外傷性脳動脈瘤
外傷性脳動脈瘤
外傷性動脈瘤 traumatic aneurysm は、損傷を受けた動脈壁の構造によって組織学的に 真性, 仮性, 解離性, 混合型に分類されるます.真性動脈瘤では外膜は残っており、仮性動脈瘤ではすべての壁構造が障害を受けており、解離性動脈瘤では出血が壁内を進展している.これらの3タイプが混在すれば 混合型と呼ばれるます.外傷性動脈瘤は、脳動脈瘤全体の1%以下の頻度とされます.小児の動脈瘤のうち14-39%は、外傷性であるとされます.閉鎖性、穿通性頭部外傷や医原性脳血管損傷の後の、早期または晩期に症候性となります [Ventureyra].1994年時点でのレビューで、外傷性動脈瘤の報告は、436例有り、そのうち小児期・青年期の動脈瘤が130例(30%)でした.外傷性動脈瘤の好発年齢は、外傷を受けやすい社会活動が最も活発な20歳代の男性とされますが、小児期・青年期のものに限ると、10歳迄が44%、10歳代が56%です.さらに、この小児期・青年期の動脈瘤は、男性優位であり、男女比は3.1/1でした.その外傷メカニズムを、閉鎖性頭部外傷、銃創、穿通性外傷、医源性に分けると、それぞれ72, 16, 4, 7.3%でした.医原性の動脈瘤は、小児・青年期の外傷性動脈瘤の7%であり、医原性の動脈瘤の16%が小児期の症例でした.外傷から診断までの期間は、平均3.4週でしたが、数週過ぎた症例での診断迄の期間は、平均3.4年でした.外傷から3-4週で診断される early manifestationとそれよりも遅れるlate manifestationがあり、小児の場合、前者は出血で発症し、後者は mass effectで発症します.この発症形式は、大人成人とは異なり、大人成人では閉鎖性頭部外傷が多く、例外はありますが、通常、海綿静脈洞部の内頚動脈に動脈瘤ができ、繰り返す大量鼻出血で発症するか、頻度は減りますが頭蓋内出血で発症します.
小児の外傷性動脈瘤は多発性のことは殆どなく、部位は、前大脳動脈 38%、内頚動脈 29%、中大脳動脈 25%、椎骨脳底動脈系 8%です.特に前大脳動脈の外傷性動脈瘤はその92%が遠位に存在します.内頚動脈では、53%が海綿静脈洞部に、42%がsupraclinoid部に存在します.このsupraclinoid segmentは、anterior clinoid process部で硬膜内に内頚動脈が入る部位と前大脳動脈と中大脳動脈の分岐部の間にあり、固定されていないfree segmentであり外傷に弱く、血管解離を起こしやすいです.また外傷性動脈瘤としての報告は少ないですが、急遂分娩や鉗子分娩後の動脈瘤の報告もあります [Piatt 1992].この場合は、産道を通過するときに頭部が前後方向に短縮されるために、テント切痕部を走行する後大脳動脈そのものや後大脳動脈や上小脳動脈の硬膜枝が損傷され動脈瘤が形成されます.
診断で、最も重要なことは、「外傷性動脈瘤の可能性を疑う」ことです.多くの場合、頭蓋内出血(くも膜下出血、脳室内出血、脳内出血、硬膜下出血)で症候性となり、早期の治療が必要です.頭部外傷の画像診断は、血管撮影ではなく、CTを主体として行なわれるため、外傷性の脳動脈瘤や動静脈瘻が、症候性になる前に診断されることが少ないです.外傷から一定期間をおいてから出血する、いわゆるdelayed apoplexyが良く知られますが、早期の再出血も認められます.大人成人も含めたデータですが、過去報告のあった171例の外傷性動脈瘤において、外傷から1週間以降の脳血管撮影で動脈瘤が検出できないnegative angiographyは3例のみでした [Komiyama].外傷性動脈瘤を疑えば、外傷から1週以内でも脳血管撮影を行い、動脈瘤形成の初期所見である動脈壁の不整、攣縮、狭窄などを調べ、動脈瘤が見つからなくても、動脈瘤の疑いがあれば、脳血管撮影を繰り返す必要があります.脳血管撮影で動脈瘤か描出されない negative angiographyは、近い将来の、また遠隔期の動脈瘤の形成を否定するものではないことを知っておくべきです.また、外傷性動脈瘤が診断されれば速やかに治療を行う必要があります.その予後は、概ね治療前の状態に依るとされます.保存的治療の予後は不良であり、再出血により致命的になることが多いです.
