10. 脳動静脈瘻Pial arteriovenous fistula [30]

 

広義の脳動静脈奇形の中には、介在するnidusを持たず、栄養動脈が直接、導出静脈につながる脳動静脈瘻が含まれ、その頻度は約5%とされる.ガレン大静脈瘤や硬膜動静脈瘻を除くと、小児期の脳動静脈瘻は、非常に頻度は低いが、その多くは5歳以下で診断され、成人で脳動静脈瘻が診断されることはほとんどない.性別では、男児の方が多いとされる.脳動静脈瘻の約30%が、遺伝性出血性毛細血管拡張症(HHT)に関連している.小児の場合、鼻出血や皮膚症状に乏しいことが多いため、家族歴を注意深く聴取する.脳の多発病変の場合は、他の臓器病変(肺・肝・消化管)がなくても、HHTを疑う.HHTでは、フォローアップ中に、新たな動静脈瘻が形成されることはないとされる.HHTには、肺動静脈瘻の合併があることが多いため、脳膿瘍・脳梗塞で発症する場合があり、また脊髄血管病変の出血で発症する場合もある

 

脳動静脈瘻は、心不全、巨頭症、痙攣、脳局所症状などで発症する.新生児は、心不全で発症することが多い.出生前に偶然に発見されることもあるが、通常、症状は出生後に出現する.比較的、出血発症は少ないとされるが、痙攣や局所神経脱落症状の原因となる.病変部位は、テント上の方がテント下よりも高頻度であり、テント上では、前頭葉と側頭葉に多いとされる.多発病変を持つ症例もある.[31,32]

 

診断は、まずCT, CT angiography, MRI, MR angiographyで行う.MRI画像上では、病変内の遅い血流や乱流がparadoxical enhancementで高信号として認められる場合があり、出血や血栓との鑑別を必要とする.皮質動脈が栄養動脈で、single feeder-single drainer typeが多いが、multiple feedersでもsingle drainerの構造をとることが多い.またfeeder aneurysmは少ない.静脈側には、拡張ectasia・静脈瘤varixや狭窄性変化が高頻度で認められる.病変が脳表(superficial drainage)にあるため、deep drainageはほとんどない.また、他の小児血管奇形に認められるほど、脳静脈洞の閉塞は多くない. 

 

10.1. 遺伝性出血性毛細血管拡張症、Hereditary hemorrhagic telangiectasia (HHT)

 

遺伝性出血性毛細血管拡張症(HHT)は、Rendu-Osler-Weber syndrome、オスラー病とも呼ばれる常染色体優性遺伝の疾患である.Mucocutaneous telangiectasiaとvisceral AVMが特徴で、前者により鼻出血や消化管出血が起こる.特に、鼻出血 nose bleedは特徴的である.血管病変は、動静脈瘻arteriovenous fistula (fistulous type AVM)、小さなnidus typeの動静脈奇形 (small nidus type AVM)、非常に小さな動静脈奇形(micro AVM)の3タイプがある [33].動静脈瘻は、肺、脳、肝臓に多いとされる.変異した遺伝子によりHHT1とHHT2が分かっている.HHT1はendglin遺伝子で第9染色体に、HHT2はactivin receptor-like kinase遺伝子で第12染色体に変異した遺伝子がある.これらの遺伝子は毛細血管の形成に関与することが知られている.脳動静脈奇形や動静脈瘻との関連もよく知られており、多発性で皮質中心に病変があり、nidusの大きさが1cm以下のAVM(micro AVM)やAVFが多く、1本の栄養血管と1本の導出静脈の構造が多い [34].また、脳・脊髄の動静脈瘻はde novoでは出現しないと考えられている [33].

