医師の書くお悔やみの手紙


 
  1. 箇条書き項目 アメリカの有名な医学雑誌のNew England Journal of Medicine 344, 1162-1164 (April 12, 2001)からの抜粋です.


私の母のジーン・スミスは8月3日死亡しました.彼女はメディカルセンターのロバーツ先生の患者でした.90歳の死まで、彼女は活動的な人で、ドライブをしたりヨガ教室に通ったりして家族や外界とも深く関わってきました.彼女は寝ている間に突然死亡しました.私たちは深く悲しんでいます.


数週間して、母が死んだことを知らせる手紙をロバーツ先生に書きました.手紙には、母が自分の健康について不安や心配をしたときの先生の母への励ましや誠実な医学的な気遣いに対して非常に感謝していることを書きました.


しかし、未だかってロバーツ先生やメディカルセンターのどなたからも御返事を頂いておりません.このことで私は非常に落胆し、さらに悩んでおります.このことを是非知って頂きたいと思います.  


マーガレット・スミス


医師の患者さんへのお悔やみの手紙についてです.19世紀のアメリカでは、医師の当然の仕事の一つであったらしいです.お悔やみの手紙だけでなく、亡くなった患者さんのお葬式に参加することも、昔は、当たり前であったようです.死に対する考え方も変わってきますし、医師側も、忙しかったり、手紙を書くほど患者さんのことを知らなかったり、チームで見ているので誰が主治医かはっきりしなかったり、またどのように書いて良いのか分からないのも理由でしょう.


時代が変わり、死の悲しみ方も変化してきているようです.しかし、医師は患者さんの治療だけが仕事ではなくて、その患者さんが亡くなった時は残された遺族の心のケアーをするもの仕事であるという考えもあります.この時に、お悔やみの手紙は、御遺族が通る悲しみのプロセスを積極的に通過するのに役立つようです.場合によっては、医師側の敗北感や法的な問題を懸念することもあるかもしれません.しかし、特に、予期していなかった死亡や合併症による死亡の場合は、このお悔やみの手紙は、遺族にとってマイナスではなくプラスにはたらくとしています.


患者さんを診ていると言うよりは、病気ばかりに目が行きがちな今の医学ですが、この記事は、とても考えさせられる部分がありました.


2001.9.2 記(もやもや病のホームページから)


  1. 箇条書き項目 今まで、医師生活でたくさんの患者さんがお亡くなりになるのを見てきました.重症の交通事故による頭部外傷や重症のくも膜下出血の患者さんでは、瀕死、もしくは既に死亡しているに近い患者さんも多くいました.入院後に、すぐになくなった患者さんや治療過程でお亡くなりになった患者さんもいます.治療できずに、または、治療手段がなく、お亡くなりになった患者さんもいらっしゃいます.


上記の論文を見てから、私自身、恐らく10通近くのお悔やみの手紙を御家族に書いたことがあります.その手紙に対して御遺族がどう感じられたかは、分かりませんが、マイナスになっていないことを祈っています.


2007.10.15 追記


  1. 箇条書き項目 Sさんのお母様からの手紙:娘さんを病気で亡くされたお母様から長い御手紙を頂きました.私の患者さんではないですが、私が専門とする分野の病気で娘さんは亡くなられました.治療過程でのいろんな担当医師・病院への思いとは別に、亡くなったことを知らない3人の元の病院の主治医へ経緯を書いた(御礼の)手紙を出されたようです.上記のマーガレット・スミスさんの手紙に良く似た趣旨の手紙だと思います.一週間後に、一人の優しい小児科医から御悔やみの手紙が届きました.お母様は涙が溢れてきたと書いておられます.御遺族はこの手紙にとても癒されたそうです.他の科の二人の医師からは連絡は無かったそうです.上述の10月15日のパラグラフに「手紙に対して御遺族がどう感じられたかは、分かりませんが...」と私は書いていますが、お母様は、今回頂いたお手紙に「先生のお手紙を頂戴した遺族は、心が癒されますよ」と書かれていました.


2008.1.17 追記


  1. 箇条書き項目 Sさんのお母様から頂いた手紙が、10年ぶりに出て来ました.読んで、それで終わり、という訳もいかず机の片隅に置いておいたのだと思います.お母様が、どうされているか分かりませんが、 きっと10年経っても、娘さんへの気持ちは変わっておられないと思います. 再度、ホームページに掲載することにしました.


2018.10.19 追記


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