小児の脳梗塞 2
論文紹介
Nowak-Gottl U, et al: Arterial ischemic stroke in neonates, infants, and children: an overview of underlying conditions, imaging methods, and treatment modalities. Seminars in thrombosis and hemostasis. 29:405-414, 2003
タイトルの訳: 新生児、乳児、幼児の動脈性、虚血性脳卒中:原因、画像診断、治療方法についての概説
まとめ:小児期の動脈性虚血・脳卒中arterial ischemic stroke (AIS)の原因の中には、先天性心疾患、鎌状赤血球症(日本人にはない)、髄膜炎などがあるが、約半数で原因は不明である.脳梗塞になった小児の80%までが脳血管病変を持ち、その中には、遺伝性の血栓性のリスクファクターやVaricella(水痘)のような感染症がある.古典的なリスクファクターである高血圧、高脂血症も重要であるが、小児の場合、一つの原因だけでなく複数の引き金があるとされる.推奨される治療方法は、小さな症例報告や成人での治療から応用されており、EBM(証拠に基づいた医療)に基づいて有効とされる治療方法はない.低分子ヘパリンは比較的安全とされ、低分子ヘパリンやワルファリンといった抗凝固薬は、小児の心塞栓症、動脈解離、持続する血栓形成傾向に適応があり、鎌状赤血球症には輸血が有効である.t-PAは発症3時間以内の限られた患者に使われる.現在、各治療の有効性は、患者にとってのリスクとの比較で考えられるべきである.小児の脳梗塞の一次予防、急性期治療、二次予防のRCT(無作為比較試験)が急いで必要である.
小児の脳卒中の頻度(欧米)は、新生児の25/100,000、1歳から18歳までの小児で1.29-13.0/100,000/年とされ、その半数が虚血である.虚血性脳卒中の原因はたくさんある.約半数で原因は不明(cryptogenic)であり、脳梗塞になった小児の80%までが脳血管病変を持つ.
動脈性虚血の発症形式
新生児では、意識障害、呼吸不全、痙攣で発症することが多く、他の局所脳症状をともなわないこともある.神経症状は、運動機能の発達とともに1歳までに明らかになってくる.若年の子供でも、特に4歳以下では、意識障害、痙攣で発症することがよくある.年齢が上がると、片麻痺、失語、意識障害、他の局所症状で発症する.過去1年のVaricella(水痘)のように最近の感染症は重要である.
鑑別診断
AISの80%の小児で脳動脈の異常が認められる.Large artery(比較的大きな動脈)の閉塞・狭窄が殆どで、多くの場合MRAで検出可能である.また、small artery vasculitis(比較的小さな血管症)は稀である.放射線学的には、狭窄、閉塞、解離、FMD(繊維性筋異形成症)、もやもや病の所見が認められる.また多くの特発性の狭窄は、一過性である.MRA, MRVが正常で、small artery diseaseや解離が否定できない場合、脳血管撮影の適応がある.
心疾患
動脈性、静脈性の虚血性、小児の脳卒中の原因として、心疾患はよく認められる.これらの患者は、他の誘発因子(心臓手術、生検、血管内治療、安静、他の原因)を伴うことが多い.心電図、エコーは基本的な検査で、bubble contrastを用いたエコー検査も行われる.
他のリスクファクター
慢性の低酸素は、鎌状赤血球症におけるリスクファクターである.多くは鉄欠乏貧血が原因であるが、貧血もリスクファクターである.他のリスクファクターはいろいろあるが、再発に関係するのはprotein C欠損だけである.血栓塞栓性の卒中の小児患者では、抗カルジオリピン抗体とループスアンチコアグラントの検査を行うべきである.約1/3の患者で、これらが陽性になるが、再発のリスクと関係はないとされる.
予後、再発、治療
AISの再発は、6-30%とされる.多くの症例では、6か月以内に起こるとされる.急性期の脳保護薬はない.大きな大脳・小脳梗塞で昏睡の患者は、外減圧手術や脳圧モニターの適応である.もやもや病では、血管吻合術が一過性脳虚血発作の頻度を下げるのに有効であるが、無作為試験は未だ行われていない.
抗血栓薬
抗血栓薬は、急性期の脳梗塞で有用であり、深部血栓症予防や脳梗塞の2次予防にも有効である.しかし、全身の出血や出血性梗塞への変化の大きなリスクがある.小児の脳梗塞は成人のそれと異なり、頭蓋外のアテローマは稀であり、またvasculopathyは珍しくないが、頭蓋内動脈が主に障害を受ける.小児ではfactor V G1691A mutation, prothrombin G20210A genotype, protein C, protein S, antithrombin欠損が重要なリスクファクターである.
t-PA
小児の脳梗塞の鑑別診断の幅は広く、急性期で発症3時間以内に確証を持って最終診断までもって行くことは稀である.また小児のAISの死亡率は成人のそれよりも低い.また小児の脳梗塞患者の多くは、自立レベルにまで回復する可能性が高い.従って、小児の急性期の血栓溶解療法の役割はあまりないと考えられる.
抗血小板薬
小児で最も使われている抗血小板薬は、aspirinとdipyridamoleである.Aspirinを投与しても約10%で再発があるものの、安全とされる.急性期3-5mg/kg/dayの投与を、慢性期には1-3mg/kg/dayのaspirinを投与する.稀にclopidogrel 1mg/kg/dayの投与が行われる.低容量のaspirinで出血性の合併症は少なく、今のところ予防目的での低容量投与でのReye症候群の報告はない.
未分化型ヘパリン
未分化型ヘパリン12ヶ月以上の小児では、20U/kg/hourの濃度で、新生児と乳児では、28U/kg/hourの濃度で投与される.未分化型ヘパリンは、小児の静脈洞血栓症、心源性脳梗塞、動脈解離、他の再発の可能性の高い状態で使用することがある.成人と同様に小児でもheparin-induced thrombocytopenia type 2の報告がある.
低分子ヘパリン
低分子ヘパリンは少なくとも未分化型ヘパリンと同様に有効であり、出血の合併症とheparin-induced thrombocytopeniaの合併症は、有意に低い.低分子ヘパリンは、半減期が長いため、一日一回または2回投与が可能である.静脈性の血栓性脳卒中の治療において低分子ヘパリンは有用であろう.低分子ヘパリンで致命的な出血性合併症の報告はない.
抗凝固薬
小児におけるワルファリンの長期投与の脳梗塞予防の報告は限られている.しかし、心疾患や動脈解離、高凝固状態では、症例ごとにワルファリン投与を検討すべきである.INR 2.0-3.0が適切であるが、機械弁を持った小児にはINR 2.5-3.5が適切であろう.