーバー症候群は、血管病変 が、脳髄膜、顔面皮膚、眼に起るためとされます.脳症状は、leptomeningeal angiomaの影響と、それから来る二次的な影響で起こるとされます.pial angiomaの周囲の脳に虚血が起こり、さらに石灰化、萎縮、神経膠症 gliosisが起こるとされます.
CT/MRI検査で、脈絡叢の拡大と造影を伴い、また大脳回の造影 gyral enhancementが認められます. この大脳回の造影は、pial angiomaが造影されていますが、拡張した細い静脈の鬱血を現していると思われます.慢性の静脈性虚血・高血圧により一側脳の萎縮 hemi-atrophyや皮質の石灰沈着 tram-track calcificationと呼ばれる石灰化も認められます.大脳回の造影と同様な造影が、脳幹や小脳にも起ることがあります.
新生児期など早期の診断は難しいですが、生後6ヶ月までには早期のミエリン化が観察される場合に診断されることがあります [Boukobza 2000]. 従って、特に眼瞼や三叉神経第1枝領域に、birthmarkがある場合、生後半年後も繰り返し検査を行なう必要があります.MRの撮影方法のひとつである susceptibility-weighted image (SWI)が診断と病態理解に有用です.脳表血管病変 pial angiomaがあり、脳表面の静脈還流が無くなり、深部静脈系へ血流が導出されます.このpial angiomaと深部髄質静脈 を介した静脈路 がMR検査のSWIで明瞭に描出されます.通常、大脳皮質とその下にある白質からの血流は脳表にある静脈に導出され、脳質周囲の白質は深部静脈系に導出され、最終的に基底静脈とガレン大静脈に導出されます.傍脳室の静脈は側脳室の壁にある静脈から深部静脈系に導出されます.長い髄質静脈 transmedullary veinは、脳表の静脈と脳質周囲の静脈を結び深部白質を通過します.SWSでは、脳表の静脈系の導出が不十分であるため、このtransmedullary veinが拡張していると考えられます.静脈構築のvariationである、developmental venous anomaly (DVA) が合併することがあります [Boukobza 2000].また、石灰化病変やヘモグロビンの代謝産物も高感度で描出されます.脳代謝も病変部で低下していることがPET検査で示されます.この代謝異常の脳領域の機能低下があり、高次機能低下と関連しています.MR検査で病変が描出されない早期でも、この脳代謝の低下が示されます.
Port-wine stain (毛細血管奇形)が、三叉神経の第1枝の領域に認められるときにのみ、スタージ・ウェーバー症候群が認められます.逆に、三叉神経の第2枝や第3枝領域のみのport-wine stainでは、スタージ・ウェーバー症候群を合併しません.また、脳症状や眼症状のあるスタージ・ウェーバー症候群の患者さんは、眼瞼にport-wine stainがあるといわれます.脳病変と顔面のport-wine stainは発生学的な関連はありますが、三叉神経の分布とは、基本的に関係がなく、偶然その分布が三叉神経の領域に似ているとする、考え方もあります.
痙攣は、スタージ・ウェーバー症候群の75-90%の患者さんに認められ、難治性であることが多く(60%)、平均して生後6ヶ月頃から始まります.多くは、部分痙攣 focal seizureです.時に、痙攣重積になることもあります.一歳までに始まる痙攣の予後は最も不良とされます.難治性の痙攣であるほど、精神発達の遅れが認められます.逆に、痙攣がコントロールされると精神発達が改善されることもあります.スタージ・ウェーバー症候群に軟部組織の過形成つまり四肢の非対称が認められることがあります.
スタージ・ウェーバー症候群に対して、抗けいれん薬による痙攣のコントロールや静脈性閉塞に対して低容量low doseのアスピリンの投与、コントロール困難な痙攣に対しては、大脳半球切除 hemispherectomyやhemispherotomyなどのanatomical/functionalな外科的治療などが行われます.外科的治療の適応は、原則的に、他の難治性のてんかんと同じです.脳梁切除術 callosotomyは一時的な効果しか期待できません.手術時の所見は、病変部は硬化、萎縮があり、通常よりも脳組織は固く、火炎状の赤色であるのが特徴で、脳組織の切開時には、石灰化のため、ざらざらしか感じ(gritty sensation)がします. 大脳半球切除 は、superficial hemosiderosisが、数年後に20-30%の症例で起こり、神経症状の悪化につながるため、現在では侵襲も小さい functional hemispherotomyが行なわれます.これは、大脳皮質の切除範囲を最小限にし、神経線維を切断する術式です.外科的治療を早期に行なうべきであるとする考え方と、ある一定期間は内科的にコントロールをしてから外科的治療を行うべきであるとする考え方があります.痙攣コントロールに関しては、手術時期はあまり関係ないとされますが、早期手術の方が、その後の精神発達の改善に有効とされます .また、病気そのものや手術による神経脱落症状も、早期手術の方が有利とされます.両側に病変がある場合(15%とされます)でも、痙攣の焦点となっている一側病変の外科的治療で痙攣コントロールが可能になったとする報告もあります.手術の方法によらず、スタージ・ウェーバー症候群の難治性てんかんに対する手術後、81%の症例で、けいれんが無くなったとされます.手術時年齢が若いほど、病変の完全切除が出来たほど、大脳半球切除を行なったほど、術後の予後は良いとする報告もあります.緑内障に対して、眼圧のコントロールが必要です.皮膚のport-wine stainに対しては、レーザー治療が行われます.長い間 pulsed dye laser (577 nm)で治療されてきましたが、585 nmや595 nmのpulseが最近は使われています.
