脊髄動静脈奇形

脊髄動静脈奇形の分類とそのMRI診断とカテーテル血管撮影の役割

 

はじめに

 

脊髄動静脈奇形の診断には,脊髄の正常血管解剖と脊髄動静脈奇形の分類の理解が必須である.まず現在よく用いられる分類(7)およびMRI診断を概説し,現時点でのMRI診断とカテーテルによる脊髄動脈撮影の役割について述べる.

 

I. 脊髄動静脈奇形の分類

 

1. 脊髄硬膜動静瘻,spinal dural arteriovenous fistula, Type I-AVM

 

硬膜動静脈瘻は type I-AVMとも言われ,脊髄動静脈奇形の中で最も高頻度で,中年以降(40歳以上)の男性に好発する.緩徐に進行するmyeloradiculopathyで発症し,出血することはほとんどない.運動や姿勢を変えることにより症状が悪化することもある.多くの症例で,シャント部位は下位胸髄,腰髄,脊髄円錐の一箇所で,神経根に伴行する栄養血管 (radiculomedullary arteryの硬膜枝) がnerve sleeveの硬膜でシャントをつくり,脊髄背面の静脈 (posterior median vein) に導出する.この硬膜外から硬膜内に向けた静脈は,本来のradicular veinを逆流しているものである(1)( 6).シャント自身に前脊髄動脈は関与しない.静脈の流れる方向は,caudal, cranial 両方あるが,多くはcaudalの方向であり,radicular veinを介して硬膜外に出る.Venous hypertensionによるischemic myelopathyを呈する acquired lesionと考えられている.動脈瘤の合併や導出静脈に静脈瘤が認められることはない.治療の効果は,症候性になってからの期間が短いほど神経学的な改善が期待できる.Foix-Alajouanine syndromeは,subacute necrotizing myelitisとも言われ,現在では,脊髄硬膜動静脈瘻の進行した病態であると考えられている.

 

2. 髄内動静脈奇形,spinal intramedullary arteriovenous malformation, Type II, III-AVM

 

過去には,Type II はglomus type,Type IIIはjuvenile typeのAVMと言われた.Type IIは,single feeder, single drainerのことが多く頚髄に好発し,多くは脊髄実質内の腹側にある小さなAVMである.Type IIIは,頻度は低く,脊髄の横断面を占める程度の大きなAVMで前および後脊髄動脈すべてが関与することが多い(7).Type IIIは,髄内病変のみならず硬膜外や脊柱管外にもAVMが存在する場合がある.静脈の流れる方向は,多くの場合caudal, cranial 両方向である.Dural AVFが胸腰部に多いのに比較して,より高位の脊髄に病変があることが多い.若年者に起こり,出血による突然の背部痛や対麻痺で発症する場合と徐々に進行するmyelopathyで発症する場合がある.Type IIの方がType IIIよりも高頻度で出血する.非出血発症の場合は,venous hypertensionがmyelopathyの原因である.動脈瘤の合併や導出静脈に静脈瘤が認められることもある.妊娠によって症状の悪化と来すこともある.

 

3. 硬膜内傍脊髄動静脈瘻,spinal perimedullary arteriovenous fistula, Type IV-AVM

 

Type IV-AVMとして報告されたextramedullary AVFで,脊髄の表面でシャントをつくり,稀にクモ膜下出血を起こすが,多くはvenous hypertensionによって進行性の脊髄症状を呈する(2)( 5).また動脈瘤の合併や拡張した静脈が静脈瘤を形成し脊髄を圧迫して症状を出す場合もある.性差はなく20-30歳台に好発する.脊髄円錐や馬尾に好発するが,他の部位にも起こる.前脊髄動脈が関与することが多い.外傷が原因と考えられる症例のあるが詳細は不明である.

 

4. 傍脊柱動静脈瘻・動静脈奇形, paraspinal arteriovenous fistula/malformation

 

脊柱管外の筋肉,神経孔,傍脊椎部,硬膜外腔などに存在する動静脈瘻,動静脈奇形で,シャントした血流により静脈が拡張しこれにより様々な症状を呈する.皮下の拍動性腫瘤,雑音,進行性の脊髄症状,心不全,脊髄出血,脊柱の変形などである.

