鼻出血と鼻腔閉鎖法 (Young法)
鼻出血に対する治療法は、過去から多数の報告がありますが、決定打がないのが問題です.レーザー治療や電気凝固法は一時的な効果しかなく、塞栓術も長期的な効果はありません.分子標的薬のBevacizumabの効果の報告はこれから色々出てくるかもしれませんが、点鼻薬として使った場合の効果は、生理的食塩水と同じでした.皮膚移植術は、臨床症状を改善しますが、25%の症例で追加治療を必要とします.その中でYoung法という両側の鼻孔を外科的に閉塞する方法が、他の治療よりかなり勝ると報告されてきました.
輸血や鉄剤の静脈投与が必要とする重症の鼻出血の患者さんへのこのYoung法の国外の3 HHT Centerからの治療報告の論文を紹介します [2].
Richer SL, Geisthoff UW, Livada N, et al: The Young’s procedure for severe epistaxis from hereditary hemorrhagic telangiectasia. Am J Rhinol Allergy 26: 401-404, 2012
このYoung法は、Dr. Austen Young [1]が、1967年に萎縮性鼻炎に対する治療として行ないましたが、鼻出血に対しては1991年に行われたのが最初です.
この報告の対象は3施設の43名の重症のオスラー病の患者さんで、両側の鼻孔閉塞が38人に、片側だけの鼻孔閉塞を5人に行いました.1側だけを行なった理由は患者さんの希望でした.全員が、すでにレーザー治療か電気凝固治療を平均14回も受けていました.11人が皮膚移植の治療も受けていました.
手術後、平均34ヶ月のフォローがされ、うち二人が、オスラー病と関係ない理由で死亡し、5人が追跡できず、結局36人の治療結果の報告です.
36人のうち30人(83%)で全く鼻出血がなくなりました.5人が軽度の鼻出血を経験し、一人が手術した鼻孔の縫合離開dehiscenceを経験しました.後者の患者さんは再手術を希望しませんでした.12人(28%)が僅かな鼻出血を伴う部分的な縫合離開を経験し、再手術を必要としましたが、その後、鼻出血は完全になくなりました.手術後に輸血を必要とする患者さんはいませんでした.16人で、術前・術後のヘモグロビンのデータがあり、術前の平均7.7 gm/dlで、術後12.8 gm/dlになりました.うち3人の患者さんで、貧血が改善しなかったですが、それは消化管の病変からの消化管出血が原因でした.
36人全員が、このYoung法の手術に満足し、また全員が主観的に軽快したと感じました.匂いが分からなくなることや味覚が低下することに対して、鼻出血で悩むよりもこの手術法の副作用の方をましだと報告しました.閉塞した鼻孔を再度、開いた患者さんは一人もいませんでした.
考察
Young法は、鼻腔内の空気の流れがなくなることにより、ほぼ鼻出血はなくなります.皮膚移植法では、術後に鼻腔内の清掃(鼻くそとり)をずっと必要としますが、Young法はそのようなメンテナンスの必要はありません.Young法は、もし必要があれば、また希望すれば閉塞した鼻孔を再度、開けることは可能です.鼻孔を閉塞すると口呼吸を余儀なくされ、口が乾きます.匂いや味が分からなくなるマイナス面もありますが、鼻出血がなくなるというプラス面が患者さんにとってずっと大きいようです.抗凝固薬や抗血小板薬の投与が必要であったり、血小板減少症のような特殊な患者さん側の状況では、このYoung法は特に有用だと考えられます.
1. Young A: Closure of the nostrils in atrophic rhinitis. J Laryngol Otol 5:515-524, 1967
2. Richer SL, Geisthoff UW, Livada N, et al: The Young’s procedure for severe epistaxis from hereditary hemorrhagic telangiectasia. Am J Rhinol Allergy 26: 401-404, 2012
2017.4.17記載