頭頚部の血管奇形および血管腫に対する塞栓術

頭頚部の血管病変は、それまでの不明瞭な分類に変わり,1982年にMullikenとGlowackiにより臨床経過と血管内皮細胞の増殖性をもとに、血管腫(hemangioma)と血管奇形(vascular malformation)に分けられた.[3,16] これをJacksonらが,1993年に血管奇形をさらに血行動態により分類を行った.[6] 血管種と血管奇形の比較をまとめたのが表1である.しかし、この鑑別は必ずしも容易ではなく、臨床上「血管腫」と診断されていることが多い.特に、頭頸部の動静脈奇形や静脈性血管奇形は、血管腫と診断されていることが多い.外頚動脈の分枝にできた動脈瘤も血管腫と診断されることもある.ここでは、いわゆる「血管腫」(血管腫と血管奇形)の塞栓術について述べる.

 

本来の血管腫(hemangioma)は良性腫瘍で、生下時に気付かれることは少なく、内皮細胞の増殖により急速に増大するproliferation phase(増殖期)を経て、involution phase(退縮期)になり5-8歳ころまでに自然に消退する.つまり血管腫は、infantile hemangiomaと同義である.Proliferation phaseには、vascularityはhigh-flowのため、血管撮影で動静脈シャントを、MRでflow voidを示すが、involution phaseでは、血管撮影で動静脈シャントを示さず、MRではlow-flowとされる.[1] しかし、proliferation phaseでも多くの場合、tumor stainはあるが、動静脈シャントはないことが多い.血管腫は、石灰化や静脈石が認められることはほとんどない.

 

血管奇形は、生下時から存在し、dysplastic vesselより構成され、内皮細胞は正常で病変自体は退縮せずに、患者の成長と比例して大きくなる.多くの報告に反し、必ずしも生下時に血管奇形が気付かれるわけではない.血管奇形は、動脈・静脈・毛細血管・リンパ管などを構成成分とし、動静脈瘻を伴うこともある.血管奇形は、さらにslow-flowとhigh-flowに分けられ、slow-flow malformationには、capillary malformation, venous malformation, lymphatic malformationがあり、high-flow malformationは、動静脈瘻を含めた動静脈奇形がある.これらの病変が混在したmixed malformationも存在する.Lymphatic (lymphovenous) malformationは血管奇形とは別に分類される場合もある.[6] Arteriocapillary malformationのようなhigh-flow/low-flowのcombined malformationもあり、診断に苦慮することもあるが、動静脈奇形そのものは、paranchymaには異常がないので、MR所見で鑑別可能である.[14] 症状の悪化は、血管腫の場合は内皮細胞の増殖を意味し、血管奇形の場合はhemodynamicsの変化を意味する.Capillary hemangioma, cavernous hemangioma, venous angiomaなどのterminologyは、混乱を招くので使うべきではなく、成人で認められるこれらの病変の多くは、血管腫ではなく、venous malformationまたはcapillo-venous malformationやarteriocapillary malformationである.

 

血管腫 (Hemangioma)

 

血管腫は生後1ヶ月以内に顕在化し、1歳まで増殖するが5-8歳ころまでに自然に消退する.そのため血管腫は、その多く(90%以上)が治療の対象にならない.早期に退宿が始まるほど,完全に退宿する傾向にあるとされる.幼児期には、経過観察(watchful waitingまたはwait and see policy)が主体で、症例により退縮を惹起すべくステロイドの全身または局所投与やα-インターフェロン投与が適応となる.高用量のステロイドの全身投与は.30-60%の症例で有効とされる.またα-インターフェロンにはネフローゼや痙性対麻痺などの合併症もあり注意を要する.患者とその両親へ血管腫の自然経過を丹念に説明することが重要な治療の一部となる.

 

この例外は、眼、鼻、口、気道、耳などの圧迫や閉塞症状のある症例や巨大血管腫で心不全、出血、潰瘍、血小板減少(Kasabach-Merritt症候群[8])がある症例(alarming hemangioma)である. Kasabach-Merritt症候群は、12-24%の死亡率があるとされ、このような出血傾向がある場合でも、経大腿動脈経由の塞栓術は可能である.Kasabach-Merritt症候群では、塞栓術の対象となる栄養血管やtumor stainが認められるが、AV shuntは認められない.[10] 臨床的な改善に必要な塞栓術の回数は一回の場合もあれば、複数回必要な場合もある.塞栓術により劇的な改善を見ても、再度、悪化することを念頭に置いて注意深い観察が必要である.臨床的に改善しない場合の予後は不良のため思い切った治療が薦められる.Kasabach-Merritt症候群を起こす血管腫は、組織学的にkaposiform hemangioendothelioma または tufted angiomaとされ、他の血管腫と区別される.[15]

 

早期に治療を必要とする血管腫や消退期を過ぎ残存する血管腫は、外科的切除術の単独治療やPVAを使った術前の経動脈的塞栓術や直接穿刺によるエタノールを注入による塞栓術とそれに続く外科的切除術が適応となることがある.

