Sinus Pericranii(頭蓋骨膜洞)


頭蓋骨膜洞 sinus pericraniiは、頭蓋内の静脈系と交通性を持つ、非拍動性の境界明瞭な頭皮の血管性の腫脹で、圧迫すると小さくなるか消えてしまいます.生下時から認められることも多いです.このsinus pericraniiという名称は1850年にStomeyerによって命名されました.翌年Dufourによりfistule osteovasculaireとも命名されましたが、一般化しませんでした.頭部を下げたり、泣いたり、咳をしたり、Valsalva手技をしたりすると大きくなります.病変部の毛髪が少ない場合や皮膚に青みがかった場合があります.sinus pericraniiに合併した疾患には、動静脈奇形、小脳・網膜の血管腫、blue-rubber-nevus syndrome、dural sinus malformation、vein of Galen aneurysmal malformation、Galen静脈の低形成、髄膜瘤、顔面の血管腫、頭皮の静脈性血管奇形などがあります.静脈構造がcul-de-sac(行き止まり構造)になっているのではなく、頭蓋外の静脈との交通性があります.前頭部に多く、頭頂部、後頭部がそれに続きます.後頭骨が関与することはなく、それよりも前(metopic sutureからinterparietal sutueの間)に存在します [4].病因は不明ですが、外傷が原因の場合もあります.脳内の静脈性血管腫 venous angioma(intradural developmental venous anomaly)と同様に、静脈系の形成上のvariation、つまり病変ではなくextradural developmental venous anomaly(極端なvariation)と考える場合もあります.何らかの因子により、胎生晩期に一過性の静脈性高血圧が起こり、静脈の発達・形成に影響したとも考えられます.


多くは正中線上にあり上矢状洞が交通性を持ちますが、外側に偏在する場合もあります.静脈血の流れは、a: sinus pericraniiと静脈洞の交通性があり、自由に血液が行き来する場合(bidirectional communication)、b: 静脈洞からsinus pericraniiを抜けて末梢に流れる場合があります.病変内に血栓が存在する場合もあります.発生頻度に性差はないとされます.外見的な腫脹以外に症状がないことが多いです.単純撮影で病変の
直下の骨に変化が認められます.直接、病変を穿刺して、造影すると頭蓋内の静脈系との交通性が認められる以外に頭皮の静脈と板間静脈への流出も認められます.内頚動脈撮影や外頚動脈撮影を行っても動脈の関与はないため正常です.超音波検査がもっとも簡便です.次いで、CT/CT angiographyとMRI/MR angiographyで診断を行い、侵襲的な検査は不要です.ただ、検査時は仰臥位であるため、頭蓋外への静脈血流の流出や病変の腫脹を描出できない可能性があります.外科的治療を考慮する場合には、カテーテル血管撮影の適応があり、sinus pericraniiの流出パターンや脳還流に対する役割の度合い以外に、合併する可能性のある静脈性疾患の有無、近傍の静脈の発達の度合いなども観察します.鑑別診断には、動静脈奇形・瘻、頭蓋骨下の外傷性静脈瘤、静脈性血管奇形、髄膜瘤・脳瘤、類皮腫、好酸性肉芽腫などが含まれます.発生学的に同じdevelopmental venous anomalyと考えられる頭蓋内の静脈性血管腫 venous angioma (developmental venous anomaly)との合併症例の報告があります.このvenous angiomaの唯一の流出路になっている場合もあります.動静脈奇形・瘻や静脈性血管奇形により、似たような病変を呈する場合にはpseudosinus pericraniiと呼ぶ場合があります.美容的な理由や出血性合併症を恐れて治療をすることが多く、治療の絶対適応はないと思われます.美容的な観点でこの疾患を考える場合には、患者さんの心理的な要素も考慮に入れます.外傷や非外傷性の出血が起こる可能性は殆どありません.Gandolfoらは、脳還流にこの病変が大きく関与している場合を"dominant"とし、あまり関与していない場合を"accessory"と分類し、dominantの場合とaccessoryの場合でかつvenous angiomaや血管腫などの唯一の流出路になっている場合には、sinus pericraniiの外科的閉塞は避けるべきであるとしています.治療法は、開頭術で病変を完全に切除し、頭蓋内外の交通性を断つ方法と頭蓋外の部分の病変のみを切除し、交通部はbone waxや筋肉片を詰める方法があります.開頭術まで行う必要はないと思われます.治療を行わなかった場合、進行性に病変が大きくなることは通常無く、逆に血栓化してしまうこともあります.


治療は、多くの場合、外科的切除になりますが、血管内治療で切らずに治療が行われた症例報告があります.経静脈的に大腿静脈から脳の静脈洞にマイクロカテーテルを持っていき、アロンアルファーで、頭蓋骨の穴の空いた部分から頭皮の静脈を詰めた症例 [1] と頭皮に刺した針からマイクロカテーテルを病変まで持っていき、コイルとonyxという液体塞栓物質で塞栓を行なった症例の報告 [2]や、経静脈的に骨貫通部をコイルとアロンアルファーで遮断し、直接穿刺した針から無水アルコールを注入した報告[3]があります.


  1. 1.Brook AL, Gold MM, Farinhas JM, et al: Endovascular transvenous embolization of sinus pericranii. Case report. J Neurosurg Pediatrics 3:220-224, 2009

  2. 2.Rangel-Castilla L, Krishna C, Klucznik R, et al: Endovascular embolization with Onyx in the management of sinus pericranii: a case report. Neurosurg Focus 27:E13, 2009

  3. 3.Kessler IM, Esmanhoto B, Riva R, et al: endovascular transvenous embolization combined with direct punction of the sinus pericranii. A case report. Interv Neuroradiol 15:429-434, 2009

4. Desai K, Bhayani R, Goel A, et al: Sinus pericranii in the frontal region: a case report. Neurol India 49:305-37, 2001


画像は、頭蓋内の静脈洞と頭蓋外の静脈構造をつなぐ骨の穴(→)


2007.7.25記、2007.9.18、2010.10.29、2010.11.2 、2011.10.27追記.


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