オスラー病患者さんを受け持った主治医からよくある質問

FAQ1: 麻酔をかけて手術をします.何か気をつけることはありますか?


もし脊髄麻酔での手術予定でしたら、脊髄に血管奇形がないことを確認する必要があり、脊髄(腰髄)のMR検査が必要です.硬膜外麻酔であれば、術前に脊髄の検査は不要とされています.


肺に病変が残存している場合は、点滴ルートにある空気(気泡)が入らないような注意が必要です.肺の病変の治療後の患者さんでも、再発・再開通している可能性が小さくないので、同様の注意が必要です.鼻腔には必ずと言っていいほど、毛細血管の拡張病変がありこれが鼻出血の原因ですが、麻酔中の挿管や胃管は、鼻腔を通さないことをお勧めします.小さな手術でも、通常量の抗生剤の投与が勧められますが、特に投与量や期間を増やす必要はありません.他は、通常の患者さんと同じようなリスクで、手術が可能と考えます.


FAQ2: 遺伝子検査をしたいのですが、どうすればいいでしょうか?


現時点(2021/3/6)で、国内で他施設からの検体を受け入れている施設が1箇所あります(2018年4月から).自施設の患者さんの遺伝子検査を行なっている大学病院はあるようですが、その場合は、遠方であろうが、その施設の患者として受診を行い、遺伝カウンセリングを受けてから、適応があれば、遺伝子検査を行う、といった手順のようです.当院(大阪市立総合医療センター)では、自前で検査を行ってきました.


オスラー病の遺伝子検査が、保険収載され、5,000点と決まりました.2020.4.1から、施設基準に適合し、届け出た保険医療機関で可能です.


遺伝子検査の意義はいうまでもありませんが、クラソーの診断基準は、16歳以上のオスラー病疑いの患者さんの診断にはかなり有用で、3項目以上あれば、臨床的にオスラー病です.家族歴があり、内臓の動静脈奇形(鼻出血や毛細血管拡張病変ではない)がある場合も、かなりオスラー病の可能性が高いです.遺伝子検査を行ったとしても、10%の患者さんで、責任遺伝子の変異の検出はできません.この場合、診断は、クラソーの診断基準に則って行い、遺伝子変異は同定できず(恐らく、未知の遺伝子変異があると思われます)、ということになります.遺伝子変異は同定できない場合でも、3項目以上認められば、オスラー病が確定です.


国内での検査施設


かずさDNA研究所            http://www.kazusa.or.jp

 その遺伝子検査室        https://www.kazusa.or.jp/genetest/request.html 


患者さん個人からの検体は受けず、医師・病院からの依頼によって検査を有料で行ってくれます.病院間の契約が必要、遺伝カウンセラーの介在が必要など、細かな取り決めがあるようで、詳しくは 、かずさDNA研究所にお問い合わせください.



FAQ3: オスラー病の患者さんを診ています.XXの手術が必要なのですが、周術期の出血や全身の血管異常などがある可能性があり、安全に手術が出来るのでしょうか?


もちろん、いろんな状態の患者さんがおられ、case by caseで一言で、high riskとかlow riskなどと断言できません.血管奇形は、脳や肺、肝臓にある可能性があり、これらをscreeningした方がいいのですが、急いでいるときは、そんなことはできません.何かの手術によって脳や肺の血管奇形が出血する可能性は、極めて低いですし、それを見つけてもelectiveで治療することがあっても、緊急で治療することはありません.またオスラー病では、血液学的に鼻出血や消化管からの慢性出血で鉄欠乏性貧血の方はおられますが、これは輸血で解決しますし、オスラー病によって出血傾向が出ることはありません.肝臓の血管奇形も、心不全を起こす方はいますが(通常、中年以降のHHT type 2の女性)、通常は無症状です.従って、普段聴いたことがない病名のオスラー病であっても、オスラー病でない患者さんと同じように外科的治療が可能なことが大半であることを知ってほしいです.



参考文献


van Gent MW, Velthuis S, Post MC, et al: Hereditary hemorrhagic telangiectasia: how accurate are the clinical criteria? Am J Med Genet A 161A: 461-466, 2013



2016.7.2 記載、2017.4.20、5.9、10.2、10.17、2018.5.9、2020.3.12, 2021.3.5 追記