 

血管奇形 (Vascular malformation)

 

1. 静脈性血管奇形 (Venous malformation)

 

表在性の病変は拡張した静脈腔が青色を呈し、Valsalva手技や体位により病変が拡張する.静脈石が触知できることがあり、これがあれば静脈性血管奇形である.外傷、出血、ホルモンの影響などのため、急速に病変が大きくなることもある.血栓性静脈炎を起こせば強い疼痛を起こす.血管撮影の動脈相は正常であり、静脈相で葡萄の房に似た静脈腔が認められることがあるが、一般的にはavascular lesionである.その診断にカテーテルによる動脈撮影の適応はなく、臨床所見のみでも診断可能であるが、病変の深部への進展を見るためには、MR検査と病変を直接穿刺する造影が有用である.直接穿刺による撮影では、この静脈腔が認められ、適応症例には塞栓術が続けて行われる.[5,7,21] この場合、撮影のプログラムは、秒間1-2枚で、1分間ほどの長時間撮影できるようにしておく.またDSAを使用するため流出路の用手圧迫などによる患者の動きがないように注意を要する.塞栓物質にはエタノール(無水アルコール)、 オルダミン、coil、NBCA、 Sotradecol、 Ethibloc、Aetoxysclerol(後三者は、本邦では入手不能)などがあるが、エタノールとオルダミンが主に用いられる. Sotradecol、 Ethibloc、Aetoxysclerol よりもエタノールの方が侵襲的であり、局所(壊死・神経麻痺・疼痛)・全身の合併症のリスクがある.23Gまたは25Gの翼状針を用い、病変を直接穿刺し、血液がゆっくり返ってくることを確かめる(back bleeding or free return of blood).病変が深部の場合はspinal tap用の針を用いる.造影剤を非常にゆっくり注入し、病変の範囲、cavity全体の造影に必要とする造影剤量、造影剤のclearanceをみる.多房性病変の場合、抜針せずに次々と別の翼状針を用いて、何カ所も穿刺する.

 

エタノールは内皮細胞に永久的な障害を引き起こす.エタノールやlipiodolを混ぜ造影能を持たせる.イオン性造影剤とエタノールと混ぜると凝集するため、非イオン性造影剤で約70-80%濃度にする.また、lipiodolとエタノールは1:9の比率で混ぜる[19].この場合、肺塞栓症に注意が必要である.病変の造影に必要な造影剤の量と同量からその1/2量のエタノールを注入する.造影剤が早期に静脈に流出する場合は、用手的に導出静脈を圧迫しながらエタノールを注入し、急速な静脈系への流出を避ける.抜針後、約5分間圧迫止血する.Extravasationがない限り穿刺部の壊死やエタノールによる全身症状が出たりすることはない. エタノールの極量は 1 ml/kgとされるが[22]、心臓に対する毒性から0.52 ml/kgの使用での死亡例の報告[4]もあり、慎重な使用が必要である.

 

オルダミン(ethanolamine oleate)は、陰イオン系界面活性剤で、下肢や食道・胃の静脈瘤の硬化剤として使用されており、静脈性血管奇形にも使用されるようになった.オルダミンの作用は血管内膜細胞障害と血栓形成であり、体循環に入るとアルブミンと結合し不活性化される.そのため低アルブミン血症の患者には注意を要する.10%オルダミン(1V=10ml)を同量のイオパミロンなどの造影剤で希釈し、5% (20ml)にして局所に投与する.投与方法は、エタノールと同様であるが、オルダミンはかなり粘張である.注入の5分程度後に病変からオルダミンをできるかぎり回収する.投与量は、0.4ml/kg以下であれば安全とされる.溶血作用によるヘモグロビン尿のための腎障害を予防する目的で、オルダミン投与直前に、ハプトグロビン(4000単位)を点滴静注する.オルダミンが少量の場合や体循環にあまり入らない場合はハプトグロビンの投与は不要である.

 

エタノールやオルダミンの注入時にかなりの局所痛(shooting pain)を訴えるが、持続はしないため、おとなの場合は、局所麻酔で治療は可能である.塞栓術後、患部の腫脹や疼痛がみられるためステロイドを使用する.病変の腫脹は、塞栓術の12-24時間後にピークになり、1週間ほどで消退する.腫脹の程度が高度なほど塞栓術は効果的であり、逆に腫脹が軽度であると効果は小さい.一般的に複数回の塞栓術を必要とすることが多く、長期的には再発の可能性も低くはない.起こりえる合併症は、皮膚壊死と末梢神経麻痺である.舌の静脈性血管奇形の塞栓術においては、舌前部に病変がある場合には、問題は少ないが、舌後部に病変がある場合は、気道の確保が重要で、術前に気管切開をするか、集中治療室で病変の腫脹が減少するまで挿管したまま術後管理する必要がある.[7]

 

家族性で、全身の皮膚、筋骨格系、泌尿生殖系、消化器系に静脈性血管奇形ができるblue rubber bleb nevus syndrome がある.また頭蓋内の静脈血管奇形の合併が認められたり、この病変と頭蓋外の頭頸部の血管奇形に交通性が認められたりする場合もあり、complex cranio-facial malformationと呼ばれる.

