7.新生児期の血管撮影および血管内手術

 

7.1. 新生児期の血管撮影・血管内手術の特異点 [4]

 

新生児にとって脳血管撮影は侵襲的であるため、脳血管撮影を行う場合は、治療をすることが前提となる.保存的に経過を見る場合は、脳血管撮影を行わずに患児の成長・体重増加を待つ.CT/CTA, MRI/MRAでかなりの情報を得ることができるが、高度の心不全・呼吸不全がある新生児にMRI検査に時間を使うことは危険な場合がある.ベッドサイドの超音波検査を有効に利用するべきである.一般的な注意事項として、患者の体温維持が非常に重要である.深部体温が35.5℃以下の低体温は、全身血管の収縮をきたし、循環系の異常やacidosis、DICをきたし患者の状態は重篤になる.体温維持のため四肢を綿や銀紙でラップし、室温にも気を配る.冬期には、スタッフの出入りだけでも血管撮影室の室温は低下する.また、維持液に生理的食塩水を使用すると電解質が入りすぎるため5%グルコースを使用する.ヘパリンが入り過ぎないように1unit/mlの濃度にした5%グルコースを溶媒にしてヘパリン溶液を作る.造影剤の量は6ml/kgを極量と考えて使用するが、心不全や腎不全があるときは、さらにその使用量は制限される.新生児の血管撮影には、造影剤量を減らす目的でも、bi-planeのDSA設備が望ましい.カテーテルの死腔内の造影剤量は、約0.5 mlあるので、毎回吸引して捨てる.造影剤の総量を出来るだけ少なくするために、不必要な撮影はするべきでなく、またステレオ撮影も避けるべきである.反対側の用手的頚動脈圧迫による頚動脈撮影で反対側頚動脈の情報を得るのが有用な場合もある.撮影時間を長くして、造影剤の第二循環まで撮影すれば、全脳の血管情報(pan-angiography)を得ることができるので有用である.動静脈瘻がある場合、短時間で造影剤の第二循環がやってくる.

 

7.2. 経大腿動脈の血管撮影・血管内手術

 

診断目的の血管撮影は原則的に、新生児には適応はない.しかし、何らかの理由で1回のみの診断目的に血管撮影を行うのであれば、3Fのシステムで検査を行う.単純なBerenstein型(vertebral type)の形状のカテーテルで十分可能である.しかし、血管内手術を念頭に置いている場合は4Fシースを大腿動脈に挿入して、4Fのカテーテルを使用して血管撮影を行う.シースの改良とともに、3Fシース(25-30 cm長)を親カテーテルとして使用することも可能である.この場合、診断を行う場合は、そのシースをそのまま使用する場合と3F診断カテーテルを使用することが可能である.透視下で注意深くカテーテルを大動脈弓まで上げないと、カテーテルの先端が思っているよりも頭側に上がっていることが多いので注意が必要である.外頚動脈や内頚動脈は、high-flowのため必ずといって良いほど、動脈の延長・蛇行、ループ形成をしている場合(high-flow angiopathy)、wire-guided microcatheterでは必ずしも目的とする血管へカテーテルを誘導することは容易ではない.症例によっては、flow-guided microcatheterでないと、目的血管に到達しない場合がある.ガイディングカテーテルなしで、マイクロカテーテル単体でも頭蓋内にカテーテルを誘導することは可能であるが、血管内手術を行うためには、この方法ではマイクロカテーテルの安定性が欠けるため、カテーテルが大動脈に落ちるためにかえって時間がかかり目的とする塞栓術が不可能であったり、時間がかかったりする.新生児の動脈壁は薄くperforationしやすいので、マイクロカテーテルの手荒な操作はしない.日を変えて(数日以内、多くは翌日)塞栓術を行うときは、シースをそのまま留置可能であるが、下肢の血行には常に注意を払い、血行が悪くなったときは直ちにシースを抜去する.また大腿動脈は.左右交互に穿刺して使う.採血目的での大腿動脈穿刺は、その後の大腿動脈アプローチを困難にするため、避けるべきである.

 

低体重出生児の場合、大腿動脈の発達は未熟であり、脳での動静脈シャント量が多い場合、下行大動脈・下肢の血圧が正常であっても、血流はto and froになっているため、大腿動脈の血流は不十分であり、大腿経由の血管撮影や血管内治療は、下肢に虚血が起こる可能性がある.Lasjauniasらが治療を行ったガレン大静脈瘤の新生児で最も体重が少なかったのが2800グラムとされ、2500グラム以下の低体重出生児の治療に、大腿動脈経由での治療は注意を要する.大腿静脈から経静脈的なアプローチしても低体重出生児であるとカテーテルによる大腿静脈の一時的閉塞のため、下肢の静脈性の虚血の危険性がある [5].