逆に、頭部外傷があり、その一定期間後に、以前からある嚢状脳動脈瘤が破裂することがあるかもしれません.外傷性脳動脈瘤と通常の嚢状脳動脈瘤の鑑別は困難な場合があるかもしれませんが、両者の好発部位は異なることや外傷時の損傷部位を参考にします.外傷性脳動脈瘤を起こすにはある程度の重症の頭部外傷が契機になると思われます.また頭部外傷があり、その一定期間後に、正常であった脳動脈に解離が起こることもあるかもしれません.外傷との因果関係を後方視的に検索することは困難な場合があると思われます.しかし、脳動脈の非外傷性解離には好発部位があり、非外傷性動脈解離自身、発症から1ヶ月もすると(再)出血することは稀であり、慢性期の動脈解離が出血発症であれば外傷との因果関係はない可能性が高く、非出血性で症候性の場合(mass effectなど)は、頻度は低いと思われますが、外傷との因果関係は否定できないかもしれません.
治療:動脈瘤には、真の壁はなく、また動脈瘤のネックと呼べるものがないことが多く、標準的な治療は、外科的な親動脈の閉塞(parent vessel occlusion)でした.症例によりバイパス手術を必要な場合もあります.脳血内治療が発展し、側副路が発達した症例の場合、開頭術を必要としない脳血内治療での親動脈の閉塞が行われるようになり、側副路が不十分な場合には、バイパス術後に、脳血内治療での親動脈の閉塞が行われる場合もあります.動脈瘤が末梢にある場合は、親動脈の閉塞が有効です.
しかし、親動脈を温存する治療(parent vessel preservation)が模索され、coil、stent (stent-in-stentも含む)、液体塞栓物質(NBCA, Onyx)、flow diverter (Pipeline)などが使われた症例報告があり、様々な成功率・再発率・合併症率で報告されています [Cohen, Amenta].これらの中にはcoil compactionによる追加・再治療が必要な場合やバイパス後の親動脈閉塞術が報告されています.しかし、出血の予防が、外傷性仮性動脈瘤の治療目的であるので、抗血栓治療も必要とするstentやflow diverterの治療を考える場合には注意が必要です.
参考文献
Amenta PS, Starke RM, Jabbour PM, et al: Successful treatment of a traumatic carotid pseudoaneurysm with the Pipeline stent: case report and review of the literature. Surg Neurol Int 3:160, 2012, DOI: 10.4103/2152-7806.105099
Cohen JE, Gomori JM, Segal R, et al: Results of endovascular treatment of traumatic intracranial aneurysm. Neurosurgery 63:476-485, 2008
Komiyama M, Morikawa T, Nakajima H, et al: “Early” apoplexy due to traumatic intracranial aneurysm. Case report. Neurol Med Chir (Tokyo) 41:264-270, 2001
Piatt JH, Clunie DA: Intracranial arterial aneurysm due to birth trauma. Case report. J Neurosurg 77:799-803, 1992
Ventureyra ECG, Higgins MJ: Traumatic intracranial aneurysms in childhood and adolescence. Case reports and review of the literature. Child’s Nerv Syst 10:361-379, 1994
2012.12 23 記、2013.1.4、2015.7.9 追記