ACTA2の変異と脳動脈症 cerebral arteriopathy

平滑筋のα actinをcodeしているACTA2の変異により多臓器に平滑筋障害を起こす症候群の報告があり、小児の脳梗塞を起こすことも知られています.小児期の脳梗塞を起こす疾患の鑑別の一つに入れる必要があります.


固定した開いた瞳孔fixed dilated pupils、mydriasis)つまり瞳孔収縮異常(congenital mydriasis)、動脈管開存persistent ductus arteriosus)、胸部大動脈の動脈瘤や解離thoracic aorta aneurysm and dissection)、膀胱や腸管の機能不全(hypotonic bladder, hypoperistalsis)、もやもや現象moyamoya phenomenon、しかしもやもや血管は発達していない)、頭蓋内硬膜外内頚動脈の拡張 dolichoectasia、頭蓋内硬膜内の脳動脈の直線的走行と狭小化straightening and narrowing)、冠動脈疾患、肺高血圧症、のような症状・病変を持つ疾患群です.


ACTA2遺伝子の部位は、いくつも可能性があり、どのpointが変異しているかで、症状が異なるようです.通常は、p.Arg179Hisの変異ですが、p.Arg179Leuの変異の報告もあります.小児期に動脈性の脳梗塞を起こしますが、もやもや病とは、異なったところが多くあります.平滑筋の形成異常が、根底にあるので、脳血管だけでなく、全身の動脈に異常が来る可能性のある疾患です(hyperplastic vasculomyopathy).またもやもや病の脳血管と異なり、側副路のもやもや血管の発達が悪いこと、後方循環(脳底動脈や椎骨動脈)まで狭窄が来ること、頸動脈の近位の拡張と末端の狭窄、特徴的な扇を広げたような脳動脈の直線的走行、脳白質の虚血性の変化、などが認められます.


頸動脈に拡張性変化と狭窄性変化が来るのは、平滑筋形成異常が背景にあり、頸動脈の弾性部分と筋性部分の違いとも推測されています.比較的細い径の筋性部分は、平滑筋細胞が増殖し、血管が閉塞傾向を呈しますが、太い径の弾性部分のエラスチンは、変異したactinのため、平滑筋細胞の増殖が抑制され、血管の収縮性が低下し、その結果、動脈が拡張する(arterial dilatation/dolichoectasia)との推測があります.


全身疾患であるため、その予後は、不良のこともあり、また脳血管のバイパス手術も、通常のもやもや病よりも合併症(脳梗塞)が多いとされます.症状は、頭痛だけから、半身麻痺、精神発達遅延、半盲など多彩です.


平滑筋の細胞の活動性や移動を制限する分子標的治療薬としてイマチヌブ(imatinib、グリベック)が注目されています.しかし、この薬の適応は、日本では慢性骨髄背白血病、フィラデルフィア染色体陽性の急性リンパ性白血病とKIT (CD117) 陽性の消化器間質腫瘍(GIST: gastrointestinal stromal tumor)のみです.


  
 


当院で治療を行った患者さんです.40歳台の男性で、遺伝子検索はしていませんが、ACTA2の変異に特徴的な血管像を呈しています.


左内頚動脈撮影の動脈相(左図: 動脈相正面、右図:動脈相側面).中大脳動脈の近位部閉塞と穿通枝の側副路(もやもや血管)の発達があります.硬膜外の内頚動脈の拡張もあります.中大脳動脈の末梢への直線的走行が認められます.右側も同様の所見でした.


まとめ:開いた瞳孔、動脈管開存、中大脳動脈の直線走行、そして小児の脳梗塞をみれば、ACTA2変異を疑う.


参考文献


Khan N, Schinzel A, Shuknecht B, et al: Moyamoya angiopathy with dolichoectatic internal carotid arteries, patent ductus arteriosus and pupillary dysfunction: a new genetic syndrome? Eur Neurol 51:72-77, 2004


Milewicz DM, Østergaad JR, Ala-Kokko LM, et al: De novo ACTA2 mutation causes a novel syndrome of multisystemic smooth muscle dysfunction. Am J Med Genet Part A 152A:2437-2443, 2010


Milewicz DM, Kwartler CS, Papke CL, et al: Genetic variants promoting smooth muscle cell proliferation can result in diffuse and diverse vascular diseases: evidence for a hyperplastic vasculopathy. Gen Med 12:196-203, 2010


Munot P, Saunders DE, Milewicz DM, et al: A novel distinctive cerebrovascular phenotype is associated with heterozygous Arg179 ACTA2 mutations. Brain 135:2506-2514, 2012


Amans MR, Stout C, Fox C, et al: Cerebral arteriopathy associated with Arg179His ACTA2 mutation. J NeuroInterv Surg 6:e46, 2014




2014.10.22 記、2015.8.24、2017.3.3 追記


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