口腔内症状:皮膚病変のある側の顎の骨や軟部組織は、血流が豊富なため、その肥厚や増大が起ることが良く知られています.また口蓋高位も知られています.血流増加により早期に永久歯が早く生えて来たり(premature eruption)、時期や部位が異常の歯が生えたりします.また歯周の問題も起こることがあり、早期に永久歯が抜けることもあります.40%の患者に口腔病変があり、歯肉の肥厚や顎の非対称の成長、歯の早期萌出や萌出遅延、顎の骨性の過形成などが含まれる.いずれにせよ口腔の衛生は重要である.
頭痛:頭痛は、スタージ・ウェーバー症候群の患者さんによく認められる症状です.しかし、一般の人の以上に頭痛があるがは分かっていません.また、一般の人よりも若年で始まるとされます.またスタージ・ウェーバー症候群による特徴的な神経脱落症状と複雑な偏頭痛 migraineとの違いも不明確です.スタージ・ウェーバー症候群の患者さんの中では、偏頭痛が最も多く、また痙攣発作の直後の起ることが多いです.また一部の患者さんの頭痛は緑内障との関連で起るとされています.スタージ・ウェーバー症候群の患者さんは、病変がある部位よりも広範囲に脳循環の自動調節機能 autoregulationが落ちているとされています.このため偏頭痛で見られるのと同じような血管反応性の異常が、頭痛の発現に関連があるとされます.スタージ・ウェーバー症候群の患者さんの頭痛や偏頭痛は、通常の鎮痛薬でまず治療されます.予防的に投与されることもあります.あるレポートでは、スタージ・ウェーバー症候群の患者さんの22%(16/74人)が、トリプタン triptan(イミグラン:セロトニンのアゴニストで、脳動脈を収縮させる働きがある)が有効で、二人の患者さんが一過性の一側の脱力を経験しましたが、他の合併症も無かったとされます [Kossoff 2007].脱力や卒中様発作の頻度は低いですが、triptanの投与は慎重に行なうべきでしょう.また頭痛と痙攣の予防目的で、topiramate(トパマックス), valproate = valproic acid(デパケン、セレニカ), gabapentin(ガバペン)などが処方されることもあります.
スタージ・ウェーバー症候群のRoach Scale type IIの場合、脳病変がありません.顔面のport wine stainだけか、緑内障が合併するかです.従って、この type IIの場合、脳病変が無いのですから、痙攣、頭痛、神経症状(片麻痺、視野障害)などはありません.子供の時に、このような脳病変がないスタージ・ウェーバー症候群の患者さんが、将来、脳病変が出現し、それに伴う症状が遅れて出現することはないと考えられます.新生児期に、顔面にport wine stain(birth mark)がある場合、特に三叉神経第1枝、上眼瞼にある場合には、スタージ・ウェーバー症候群の可能性が否定できません.その後、脳病変を形成されるかどうかは、新生児期に診断することは困難であり、その後の患児の臨床症状や画像で、経過を追う必要があると思います.
以上のように、SWSに於ける皮膚病変のポートワイン ステインは、三叉神経の第1枝、つまり眼神経の分布と関連が深いと長い間、信じられてきましたが、最近は、そうではなく、体細胞のモザイク現象 somatic mosicism に関係するということが分かってきました [Dutkiewicz AS, et al].上の1から6のイラスト皮膚病変ですは、 Dutkiewicz の論文からとったのですが、この部位に皮膚病変があると、SWSつまり、脳に病変がある確率が、それぞれ (1) なし、(2) 2.9倍、(3)なし、 (4) 0.39倍、 (5) 7.7倍、 (6) 17倍に上がるそうです.つまり、1と3の病変は、脳病変はないことが多く、5のように顔面全体や額の正中に皮膚病変がある場合、脳にも病変がある確率が高く、さらに精査が勧められる、ということになります.
The Sturge-Weber Foundation (米国の患者支援団体です)
参考論文
Adams ME, Aylett SE, Squier W, et al: A spectrum of unusual neuroimaging findings in patients with suspected Sturge-Weber syndrome. AJNR 30:276-281, 2009
Boukobza M, Enjolras O, Cambra M, et al: Sturge-Weber syndrome. The current neuroradiological data. J Radiol 81:765-771, 2000
Kossoff EH, Balasta M, Hatfield LM, et al: Self-reported treatment patterns in patients with Sturge-Weber syndrome and migraines. J Child Neurol 22:720-726, 2007
Shirley MD, Tang H, Gallione CJ, et al: Sturge-Weber syndrome and port-wine stains caused by somatic mutation in GNAQ. NEJM 368:1971-1979, 2013
Nakashima M, Miyajima M, Sugano H, et al: The somatic GNAQ mutation c.548G>A (p.R183Q) is consistently found in Sturge-Weber syndrome. J Hum Genet 2014; doi:10.1038/jhg.2014.95
Babaji P, Bansal A, Choudhury GK, et al: Sturge-Weber syndrome with osteohypertrophy of maxilla. Case reports in Pediatrics http://dx.doi.org/10.1155/2013/964596
Dutkiewicz AS, Ezzedine K, Mazereeuw-Hautier J, et al: A prospective study of risk for Sturge-Weber syndrome in children wit upper facial por-wine stain. J AM Acad Dermatol 72:473-480, 2015
2006.3.4 記、2007.11.6、11.29、2009.12.25、2011.6.24、6.29、2011. 9.21、12.5 、2013.4.17、2014.11.26、2016.2.2、2019.1.9、2019.7.30 追記