遺伝性出血性毛細血管拡張症と肝動静脈瘻
遺伝性出血性毛細血管拡張症と肝動静脈瘻
遺伝性出血性毛細血管拡張症:HHTは、軽微な鼻血や口唇、口腔粘膜等の毛細血管拡張が症状の場合もあれば、肺・肝・脳の動静脈瘻による、より重症で多彩な症状を呈することもあり、同じ家族内のHHTであっても、症状が異なることが多いことは良く知られています.
自然歴(無治療で見た場合の予後)や治療方法、肝移植の適応等、分かっていないことが多いです.多くの場合、瀰漫性に動静脈瘻が認められることが多く、その血管構築の複雑さから塞栓術の対象になることは少ないです.また、塞栓術の治療成績が不良で、20%が死亡するともされ、塞栓術は奨められず、保存的治療が奨められることが多いです.保存的治療で乗り切れない場合は、肝移植が考慮されます.肝移植は、大量の輸血を必要とし、長期の入院を必要とし、また術後の合併症も多いとされています.しかし、この治療の5年の生存率は83%とされています.2014 7月の時点で、御聞きしたところでは、国内でHHTの患者さんの肝移植は、1例だけ、過去に行なわれたことがあるとのことです.
内科的治療に、抗血管新生薬のベバシズマブ Bevacizumab(商品名 アバスチン)が使われた報告があります.本邦では、大腸ガン(切除不可能な進行・再発の結腸・直腸がん)や悪性脳腫瘍(神経膠腫)に適応がある高価なお薬ですが、HHTの患者さんや加齢黄斑症の患者さんには保険適応はありません.海外でのHHTの患者さんの鼻出血や肝臓の血管奇形のための諸症状に有効であったという報告がある一方、合併症や長期的な投与で効果がなくなったという報告もあり、必ずしも有効は言えないというのが現状です.肝臓移植を待つ間の維持目的にこの アバスチン が使われることがあります.
ここに画像を示すHHT患者さんのCTは、造影剤投与初期像で、拡張した肝動脈が強く造影され、拡張した門脈と肝静脈が淡く造影されています.右葉に、門脈ー肝静脈シャント(PV shunt)が、左葉に、肝動脈ー門脈シャント(AP shunt)が認められました.肺の動静脈瘻の診断には造影のCT検査はいりません.しかし肝臓の動静脈瘻の診断には造影のCT検査が必要です.肺から肝臓まで一回、一連で検査が可能なため、造影のCT検査でdynamic studyをする方が、血行動態が良く分かり、両者の診断を一度に出来るという意味で有用です.
腹腔動脈造影:拡張した肝動脈が認められる.
上腸間膜造影:門脈ー肝静脈シャントが認められる.
検査データに異常がなくてもHHTの患者さんの頭部のMR検査を行なうとT1強調画像で淡蒼球に高信号が左右対称性に認められることがあります.逆に、頭部に動静脈シャントがないか検索を行なったとき、このT1高信号が、認められれば肝臓に門脈-大静脈シャント(PV shunt)があることになります.
MR検査のT1強調画像
両側の基底核 (BG: basal ganglia)、特に淡蒼球 (GP: globus pallidus) 高信号は、マンガンの沈着を現すとされ、門脈-体静脈シャント porto-systemic shunt が原因であり、肝機能障害を示唆する.肝性昏睡の時の特徴的なMR所見でもあります.
このような所見は、慢性の肝障害の80-90%に認められます.マンガンに対する血液脳関門の透過性が、選択的に増加したためと考えられています.血中濃度も高値を示します.
他にも、下垂体、視床下部、赤核周囲の中脳にも同様な所見が認められることがあります.鑑別診断に、Wilson病のように銅の過剰がある場合、高カロリー輸液 hyperalimentation、神経繊維腫症(レックリングハウゼン病)Neurofibromatosis type I、副甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症、高血糖、脳虚血などがあります.
治療により、臨床症状の改善がある場合、それに遅れて3-6ヶ月後に、この高信号域も消えていきます.
参考文献
Baba Y, Ohkubo K, Hamada K, et al: Hyperintense basal ganglia lesions on T1-weighted images in hereditary hemorrhagic telangiectasia with hepatic involvement. JCAT 22:976-979, 1998
Lerut J, Orlando G, Adam R, et al: Liver transplantation for hereditary hemorrhagic telangiectasia: report of the European liver transplant registry. Ann Surg 244:854-862, 2006 Link
この Lerutらの論文は、重症のHHT関連の肝臓シャントの患者さんには、塞栓術は避けるべきで、肝移植が奨められる、としています.
2007.7.16記, 2007.10.17, 2008.7.16, 2008.8.11, 2009.1.16, 2010.3.26, 2010.4.1, 2011.6.14, 2014.6.10, 2014.7.13、2017.2.27 追記