 

2. Capillary malformation

 

Capillary malformationには、port-wine stainsとtelangiectasiaがある.多くが、孤発性であるが、時に症候性で、Sturge-Weber syndrome, Cobb's syndrome, Klippel-Trenaunay syndromeなどに合併する.レーザー治療が適応となることがある.

 

3. 動静脈奇形 (動静脈瘻も含む) (Arteriovenous malformation incl. Arteriovenous fistula)

 

動静脈奇形は、生下時より存在するものの顕在化しておらず、その後の外傷、感染、そして二次性徴や妊娠などのホルモンの変化、医原性要因(不十分な手術や塞栓術)などを契機に増悪することが多い.動静脈瘻には先天性と後天性(外傷性)に分類されるが,後天性の血管病変は,血管奇形とは別に分類した方がよいであろう.これらの病変は熱感を持つ拍動性の腫瘤として認められる.頭頸部の動静脈奇形の治癒を望むことは困難な場合が多く、治療の適応は、重篤な美容的理由があり、かつ血管撮影上で動静脈シャントの病変の境界がはっきりとしている場合で、境界がはっきりしない場合は治療が困難な場合が多い.治療には、保存的治療、塞栓術、摘出術、塞栓術+摘出術がある[2,911,13,15,17,22] 動静脈奇形の全摘出は困難で不可能な場合が多く、塞栓術でも治療が最も困難な病変である.そのため無症状や軽症の動静脈奇形は、保存的治療が薦められる.栄養血管の結紮は、症状を悪化させるばかりでなく、その後の塞栓術を不可能にし病変の境界の評価を困難にするので避けるべきである.外傷性の動静脈瘻でも血管撮影では、nidusがあるように見えることがあるので注意を要する.

 

摘出術前の塞栓術には、Gelfoam、Avitene、PVA、絹糸などを用い、塞栓術のみで治療するときは、PVA、コイル、エタノール、NBCAなどを用いる.一般的にPVAによる塞栓術のみで治癒することはなく、いずれ再開通により再発する可能性が高く、繰り返し塞栓術を行う必要がある.エタノールやNBCAは皮膚壊死や脳神経麻痺の合併症の可能性があるが、再開通は少なくより効果的である.NBCAやcoilを用いた塞栓術で動静脈奇形の治療ができる場合でも、表在性の病変ではそれ自身がmassとなることがあり、そのため摘出術を必要とすることもある.経動脈的塞栓術だけでなく直接穿刺法(静脈性血管奇形と同様の手技)、[2,11,15,22] 経静脈的塞栓術[2]も行なわれる.NBCAやエタノールを使う時には、栄養血管や導出静脈を用手的に圧迫したり、バルーンカテーテルを用いたりしてflow controlを行い塞栓術をすることもある.塞栓術にひき続く摘出術には、reconstructionを含めた手術を必要とすることが多く、形成外科医との協力が必須である.

 

4. リンパ性血管奇形 (Lymphatic malformation)

 

Lymphangiomaと呼ばれることもあるが、分類上、血管奇形に属し、lymphatic malformationと呼ぶ方が正しい.1歳までに顕在化し、70-80%は頚部に認められ、嚢胞の大きさはまちまちである.Macrocysticとmicrocysticに分類されることもある.嚢胞の内容は、タンパク質に富んだ液体で、静脈成分も多くあることよりlymphovenous malformationと呼ばれることもあり,出血が認められたり、感染すれば膿が認められたりすることもある.基本的には、外科的摘出術が適応であるが,症例によっては静脈性血管奇形と同じ方法で、テトラサイクリン、ピシバニール、Ethibloc、Sotradecol[20]などを用いた直接穿刺による塞栓術またはそれに続く外科的摘出術が適応となる.あまり症状のない症例では保存的治療が薦められる.精神科的なアプローチを必要とすることが多い.

 

参考文献

 

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2. Barnwell SL, Halbach VV, Dowd CF, et al: Endovascular treatment of scalp arteriovenous fistulas associated with a large varix. Radiology 173: 533-539, 1989.

 

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11. Komiyama M, Nishikawa M, Kitano S, et al: Non-traumatic arteriovenous fistulas of the scalp treated by a combination of embolization and surgical removal. Neurol Med Chir (Tokyo) 36: 162-165, 1996.

 

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13. Merland JJ, Riche MC, Hadjean E, et al: The use of superselective angiography, embolization, and surgery in the current management of cervicocephalic vascular malformations (350 cases). Symposium on vascular malformations and melanotic lesions, (ed) Williams HB, CV Mosby, St. Louis, pp 135-143, 1983.

 

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21. 辻口幸之助、今井啓介、戸田千綾、他: 頭頸部顔面領域におけるvenous malformationの治療法.エタノール注入を中心として.形成外科 41: 133-138, 1999.

 

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