 

II. MRI診断

 

脊髄動静脈奇形において,T2強調画像で脊髄の表面 (extramedullary) を蛇行しながら矢状方向に走行する導出静脈 (medullary vein) がsignal voidとして描出される(3) (4).流速の遅い血流は,T1強調画像で造影剤によって造影効果を受ける.矢状像,冠状像は病変の部位・高さの同定に有用であり,導出静脈と脊髄の関係(腹側,背側)の描出にも優れている.横断像ではintramedullary AVMではnidusがsignal voidとして観察され,逆にdural AVFやperimedullary AVFでは髄内にはsignal voidは観察されない.脊髄の肥厚・萎縮,syrinx,造影効果,mass effect,髄内の新鮮または陳旧性出血,静脈内血栓などの描出に加え,congestive myelopathyがT2強調画像で高信号,T1強調画像で低信号として描出される.これらの変化は,治療により軽減したり消失したりする.塞栓術の効果判定や再開通現象の検出にもMRIは有効である.近年,Time-of-flight法,Phase-contrast法によるMR angiographyや造影剤注入前後の差分像を使うMR digital subtraction angiographyも脊髄動静脈奇形の診断で重要になってきている.T2強調spin echo法は髄液の流れをsignal voidとして検出するため,硬膜内・髄外の短絡血流と誤診する可能性がある(4) .この現象の起こる好発部位(頚髄レベルでは腹側と腹外側、胸髄レベルでは背側)の理解やgradient echo法を含め他の断層像を参考にして診断することが必要である.

 

III. MRIとカテーテル血管撮影の脊髄動静脈奇形の診断における役割

 

MRIはその非侵襲性や多方向の撮像が可能な点で脊髄疾患の診断に有用であることは言うまでもない.脊髄動静脈奇形の診断に必要な点は,脊髄動静脈奇形の存在診断,他疾患との鑑別,血管構築の診断(矢状方向,横断面での部位診断,脊髄動静脈奇形の分類,栄養血管の同定,導出静脈の同定, 血行動態:動静脈瘻の大きさや速さ,動脈瘤や静脈瘤の合併),脊髄そのものの変化(虚血性変化,出血,脊髄空洞症)などが挙げられる.病変の存在診断のみであればMRIは有用であるが,実際の治療するに当たりカテーテル血管撮影なしで脊髄動静脈奇形の分類と栄養血管や導出静脈の同定を行うことは不可能である.逆に,脊髄実質の変化の描出はMRIでないと不可能であり,小さな動静脈シャントは血管撮影でないと描出できない.この意味でMRIとカテーテル血管撮影は相補的な役割がある.現時点では,臨床症状から脊髄動静脈奇形を疑った場合,MRIで血管病変が描出されない場合でも,カテーテル血管撮影が適応である.また,造影する血管の数が多く,検査が長時間になり不十分な血管造影で終わることもあるため,二期的に検査を行ったり,繰り返し超選択的造影を行う方が解剖学的な理解がしやすい場合もある.脊髄動静脈奇形の治療において外科的治療とならび血管内治療は重要な治療法であり,後者はカテーテル血管撮影の延長線上にある.この意味で,脊髄動静脈奇形の診断において現在でもカテーテル血管撮影はgold standardと言える.

 

文献

1) Anson JA, Spetzler RF: Spinal dural arteriovenous malformations, in Awads IA, Barrow DL (eds): Dural Arteriovenous Malformations. Park Ridge, Ill: American Association of Neurological Surgeons, 1993, pp. 175-191.

2) Djindjian M, Djinjian R, Rey A, et al: Intradural extramedullary spinal arterio-venous malformations fed by the anterior spinal artery. Surg Neurol 8: 85-93, 1977.

3) Doppman JL, Di Chiro G, Dwyer AJ, et al: Magnetic resonance imaging of spinal arteriovenous malformations. J Neurosurg 66:830-834, 1987.

4) Enzmann DR: Vascular disease, in Enzmann DR, DeLaPaz RL, Rubin JB (eds): Magnetic resonance of the spine. The C.V. Mosby Company, St.Louis, 1990, pp. 510-539.

5) Hero RC, Debrun GM, Ojemann RG, et al: Direct spinal arteriovenous fistula: a new type of spinal AVM. J Neurosurg 64:134-139, 1986.

6) Kendall BE, Logue V: Spinal epidural angiomatous malformations draining into intrathecal veins. Neuroradiology 13: 181-189, 1977.

7) Rosenblum B, Oldfield EH, Doppman JL, et al: Spinal arteriovenous malformations: a comparison of dural arteriovenous fistulas and intradural AVM's in 81 patients. J Neurosurg 67: 795-802, 1987.

 

 

2004.4.7記


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