遺伝性出血性毛細血管拡張症と妊娠・出産

 

遺伝性出血性毛細血管拡張症:HHTは、軽微な鼻血や口唇、口腔粘膜等の毛細血管拡張が症状の場合もあれば、肺・肝・脳の動静脈瘻による、より重症で多彩な症状を呈することもあり、同じ家族内のHHT、つまり同じ遺伝子を持っていても、症状が異なることが多いことは良く知られています.


HHTの症状は、0歳(出生時)で0%、12歳迄に80%、35歳迄に97%出現するとされ、女性の場合には妊娠を契機で症状が悪化することがあります.特に、肺動静脈瘻、肝動静脈瘻、脳動静脈瘻での悪化の報告がありますが、鼻出血に関しては妊娠中に悪化しない場合や改善することもあります.


英国のHHTの女性患者47人の161回の妊娠を、妊娠前または妊娠後の2年間に肺動静脈瘻がないと診断された138妊娠と、あると診断された23妊娠に分けると、流産は前者の7妊娠で、後者の4妊娠で認められ、両者間には統計的有意差はありませんでした.母体の合併症は、肺動静脈瘻がない群では、一回(一妊娠)だけ脳卒中が起こったのに対し、肺動静脈瘻を持つ母体には、合計10回の合併症が起こりました.その内訳は、6妊娠で肺での動静脈シャント量の増加が認められ、呼吸障害の悪化があり、2人(2妊娠)は肺出血で死亡し、2妊娠で脳卒中が起こっています.死亡の2人は、ともに初めての妊娠でした.また、この報告の47人の女性患者から生まれた151人の子供のうち80人がHHTであることが確認されました.しかし実数はこれよりも多いと思われます.


一般的に妊娠中には、心拍出量や循環血液量が増加し、出産直前には、通常の40%増加しています.このことやHHTの異常血管が拡張することが、妊娠中の肺動静脈瘻に関係する合併症の原因であると推測されています.またエストロゲンやプロゲステロンなどのホルモン変化の影響もあるとされています.


肺動静脈瘻のないHHTの女性の妊娠は、通常よりもリスクは上がらないことが示唆され、逆に肺動静脈瘻を持つHHTの女性の妊娠はリスクが高いこと示しています.妊娠を考えているHHTの女性患者は特に肺動静脈瘻の検査を受けるべきであり、コイル塞栓術により、肺からの塞栓症や低酸素血症を予防・減少させることが可能です.


妊娠中に、肺動静脈瘻が発見された場合、その治療方針に決まったものはありません.この患者さんの1%に重篤な合併症が報告されています.これは、99%は大きな問題もなく出産できたということです.従って、偶然、無症状で、肺動静脈瘻が妊婦さんに発見された場合、注意深い経過観察がよく、出産してから治療を受けるべきとされています.ただ、妊娠中に、喀血や胸痛が凝った場合、肺動静脈瘻からの出血が疑われるため、すぐにオスラー病を管理できる病院を受診すべきで、妊娠中は、担当医と密に連携を取り、そのような緊急事態に備えるべきです.


出産方法:通常分娩(経膣分娩)と帝王切開がありますが、どちらの方が、より安全ということはありません.しかし、 通常分娩の場合、いつ生まれるか日時が、決らず、医療体制が十分で無い場所や時間での出産になる可能性があります.例えば、土曜の深夜であれば、医師や看護師は、手薄であり、何か起こった時の対応が十分にできるとは言い難いかもしれません.息んだ時に、血圧が非常に上昇することも良くあります.また、確率は低いとは言え、何か起こった時に裁判などを嫌う傾向に医療側があり、予定の帝王切開が選択されることが多いように思います.



Shovlin CLのBJOGの論文から













琉球大学脳神経外科主催の勉強会で行った沖縄、南城市知念から朝日を撮影 (2007.6.30)







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参考文献


Shovlin CL, Hughes JMB, Tuddenham EGD, et al: A gene for hereditary haemorrhagic telangiectasia maps to chromosome 9q3. Nature Genet 6:205-209, 1994


Shovlin CL, Winstock AR, Peters AM, et al: Medical complications of pregnancy in hereditary haemorrhagic telangiectasia. Q J Med 88:879-887, 1995


Shovlin CL, Sodhi V, McCarthy A, Lasjaunias P, Jackson JE, Shepard MN: Estimates of maternal risks of pregnancy for women with hereditary haemorrhagic telangiectasia (Oslar-Weber-Rendu syndrome): suggested approach for obstetric services. BJOG DOI: 10.1111/j.1471-0528.2008.01786.x.



2007.7.7 記、2012.2.1、2016.6.20 追記