 

7.3. 経橈骨動脈の血管撮影(診断目的のみ)

 

持続動脈圧測定目的で留置された橈骨動脈への留置針からでも逆行性の脳血管撮影が可能である.2-3 mlの造影剤を用いて、力いっぱいシリンジを押すことによって、診断目的の脳血管撮影を行うことが可能である.当然ながら治療目的のルートにはならない.右側の場合、右頚動脈・右椎骨動脈の情報が得られるが、左側の場合には、原則的に左椎骨動脈の情報だけとなる.しかし、この場合も、動静脈瘻があるため側副血行路を介して左頚動脈の情報が得られることがある.また造影剤の第二循環まで撮影するとpan-angiographyとしての情報を得ることが可能である.

 

7.4. 経臍帯動脈及び静脈の血管撮影・血管内手術 [6]

 

経臍帯血管撮影は、臍帯動脈や臍帯静脈を介して行う.臍帯動脈は2本、臍帯静脈は1本あり、その解剖の理解が必要である.必ずしもこれらのルート確保は容易ではないが、出生後早期に臍帯動脈または臍帯静脈を確保し4Fまたは5Fのシースを挿入するか、栄養チューブや臍帯チューブ(市販されている)を入れておいて、血管撮影時にシースに入れ替える.特に臍帯動脈は生後早期にカニュレーションする必要がある.出生前に診断されて帝王切開にて出産する場合、産科医に臍帯を長く採るように依頼する.臍帯動脈から内腸骨動脈・大動脈経由で動脈撮影が可能である.この場合、臍帯動脈から内腸骨動脈の走行は、膀胱の外側を弓なりに走行しているため、留置するシースはkink-resistantのものを使用する.臍帯静脈を介してそのまま静脈管・下大静脈経由で静脈系の撮影もできるが、さらに必ず開存している卵円孔を介して右心房から左心房へ入ると、経心ルートで上行大動脈に入り動脈撮影が可能である.後者のルートを使うときは、小児循環器内科医の協力を得て5Fのバルーンカテーテルを用いて上行大動脈までカテーテルを進め、ガイドワイヤーを用いてTracker-38 catheter(先端の柔軟部長20 cm)に交換し、このカテーテルを目的とする頚動脈または椎骨動脈まで進める.これを親カテーテルとして、マイクロカテーテルを用いて頭蓋内での血管内手術を行う.心臓内で親カテーテルは一回転しているが、マイクロカテーテルの操作性は悪くはない.

 

7.5. 総頚動脈直接穿刺による血管撮影・血管内手術

 

新生児期に、低体重出生のため大腿動脈ルートが使えず、また臍帯ルートの確保が出来なかった場合、頚動脈を直接穿刺して経動脈的アプローチが可能である.脳で動静脈短絡があるため、頚動脈は通常、太く拡張している.この場合、経皮的にエコーガイド下で頚動脈を穿刺する方法もあるが、動脈血が流れる頚静脈を穿刺してしまう可能性があることと、またこのようなアプローチが必要な新生児は、血小板減少など凝固異常を伴うことが多く(Kasabach-Merritt現象)、直視下で頚動脈を穿刺した方が安全であると思われる.我々は、小児心臓外科医に総頚動脈を露出してもらい、先に穿刺部位の総頚動脈にタバコ縫合を行い、18Gのエラスター針を用い脳血管撮影・血管内治療を行う [5].このエラスター針は、穿刺状態を安定させる目的で皮膚を介して穿刺する.

 

7.6. 脳静脈洞または病変への直接穿刺による血管撮影・血管内手術

 

何らかの理由で、他の部位からのカテーテルによる病変へのアプローチが困難な場合、脳静脈洞または病変への直接穿刺による診断造影・治療が可能である.脳静脈洞は、anterior fontanelleへの直接穿刺や病変直上の小さなburr holeから病変を直接穿刺して、カテーテルを進める.以前、torcular herophiliから直接穿刺を行った時期があったが、血管穿孔による出血性合併症や感染の可能性があり、機材がよくなった今では殆ど行われることはない [7].

 

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2006.8.6記 


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