胸部大動脈瘤・大動脈解離・動脈管開存 と もやもや病(もやもや動脈症)

胸部大動脈瘤・大動脈解離を起こすことで、マルファン症候群(Marfan synrome)、ロイス・デーツ症候群やエーラス・ダンロス症候群(Ehlers-Danlos syndrome)はよく知られています.これらの症候群に動脈管開存に合併することは、殆どありません.しかし、胸部大動脈瘤・大動脈解離に動脈管開存を合併する一群があることが知られるようになり、平滑筋の異常が原因で、ある遺伝子変異により起こることが、2006年に明らかになっています.第16染色体の短腕にあるMYH11という遺伝子の変異で起こります [1].この変異は、MYH11遺伝子のC端末のcoiled-coil regionにあるようです.MYHは、myosin heavy chainの略で、この平滑筋のタンパクに異常をきたし、dominant-negativeという作用機序で、諸症状を呈します.遺伝形式は、常染色体優性遺伝をします.TGF-βの信号伝達系を亢進させる役割があります.


同様に、平滑筋のアルファーアクチンのACTA2遺伝子の変異でも胸部大動脈瘤・大動脈解離や動脈管開存が起こり、かつ脳動脈の狭窄・閉塞、もやもや病も起こることが知られています.このACTA2の遺伝子変異で起こる症候群は、他に固定した開いた瞳孔や頭蓋内硬膜外の内頸動脈の拡張、頭蓋内の中大脳動脈の直線性走行も特徴的です.これらにより、小児で脳梗塞を起こすことがあります.


ACTA2変異の患者さんの症状に似て、MYH11遺伝子変異を持つ患者さんの中でも、もやもや病に特徴的な頭蓋内の内頚動脈に狭窄・閉塞性変化が起こることが報告されています [2].この患者さんには、MYH11 gene NM_002474:c.4604G>A(p.R1535Q)の変異(exon33にありました)がありました.ACTA2変異と同様に頭蓋内の中大脳動脈の直線性走行も起こるようですが、固定した開いた瞳孔はありません.脳虚血の症候性の場合には、通常のもやもや病と同様に、頭蓋内外の直接または間接バイパス術が考慮されます.薬剤のベータ・ブロッカーは、通常、胸部大動脈瘤・大動脈解離に投与されることが多いですが、MYH11遺伝子変異の患者さんには、全身血圧に悪影響を及ぼすとされています.


またMYH11遺伝子変異の乳児に、脳動脈瘤の合併・さらに新生脳動脈瘤 de novo動脈瘤の報告 [3]があり、小児期に脳動脈瘤を形成する疾患の一つとして鑑別が必要です.この患者さんの遺伝子変異は、MYH11: c.5273G>A(p.Arg1758Glin)でした.動脈瘤の形成のメカニズムは、動脈解離と同様に血管壁のコンプライアンスの低下と考えられています.


もやもや病の患者さん、特に小児の患者さんの中で、非典型的な臨床像、特に胸部大動脈瘤・大動脈解離、動脈管開存、脳動脈瘤、瞳孔開大などがあれば、積極的にACTA2やMYH11の遺伝子変異の検査を行うほうがいいと考えられます.




論文2からの転載:もやもや動脈症に特徴的な、狭窄・閉塞性変化ともやもや血管の増生が認められます.



参考文献


1. Zhu L, et al: Mutations in myosin heavy chain 11 cause a syndrome associating thoracic aneurysm/aortic dissection and patent ductus arteriosus. Nat Genet 38:343-348, 2006


2. Keylock A, et al: Moyamoya-like cerebrovascular disease in a child with a novel mutation in myosin heavy chain 11. Neurol 90:136-138, 2018


3. Ravindra VM, et al: Rapid de novo aneurysm formation after clipping of a ruptured middle cerebral artery aneurysm in an infant with an MYH11 mutation. J Neurosurg Pediatr 18:463-470, 2016


2019. 11. 28 記載


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