中枢神経系の海綿状血管腫・血管奇形

Cavernous Angioma, Cavernous Malformation, Cerebral Cavernous Malformation (CCM)

 

 

脳や脊髄の海綿状血管腫は、病名に「腫」という漢字が付きますが、腫瘍ではなく血管奇形の一種と考えられています.ですから、より正確に病気を表すために海綿状血管奇形とも呼ばれています.cavernous angioma, cavernous malformation, cavernomaと書きます.

 

海綿状血管奇形は、徐々に大きくなる場合があり、症状は無症状の場合から、頭痛、けいれん、脳出血よる脳の局所症状を呈するまであります.1病変の年間の出血率は、2%以下と考えられています.男女差はなく、20-40歳代に発症することが多いです.細かく言うと、多くは0.25%-数%とされ、年齢、性別、多発性病変.部位、出血の既往などが出血率に影響するかも分かっていません.家族性の海綿状血管奇形は、年間出血率が16.5%/年, 一病変当たり0.6%/年とされます.

 

海綿状血管奇形は、病理学的には境界が明瞭な多房性の病変で、いろいろな時期の(古い出血と新しい出血が混在します)出血が認められ、神経組織を含まず、毛細血管拡張に似た構造をしています.また石灰化もよく認められます.また静脈性血管奇形(developmental venous anomaly)と合併する場合もあります.以前に病変のなかった部位に、海綿状血管奇形が出来てくる(de novo)こともあります.血管奇形というとすごい血流が流れていると思われるかもしれませんが、脳血管撮影をしても血流が写ることはなく、血流はあっても非常に遅い、またはほとんどないものと考えられています.

 

海綿状血管奇形は、脳血管障害の約1%の頻度で、脳血管奇形の15%の頻度で認められます.MR検査で、偶然に発見されることも多く、静脈性血管奇形についで、頻度的には多い脳血管奇形です.多発性に認められることも多く (15-33%)、家族性に認められることもあります.家族性の場合、より多発性病変であることも知られています.通常、年間に0.2-0.4個の病変が増えるとされますが、年間に22個も増えた症例報告もあります.また、多発する海綿状血管奇形が、ほぼ一側に発生することもあります [Reid 2008].

 

無症状の患者さんも多いですが、40-50%でけいれんが、20%が局所脳神経症状を呈し、10-25%が新しい出血を伴っています.頭痛を訴える患者さんも多いです.出血の既往のある場合には、ややその率は上がり、妊娠初期の女性も高いとされます.まれに大きな出血のため致命的になることもありますが、多くの場合は、出血は小さく、出血部位に見合った脳の局所症状を呈することが多いです.一般には、予後良好とされますが、病変の部位が、脳幹や基底核にあると予後は不良とされます.


海綿状血管奇形の出血に関するリスクファクターには、症候性の出血性発症(22.9% vs 0.39%/年)、テント下病変(3.8% vs 0.4% /年)、深部病変(4.1% vs 0% /年)、脳幹病変(80% vs 12.3%)、女性(5.9% vs 3.3%)、多発病変などがあります[5].しかし妊娠・分娩・産褥は出血のリスクをあげない ので(1.15% vs 1.01%/年)[6]、海綿状血管奇形があるからといって、医師が避妊を勧めるのは間違いです.脳虚血や心血管病変に対する抗血栓療法(抗血小板薬とワルファリン)は出血率を上げないので、その服薬を躊躇してはいけません [7].

 

海綿状血管奇形の多くは、散在性に起ったものですが、家族性に起こる常染色体優性遺伝の形をとる場合もあります.つまり後者では、50%は、その遺伝子が子供に伝わる確率です.遺伝子を持っても必ずしも症状を呈するとは限りません.関係する遺伝子も同定されておりCCM1 (cerebral cavernous malformation 1)は、第7染色体にあります (7q11.2-q21).家族性の海綿状血管腫の患者さんの40%にこの遺伝子が認められます.また、CCM2も発見されており、これも第7染色体にあります (7p15-p13).CCM3は第3染色体にあります.


KRIT1=CCM1, MGC4607=CCM2, PDCD10=CCM3

 

海綿状血管奇形は、中枢神経系のどこにでも起こりますが、前頭葉や側頭葉に多く認められます.80-90%の患者さんは、テント上(大脳)におこりますが、脳幹部にも起こります.また硬膜外で海綿静脈洞(女性に多
い)、網膜、眼窩、視交叉、脳神経、頭蓋骨、松果体などに起こる場合や脊髄に起こる場合もあります.小さな出血でも脳幹部や脊髄に起これば大きな症状を出します.進行性の症状は、繰り返す出血と関係があるとされています.脊髄では、髄内、髄外、硬膜内、硬膜外のどこにでも発生します.脳実質内に発生する病変と脳実質外に発生する病変は、臨床的な経過や画像所見も異なる点が多く、まったく同じ疾患として扱って良いのかは分かっていない.特に、家族性の海綿状血管奇形で、その9%の患者さんに、皮膚に種々の病変が認められることが知られています.毛細血管奇形 (CM、capillary malformation) 34%, 過角化毛細血管静脈性奇形 hyperkeratotic cataneous capillary venous malformation (HCCVM) 39%,静脈性血管奇形 (VM、venous malformation)  21%でした.これら皮膚所見のある家族性の海綿状血管奇形の多くがCCM1でした.逆に、これらの皮膚所見があれば、CCM1の可能性が高いと言えます.右の手の写真は、矢印が小さな皮膚病変:毛細血管奇形(毛細血管拡張)を示しています.