 

診断基準が4項目あり、3項目あれば確診、2項目あれば疑診とされる.1: 繰り返す鼻血、2: 皮膚・粘膜の毛細血管拡張症 telangiectasia、3: 脳・肺・肝・消化管の血管病変(動静脈瘻)、4: HHTの1親等以内の家族歴.画像診断も重要であるがHHTの診断には、問診が重要である.特に家族歴の中での鼻出血の有無は重要で、多くの症例で問診だけでHHTが十分疑われる.鼻出血の程度は、軽微なものから大量出血のため輸血を必要とする場合まである.鼻粘膜を観察すると、telangiectasiaが多数観察される.また顔面・口腔粘膜・口唇・舌のtelangiectasiaも観察する.画像診断では、低侵襲なCT, CTAやMRI, MRAが第一選択である.血管構築としてdirect shuntもあればnidusをともなう病変もある.しかし、シャント量が小さい場合には、CTAやMRAでは描出されないため、確定診断にはカテーテルによる血管撮影が必要である.脳病変・脊髄病変以外にも、肺動静脈瘻や肝動静脈瘻の検査をCTで行う.肺動静脈瘻があるため、診断のカテーテル検査を行う場合や歯科処置を含む外科的処置時には、予防的な抗生物質の投与が必要である.また、点滴ルートや造影検査時のルートなど静脈系からのair bubbleの混入にも注意が必要である.肺動静脈瘻の検査は、造影のCTは必要なく、thin slice(3 mm)の非造影のCTで行う.肺動静脈瘻による脳膿瘍・脳梗塞の予後は不良であるが、治療によりその予防が可能であるため、家族・親族へのこの疾患についての教育は、特に重要である.

 

10.2. 治療

 

多くの症例で積極的な治療の適応がある.血管構築が複雑な場合は、治療が容易でない場合もある.新生児では、出血のリスクよりも心不全治療が必要であり、さらに小児期で年齢が上がると、高いhydrovenous pressure(venous hypertension)による脳障害を防ぐために治療が必要である.一見、one feeder – one drainerに見えるAVFであっても、塞栓術がproximal occlusionに終わると術前描出されていなかった小さな栄養血管(collateral)がシャント部位近傍に現れることがあり、一部静脈側(多くの場合はvarixがある)で閉塞を始め、さらにできるだけシャント部位そのもので閉塞する.コイルによるproximal occlusionのみでは、動静脈瘻が消失しないことが多い.このことを理解し、塞栓物質としてコイルやNBCAを選択する.病変部が、前大脳動脈の遠位部のようにかなり末梢であればコイルを持っていくのが困難な場合がある.また、high-flowの病変では、NBCAが病変を抜けて静脈側にmigrationする危険性がある.非常に短い距離で、病変の閉塞が必要な場合、コイルが有用なことがある.また、複数回の治療を必要とする場合も多い.動静脈瘻が閉塞した後、残存するcoil massや血栓化した病変を外科的に摘出する必要はない.多発性のmicro AVMが、偶然見つかった場合は、注意深い経過観察を行う.HHTで肺の動静脈瘻の合併がある場合は、肺動脈の栄養動脈の径が3 mm以上の場合には、脳梗塞・脳膿瘍の可能性が高くなるので治療の適応である.その場合、コイルによる塞栓術が第一選択になる.鼻出血は、難治性で植皮手術が適応になる場合がある.

 

10.3. 治療成績

 

治療の合併症は、脳動静脈シャントの不完全閉塞下で、静脈側が閉塞した場合や動静脈シャントを閉塞しても、さらにvenous thrombosisが起こり、静脈側の導出不全が起こった場合に脳出血が起こることがある.著者は3症例経験し、痙攣重積で発症した2歳男児の症例は、前大脳動脈を栄養動脈とする動静脈瘻で経動脈的にglue塞栓術で閉塞し、歩行障害で発症した3歳男児の症例は後下小脳動脈を栄養動脈とする動静脈瘻で経動脈的コイル塞栓術で閉塞した.Varixからの出血で発症した5歳女児の症例は、HHTに合併した多発miciro-AVM/AVFで、中大脳動脈が栄養動脈である出血病変のみをglueで閉塞し、4つの残存病変は経過観察をしている.3例とも現在、神経学的に異常はない.

 

11. 文献

 

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2006.8.6記 


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