新生児の動静脈シャントと水頭症
新生児期のガレン大静脈瘤や硬膜動静脈瘻(dural sinus malformation)のような脳動静脈シャントに関連する水頭症は、新生児期よりも乳児期以降に認められることが多いですが、出生前を含め、どの時期にでも認められます.出生前に診断されたガレン大静脈瘤や硬膜動静脈瘻で胎児水頭症が認められることもあります.出生前や新生児期に脳実質障害は画像で描出されにくいため、脳虚血による脳萎縮による脳室拡大と水頭症の鑑別は困難な場合があります.水頭症について考える場合には、新生児・乳児期の髄液循環について考える必要があり、髄液の生成、移行、循環、吸収は大人成人と全く異なること、かつこれに動静脈シャントが加わると、さらにその循環は複雑となります.
新生児期は、髄液吸収を行なう上矢状洞近傍のくも膜顆粒 は未発達であり、脳実質(脳髄質静脈 medullary vein)から主に髄液吸収が行なわれます.動静脈シャントがあると、脳静脈洞の圧は高くなり(venous hypertension)、脳室から脳表に向かう髄液の圧差 が無くなるため、髄液吸収が悪くなり、脳室の拡大が起こり、脳圧が高くなります.これらにはくも膜顆粒の発達、頭蓋内静脈系の側副路の形成(上矢状洞から中大脳静脈へ、さらに海綿静脈洞への逆行性のルート、海綿静脈洞から眼静脈・顔面静脈へのルート、海綿静脈洞から卵円孔静脈 などを介した翼突静脈叢へのルート、下錐体静脈洞の開存状態)、原始脳静脈洞の遺残、S状静脈洞の発達(閉塞状態)、頚静脈孔の発達などの多数の要素が複雑に絡み合って決まります.
ガレン大静脈瘤や硬膜動静脈瘻における水頭症の成因に関して、静脈性高血圧 venous hypertension (hydrovenous mechanism)と中脳水道の閉塞(obstructive mechanism)の両者の可能性が論議されますが、前者が主な原因と考えられており、実際に中脳水道が閉塞していることは殆どないとされています.脳室腹腔シャント術 VP shuntでは、病因はまったく治療されず、その手技自身に出血性合併症(静脈性脳出血)が多いことから、まずは動静脈シャントそのものを治療対象とします.シャント手術により脳室が小さくなり、脳圧・脳室圧が低下すると、ガレン大静脈瘤の静脈瘤が逆に急激に拡張することがあります.しかし、中には髄液の循環障害によって脳室腹腔シャント術 VP shuntが必要な症例があることも事実です.直静脈洞部に狭窄があれば、静脈瘤は拡大し、中脳水道閉塞の要素が大きくなります.その一方で、狭窄があるためにシャント量が制限されるため、心負荷が軽減されることがあります.動静脈シャントがあり、S状静脈洞の狭窄・閉塞が加わり、後頭蓋窩の静脈流出の側副路の発達が不十分ですと、小脳の静脈の鬱滞が起こり、扁桃下垂 が起こることがあります.
上述の静脈性高血圧で、小脳扁桃の下垂 tonsilar herniation (tonsilar prolapse)が起こることがあります.これは静脈還流が悪く、小脳が脊髄方向(足の方向)に突出する現象で、キアリ奇形 Chiari malformationに似たような現象が起こりますが、あくまでもその原因は、小脳の形態学的奇形ではなく、静脈性高血圧や静脈還流障害です.この場合も、これが原因の水頭症と同様に、脳室ー腹腔シャントを行うのではなく、まず病因である動静脈シャント(ガレン大静脈瘤や硬膜動静脈瘻)の治療が、まず適応となります.その上で、場合によっては、 小脳扁桃の下垂に対する外科的治療が必要になることもあるかもしれません.
このガレン大静脈瘤の患者さんは、心不全が軽度で、新生児期に治療は必要としませんでした.従って、内科的治療を行ないました.6ヶ月の段階で、さらに経過観察すると脳の発達障害が起こります.まずは、シャントを閉塞する血管内治療が適応です.脳室-腹腔シャントには合併症も多いです.他の疾患でも、動静脈シャントがあり、または残存し、一見症状が無くても、乳児期に治療適応があるか考える必要があります.
参考図書
小宮山雅樹:神経脈管学、メディカ出版、大阪、2012
2011.11.12 記載、2017.10.6 追記