何故、病院ごとに診断が違うの?

血管腫・血管奇形ー同じ病気なのに、どうして病院ごとに診断が違うのでしょうか?

 

それには、いくつかの理由があります.

 

まず、この病気を扱う病院での科がたくさんあるのが原因です.皮膚科、形成外科、外科、小児外科、耳鼻科、口腔外科、小児科、小児内科、産科、新生児科、眼科、脳神経外科、放射線科などがあり、それぞれの分野で得意・不得意があるためです.このようの多くの科が関わるために、逆に専門にしている医師が少ないことも原因です.

 

次に、共通の「言語」がないからです.つまり、病変の分類に関する共通の言葉をもたないのが原因です.上記の科の中で、血管撮影を読める医師は、脳神経外科医と放射線科医でしょう.つまり血行動態について理解するためには、血管撮影が必要ですし、それがないと分からないということになります.皮膚科・小児科・形成外科医以外は、母斑などを含めた皮膚所見には弱いように思います.

 

「血管腫」のあらわす意味が、医師によって全く異なるからです.多くの医師が、「血管奇形」を血管種に含めている、または区別できないのが一番大きな原因でしょう.病理医は、標本を顕微鏡で見て、診断します.診断の裁判官のような存在ですが、同じように、病理診断の根拠になる分類が、しっかりしていないのが原因で、血管腫と血管奇形の分類も人により、異なることになります.

 

多くの専門家が、Mulliken JBとGlowacki Jの1982年の分類の有用性を知っています.この分類を無視して「血管腫」という言葉を使っている医師は、この臨床経過の全く違う病態を区別せずに(出来ずに)使っている場合があります.

 

ポートワイン ステインは、毛細血管性血管奇形、海綿状血管腫は、静脈性血管奇形、動静脈ろうを伴う血管腫は、動脈性血管奇形(動静脈奇形)の場合が、多いわけです.これらの治療法の異なる病変を、すべて血管腫としてしまうと治療にも混乱が起こります.当然、予後も異なります.

 

Mulliken JBとGlowacki Jの分類での血管腫は、90%近くが、自然と消退します.つまり消えていくということです.消退しない10%の血管腫と血流の殆どない(low-flow)血管奇形との区別が、明瞭でないことも混乱の一因です.

 

このように共通の言葉をもたない医師が診てもらうと、異なる診断が付くのも不思議ではありません.

 

 

Mulliken JB, Glowacki J: Hemangiomas and vascular malformations in infants and children: A classification based on endothelial characteristics. Plas Reconstr Surg 69: 412-420, 1982


参考図書

小宮山雅樹:神経脈管学、メディカ出版、大阪、2012

 

2004.3.15記、2012.10.25追記 


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