新生児・小児の脳出血(出血性脳血管障害)


脳梗塞が出血に変わった出血性梗塞と外傷が原因の出血を除いた出血をいう.その頻度は1.5-5.1人/10万人/年とされる.小児では、脳梗塞の方が脳出血より多いとする報告もあれば、その逆の報告もある.平均年齢は7-8歳で、やや男児に多いとされる.出血の部位や大きさによってその症状は異なるが、頭痛、嘔吐、意識障害、脳局所症状、痙攣などを呈する.多くは、脳内出血(脳の実質内の出血)であるが、脳室内出血、硬膜下出血、くも膜下出血も起こす.80%以上の症例で脳皮質の出血で、脳の深部(基底核部)は10%以下とされる.


新生児期の未熟性 prematurity、低酸素、外傷による脳内出血は、よく知られている.凝固系の異常のない満期産の正常新生児に超音波検査を行うと5%に脳内出血が認められた.その出血の好発部位は、脈絡叢とgerminal matrixである.この2部位が、他の部位と比較して急激に増加する脳血流に耐えうるほどのしっかりした構造でないため出血すると考えられている.新生児期を過ぎればこのような脳内出血が減少するのは、血液脳関門が発達するからとされる.これ以外の脳内出血の原因に凝固系の異常があり、特に血友病 hemophiliaはよく知られている.


新生児頭蓋内出血


新生児の脳出血は、未熟児は、脳室内出血と小脳出血が多く、成熟児の場合は、硬膜下出血とクモ膜下出血が多い.クモ膜下出血には一次性と二次性があり、後者には脳室内出血、小脳出血、硬膜下出血がクモ膜下腔に回り込むものである.一次性クモ膜下出血は、静脈性の出血であり、軟膜静脈や架橋静脈の破綻により起こり、分娩外傷や虚血が原因のことが多い.硬膜下出血は、皮質静脈や架橋静脈の破綻により起こり、分娩外傷が原因のことが多い.小脳出血は早産児に多いとされ、分娩外傷、静脈性梗塞、クモ膜下出血や脳室内出血の影響とされる.脳室内出血は、早産児に多く、生後3日以内に起こる事が多い.出血は、上衣下組織(germinal matrix)から起こる.

 

基礎疾患


血管奇形:動静脈奇形、動静脈瘻、動脈瘤、海綿状血管奇形(海綿状血管腫とも言われる)、ガレン大静脈瘤、硬膜動静脈瘻.

血液疾患:血小板減少症、血友病、白血病、鎌状赤血球症(日本にはない)、凝固異常.

悪性腫瘍:悪性脳腫瘍(PNET: primitive neuroectodermal tumor、髄芽腫、星状細胞腫、上衣腫、原始神経外胚葉性腫瘍).

 

詳しい検査を行っても、その出血原因が不明な場合も少なくないが、多くの脳出血の出血原因は脳動静脈奇形である.10-20%の脳動静脈奇形は、小児期に症状を出する.年間の出血率は2-4%とされる.新生児の動静脈奇形(non-Galenic AVM)では、出血(42%)よりも心不全(58%)で発症することの方が多い.この場合、動静脈奇形よりも動静脈瘻の方が多い.動静脈奇形は「先天性血管病変なので、生まれた時から存在する」と考えがちであるが、必ずしもそうではなく、病変が出生後、新生児期を十分過ぎた頃に出現し、症状を出す事が多いと考えられている.小児期の動脈瘤は、他の全身疾患や血管病変の合併があることが多い.動脈瘤の章を参照.10-30%の原因は血液疾患である.出血を伴わない海綿状血管奇形 cavernous malformationはないが、その程度には差があり、顕微鏡レベルの出血から生命を脅かす大きな出血まである.乳児の海綿状血管奇形の報告は多くないが、1997年の時点で31例あり、男女比は、17/13であった.発症は、生後1日から12ヶ月で、平均6ヶ月であった.25%が新生児期に発症している.過造成の発症の報告もある.出血をともなう腫瘍は、より幼弱な腫瘍ほど出血しやすいとされる.

 

診断・検査

 

話すことが出来ない年齢の小児の脳内出血の診断は簡単ではない.それは症状が特異的ではなく、中枢神経症状で、最も信頼できるものは全身または部分痙攣だけであり、他は易刺激性・興奮性 irritability、神経過敏 jitterriness、無呼吸、チアノーゼ、嘔吐、甲高い叫び声、眼球運動障害、fontanelの緊張などがあれば、頭蓋内病変を疑うことが重要である.他に、頭部の雑音、頭皮の局所腫脹、頭蓋骨の部分欠損、心不全などが認められることがある.


病歴聴取が重要である.非侵襲的なfontanelを介した超音波検査は放射線を使わずbed sideで切り返し検査することも可能であり有用である.病変の大きさ、部位、正中構造の変位、水頭症、血流の検出などが可能である.しかし脳表の病変や小さな病変を見逃す可能性がある.また後頭蓋窩の病変の検出能力は劣る.CTやMRI/MRAも重要である.必要に応じて造影検査も行なう.脳血管撮影は侵襲的検査になるが、原因のはっきりしない症例では適応である.必要があれば、新生時期にでも行うが、その様な状況は多くはない.血管病変によっては、血腫によって病変が圧迫され、早期には描出されないため、繰り返す脳血管撮影で初めて分かる場合もある.通常、出血から3ヶ月を開ければ、血腫の影響は無くなる.


新生児脳室内出血の重症度分類(超音波検査による)


GRADE 1: 脳室内出血を伴わない、または極少量の脳室内出血を伴う上衣下出血(脳室腔の10%未満)

GRADE 2:脳室内出血(脳室腔の10-50%)

GRADE 3:脳室内出血(脳室腔の50%以上、通常側脳室拡大を伴う)

GRADE 4:脳室周囲出血性梗塞を伴う脳室内出血

 

治療

 

治療可能な疾患が多いので、きちんと診断を行い、原因・疾患にあった治療を選択する.




2006.9.29記、2007.7.21、2009.11.17 追記


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