網膜芽腫retinoblastomaに対する選択的メルファランの動注療法
網膜芽腫retinoblastomaに対する選択的メルファランの動注療法
網膜芽腫 retinoblastomaは眼球内に発生する小児の悪性腫瘍で,100万人に約4人の頻度とされています.病期が進行すると視神経を介して脳へ進展し,また血行性に肺や肝臓などに遠隔転移することがあります.両眼に発生することも少なくありませ.眼球摘出が治療の原則でするが,近年は全身化学療法,レーザー焼灼術,冷凍凝固術と放射線治療を組み合わせることで眼球摘出をできるだけ回避する方向にあります.それでも病期の進行例では、眼球摘出を避けられないことが多いです.1966年に、硝子体播種を認める網膜芽腫の進行例で,まず眼窩上動脈 supraorbital arteryからの選択的に5FUを動脈内注入する方法(動注法)が開発されました [1].
1980年代末に、マイクロカテーテルが開発され、脳や眼動脈に直接、カテーテルを入れることが出来るようになりましたが、小児の血管は細く、さらに小児の眼動脈はかなり細いため、頭蓋内で眼動脈が内頸動脈から分岐する部位より末梢の内頸動脈を一時的にバルーン(風船カテーテル)で閉塞し、メルファランの内頸動脈へ動注する方法が行われました [2].
硝子体播種を認める網膜芽腫の進行例で,全身化学療法とレーザー焼灼術が無効であった症例を対象にして、最近では、眼動脈からの選択的メルファランの動注療法(特に、初回治療時のメルファラン7.5 mg投与例)が可能となり、有効な治療として行われるようになっています [3].マイクロカテーテルを、眼動脈の血流を保って状態で、ほんの少し、この動脈に挿入します.この治療法には、全く、合併症がないとはいえませんが、網膜芽腫のお子さんにとっては、眼球摘出をさけることができる非常に有用な治療法といえます.
子供さんなので、全身麻酔が必要になりますが、小児の血管撮影に慣れた脳血管内治療医であれば、さほど難しい手技ではないので、小児眼科医との協力で、選択的メルファランの動注療法を行うことになります.
参考文献
1) 桐淵光智:眼内悪性腫瘍に対する抗癌剤の逆行性眼動脈infusionについて.日眼会誌 70:1829-1833, 1966
2) Yamane T, Kaneko A, Mohri M: The technique of ophthalmic arterial infusion therapy for patients with intraocular retinoblastoma. Int J Clin Oncol 9: 69-73, 2004
3) Peterson EC, Elhammady MS, Quintero-Wolfe S, et al: Selective ophthalmic artery infusion of chemotherapy for advanced intraocular retinoblastoma: initial experience with 17 tumors. J Neurosurg 114:1603-1608, 2011
2012.10.1 記載、10.6追記