脳動静脈奇形を持つ胎児の出生後の心不全の予測

 

脳動静脈奇形(ガレン大静脈瘤や脳動静脈瘻)の胎児の出生後に起こる心不全の有無やとその程度、さらに神経系の機能予後をどの程度まで出生前に予測できるかはが重要な課題でである.出生前は、低抵抗の胎盤循環 low resistance utero-placental circuitがあるため動静脈シャントの量は、出生後のシャント量と比較すると大きくはなく、胎児を守っているといえる.出生前の心不全が、胎盤循環が無くなる出生により改善することはなく、心拍出量の多くが(例えば70%程度)、脳の低抵抗の動静脈シャント low resisitent cerebal circulationに向うため、心不全が出生前以上に悪化することが予想されるが、どの程度悪化するかの予想は困難である.心臓への還流が増え、右心系のoverloadになる.このため、しばしば心房レベルでの右→左シャントや動脈管を介した右→左シャントが認められる.心不全の程度が殆どない場合、出生後に重症の心不全になることはない.出生後の心不全の予想は、出生前の超音波検査で、心臓の大きさ (cardiothaoracic area ratio: CTAR)、心拍出量cardiac output、右室拡大、心室中核の左方変位、三尖弁逆流tricuspid regurgitation (TR)、上大静脈 SVCの太さ・血流、大動脈での逆流 retrograde flow, flow arrest, flow reversalの程度(なし、拡張期にあり、収縮期にもあり)、動脈管内の右→左血流、頚静脈の血流・太さ、頭蓋内動脈の血流パターン(血流の途絶)、肺高血圧などの所見で判断される.これらのすべて脳に於ける動静脈シャントの量に関連している.重症例では、大動脈峡部での逆流が高度で、上行大動脈の血流がすべて脳に向かい、下行大動脈に血流が向かわず、さらに動脈管の右→左血流の一部も下行大動脈を逆流し、頭部に向かうこともある.通常、頭蓋内動脈は、脈波を呈し、常に順行性に流れるが、シャントに血流が取られると脈波に途絶するphaseが出現する.これらのparameterの中で、心拍出量のように動脈管や卵円孔を介した血流に影響されないSVCの血流が、その予後を最も反映すると報告されている.SVC血流が400 ml/kg/min以上であれば、その予後は不良であり、400ml以下であると治療に反応することが多い(正常値 55-111 ml/kg/min) [1].正常では、SVC血流86、右室血流 250、左室血流 250程度であるが、ガレン大静脈瘤による脳動静脈シャントによる高度の右室不全では、SVC 500-800、右室血流600、左室血流300-400 ml/kg/minにもなる.動脈管は閉塞すると左右の心室の血流は同じになる [2].


最重症は胎児水腫 hydrops fetalisであり、全身の皮膚の浮腫や胸水・腹水が認められ、その後の治療の対象にならないほどの重症であり、生命予後・機能予後は不良である.脳での短絡血流量が関係するが、病変の大きさとは直接関係はない.これらのの所見を参考に、治療の適応がないか、出生まで到達するか、出生直後から血管内治療が必要か、ある程度待機治療が可能か、新生児期に血管内治療の必要はないか、を予測し準備する.過去の報告で、心不全が急変・悪化した等の報告は、出生前や出生直後の心不全の評価をしていなかったり、正しく評価していない可能性が高い.


1. Heuchan AM, Bhattacharyha J: Superior vena cava flow and management of neonates with vein of Galen malformation. Arch Dis Child Fetal Neonatol Ed 97:F344-F347, 2012


2. Patel N, Mills JF, Cheung MMH, et al: Systemic haemodynamics in infants with vein of Galen malformation: assessment and basis for therapy. J Perinatol 27:460-463, 2007



参考図書

小宮山雅樹:神経脈管学、メディカ出版、大阪、2012


2013 11 19 記


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