肝臓の血管腫

小児の肝血管腫 hepatic hemangioendothelioma



肝臓にも血管腫(hemangioendothelioma)が起こるが、他の部位の血管腫と臨床上、共通することも多い.出生前の超音波検査で検出されることもある [Kummendorff 2002, Warmann 2003, Schweinitz 2003].胎児・新生児の腫瘍の5%が肝腫瘍とされる.このなかでhemangiomaが最も高頻度である.特に、治療上問題になるのは、心不全、Kasabach-Merritt現象、mass effect(abdominal distension, hepatomagaly)、呼吸不全を呈する場合である.腹腔内出血を起こすこともある.出生前にhydrops fetalis/intra-uterine heart failureを起こすことも稀にある.Proliferating phaseを過ぎれば、他の部位の血管腫と同様に消退する腫瘍であるため(spontaneous regression)、全身状態が悪くても出来る限りの治療を行なう.鑑別診断は、小児期に起こる他の肝腫瘍(hepatoblastoma, mesenchymal hamartoma, germ cell tumor, teratoma)であるが、頻度は低く、組織診断は行ない難いため、鑑別が困難な場合が多く、血清マーカー(AFP, beta-HCG)の検査は必ず行なう.他に、肝でのarteriovenous malformation/fistulaがある.


治療は、内科的治療、外科的治療、血管内治療がある.内科的治療(steroid, interferon等)は、他の部位と変わりがない.心不全に対しては、diuretics, digitalisなどが、投与される.呼吸不全があれば、人工換気が行なわれる.外科的治療には、腫瘍摘出術、栄養動脈結紮があり、肝移植の報告もある.ここでは、血管内治療を中心に記載する.


肝血管腫の血管撮影所見は、direct AV shuntはなく、腫瘍の周辺から中心に向う濃染像である.このcentripetal patternが特徴であり、造影CTでも同様の所見が得られる.CTでは、石灰化や腫瘍内出血もよく認められる.肝血管腫は主にhepatic arteryから栄養される.Celiac arteryの血流が非常に多い場合、celiac arteryより遠位の大動脈が非常に細い場合がある.親動脈であるhepatic arteryまで、guiding catheter (4F)を挿入し、さらにmicrocatheterを用いて選択的な塞栓術を行なう.栄養動脈として、hepatic artery以外には、superior mesenteric artery, intercostal artery, adrenal artery, portal veinなどから側副路を介したsupplyがある.塞栓物質は、pushable coilを主体に、症例によってPVAやNBCA(50%濃度程度) [Kummendorff 2002]を用いる.多くの場合、hepatic arteryへの塞栓術で腫瘍への血流が減少・遮断されるが、血流減少が認められない場合もあり、これは腫瘍の部位、血管構築、側副路(例えばright phrenic artery)によると考えられる.大量の血液が腫瘍に向かうため、正常な肝実質に向うhepatic arteryの枝の描出はされないことが多く、塞栓術のときに同時に塞栓される可能性が高い.この場合、血清検査で肝酵素の上昇が認められる.従って、出来るだけ腫瘍の選択的塞栓術が望まれるが、新生児の症例では、治療時間や造影剤の量に制限がある場合も多く、臨機応変な対応が必要である.また残存する栄養動脈があり再治療の必要な場合には、遅滞なく再治療を行なう.


Celiac trunkへの到達には、経動脈的と経静脈的ルートがあり、前者は大腿動脈から直接、後者は大腿静脈から右心房 → foramen ovale → 左心房 → 左心室 → 動脈経由か、右心房 → 肺動脈 → PDA →大 動脈経由のルートを使う [Warmann 2003].経静脈的ルートの意義は、大腿動脈の閉塞による下肢の虚血性合併症を避けることにある.経静脈的による下行大動脈への到達は、肺動脈、PDA、大動脈の解剖学的血管構築から頭部にある動静脈シャントを治療する時の大動脈弓への到達よりも容易である.


Kummendorff CM, Cwikiel W, Sandstrom S: embolization of hepatic hemangiomas in infants. Eur J Pediatr Surg 12:348-352, 2002


Schweinitz D: Neonatal liver tumors. Sem Neonatol 8:403-410, 2003


Warmann S, Bertram H, Kardorff R, et al: Interventional treatment of infantile hepatic hemangioendothelioma. J Pediatr Surg 38:1177-1181, 2003



2007.1.17記


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