新生児期(周産期)の脳卒中 perinatal stroke
新生児期(周産期)の脳卒中 perinatal stroke
周産期(生後28日まで)の脳卒中は決して稀ではなく、その発生率は、1,600-5,000出産に一人とされます.この数字は少なくとも、大人の脳梗塞の発生率17−23/十万人と同じです.つまり、脳梗塞の発生率は、胎生期・周産期と高齢期の2時期に高いと考えられます.ここでは、脳出血や静脈性疾患は除き、周産期の動脈性虚血の脳梗塞 perinatal arterial ischemic stroke(PAS)のみを扱います.
この時期、多くの患児は、低緊張 hypotonia、無呼吸 apnea、けいれん seizureで発症します.新生児期を越えた小児や大人と異なり、新生児が、左右の運動の差や筋緊張の差で発症することはなく、けいれんを起こし、初めて画像診断が行なわれ、脳梗塞の診断がされることが多いです.この時期には、bed sideで超音波検査が行なわれることが多いですが、脳梗塞の診断能力は高くはありません.逆に、生後4-5ヶ月以降になり、患児の左右の運動の違い(emerging hemiparesis)、発達の遅れ、初めてのけいれんで、脳梗塞と診断されることが多いです.新生児の脳梗塞は、出生前を含め、生後72時間までに起ることが多いとされますが、正確なことは分かっておらず、早い場合には、妊娠中期に起るとされます.この時期の脳卒中のリスクファクターは、良く分かっていません.母体側の因子や患児側の因子がいくつか報告されています.
この時期に脳卒中を起こした患児の多くは、運動麻痺や認知障害、行動異常、けいれんなど、長期に渡る障害を持つことが少なくないです.半数以上の患児が長期間の運動障害や認知障害を持つことになりますが、その再発率は非常に低いとされています.脳性麻痺 hemiplegic cerebral palsyの原因の多くは、周産期の脳梗塞とされ、両側に脳梗塞がある場合、四肢麻痺性の脳性麻痺となります.脳梗塞が原因の脳性麻痺の場合、コントロールが困難なけいれんや言語発達の遅れ、行動異常などを伴うことがあります.
妊娠中の母体の血栓性の変化が、周産期に増強されます.母体にも新生児にもこの時期に、脳卒中や血栓・塞栓性の疾患が増えます.脳と胎盤の血管構築や血栓性が、周産期の脳卒中の重要な要因とされています.妊娠に関連する母体の脳梗塞 pregnancy-related strokeの因子は、出生後の感染症、偏頭痛、出血傾向、systemic lupus, 心疾患、子癇、糖尿病、喫煙、肥満、高齢出産、3日以上のベッド上安静、帝王切開などがあげられています.患児側の因子として、この時期の患児の血液粘度は高く、血栓性が増しています.特に、胎盤の中の血流は遅く、胎盤の中の血栓性病変が、周産期脳梗塞に関連が深いとされています.他に、出産時の頚部動脈の伸展・牽引、出生後の水分不足、低血圧、感染、カテーテル留置、卵円孔開存、などもあげられます.また、脳以外の他の部位(腎、心臓、大動脈、四肢)の血栓症も新生児期に最も多いとされます.また、母体、児側の血栓形成傾向 thrombophiliaも周産期脳梗塞に何らかの関係があるとされていますが、詳しいことは分かっていません.多胎妊娠で、他の児も脳梗塞になった報告は殆どありません.
新生児の脳梗塞のリスクファクター
母体の病気
子癇、不妊、羊膜炎、自己免疫疾患、凝固異常、抗リン脂質抗体
双胎間輸血症候群、胎児のコカインや吸入物質への暴露
胎盤の病気
胎盤血栓症、胎盤早期剥離、胎児母体出血
血液、ホモシステイン、脂質の病気
多血症、播種性血管内凝固症候群(DIC)、Factor V Leiden 変異
S蛋白欠損、P蛋白欠損、プロトロンビン変異、ホモシステイン、Lipoprotein a、Factor VIII
心臓の病気
先天性心疾患、動脈管開存、肺動脈弁疾患
血管の病気
血管奇形、動脈解離
感染症
中枢神経感染症、全身の感染症
外傷とカテーテル留置
脱水
体外循環
文献
Wu YW, Lynch JK, Nelson KB: Perinatal arterial stroke: understanding mechanisms and outcomes. Semin Neurol 25:424-434, 2005
Nelson KB: Perinatal ischemic stroke. Stroke 38 [part 2]:742-745, 2007
参考図書
小宮山雅樹:神経脈管学、メディカ出版、大阪、2012
2011.10.10 記、10.18追記