 

診断には、急性期の出血はCT検査を行いますが、海綿状血管奇形の診断には、MR検査が最も有用です.Gradient echoという撮像方法が有用とされます.最近は、SWI: susceptibility-weighted imagingが高感度であるため頻用されます.上述のようにカテーテル血管撮影では、海綿状血管奇形は写らないことが殆どです.しかし、静脈性血管奇形venous malformation, developmental venous anomaly: DVA)と合併しているとき(30%)には、この静脈性血管奇形は、脳血管撮影で描出されます.少し、話はややこしいですが、この静脈性血管奇形 DVAの中に、動静脈シャントを持つものがあり、より出血の合併症が高いと考えられます.静脈性血管奇形の診断は、造影剤を使ったMR検査が最も有効です.


    
 


このMR画像は、ほぼ同じ断面ですが、左のT2強調画像では、あまり病変がはっきりしませんが、右のSWI画像では、多数の病変があることが分かります.

 

治療:多くの海綿状血管奇形は、症状も軽微であり、長期にわたり臨床的には安定しているために、経過観察されることが多いようです.無症状の場合は、まず経過観察です.しかし、海綿状血管奇形が症状を出している場合には、いろいろな治療が選択されることがあります.外科的手術による摘出は、患者さんの年齢、病変の部位や大きさ、症状などを考え、その適応を考えます.ガンマナイフのような定位放射線療法が、2度以上出血し、外科的治療の困難な部位にある海綿状血管腫に考慮されることもありますが、その効果と起こりうる合併症(放射線障害)のバランスを考えると、現時点で積極的に行っている施設はありません.しかし、海綿状静脈洞の病変など、脳実質外の病変には定位放射線療法が効果的であることもあります. 脳静脈性血管奇形はそれ自身からの出血は、殆どないため、また正常の脳灌流に使われる静脈を 静脈性血管奇形が共用しているため、外科的な治療は、 静脈性血管奇形を温存し、海綿状血管奇形だけを摘出する手術を行ないます.


以上のように、経過観察、外科的摘出術、定位放射線治療の選択であった海綿状血管奇形ですが、その発生メカニズムが徐々に解明されてきました.CCM1, CCM2, CCM3の遺伝子に変異が起こり、これらの遺伝子が規定するタンパク質の働きが悪くなることにより(loss of function)、中枢神経系の血管内膜が、間葉細胞や幹細胞のような性格を獲得すること(EndMT: endothelial-to-mesenchymal transition)により、海綿状血管奇形が形成されることが分かってきました [4].従って、この「血管内膜が、間葉細胞や幹細胞のような性格を獲得する」過程を、ブロックするような内科的な治療が、近い将来には可能になると思われます.

 

日本脳卒中学会のまとめたガイドラインがあります.この通り治療するというより、参考資料という存在です.

 

海綿状血管奇形(海綿状血管腫)の治療推奨

 

1.無症候性の海綿状血管腫は、保存的治療を考慮しても良い.

2.症候性の海綿状血管腫(出血、コントロール不良な痙攣、進行性の神経症状)のうち、病変が脳幹を含む脳表付近に存在する症例では外科的切除を考慮しても良い.

3.定位放射線治療は再出血予防および痙攣コントロールに効果があるが、外科的治療が困難な例において検討されるべきで、照射線量も低く設定する必要がある.

 

参考文献

  1. 1.徳永浩司、伊達 勳:頭部に発生する海綿状血管腫および静脈性血管腫の臨床.BRAIN and NERVE 63:17-25, 2011

  2. 2. Sirvente J, Enjolras O, Wassef M, et al: Frequency and phenotypes of cutaneous vascular malformations in a consecutive series of 417 patients with familial cerebral cavernous malformations. J Eur Acad Dermatol Venereol. 23:1066-1072, 2009

  3. 3.Reid PJ, Campbell SS, Vates GE, et al: Extreme de novo appearance of cerebral cavernous malformations: case report. Neurosurgery 62:E969-E970, 2008

  4. 4.Maddaluno L, Rudini N, Cuttano R, et al: EndMT contributes to the onset and progression of cerebral cavernous malformations. Nature 498:492-496, 2013

  5. 5.Washington CW, McCoy KE, Zipfel GJ: Update on the history of cavernous malformations and factors predicting aggressive clinical presentation. Neurosurg Focus 29:E7, 2010

  6. 6.Witiw CD, Abou-Hamden A, Kulkarn A, Silvaggio JA, Schneider C, Wallace MC: Cerebral cavernous malformations and pregnancy: hemorrhagic risk and influence on obstetrical management. Neurosurgery 71:626-631, 2012

  7. 7.Schneble HM, Soumare A, Herve D, Bresson D, et al: Antithrombotic therapy and bleeding risk in a prospective cohort study of patients with cerebral cavernous malformations. Stroke 43:3196-3199, 2012



 

2005.7.19記、2007.10.5、2010.7.7 , 2011.1.17, 2011.6.27, 2011.7.6 、2013.4.17、2014.5.23、2014.10.1、2015.8.27, 2015.9.15  追記


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