鼻血に対する血管内手術

鼻出血

 

鼻出血は、出血点の部位によって前部出血(anterior epistaxis)と後部出血(posterior epistaxis)に分類される.前部出血は、頻度が高く軽症の鼻出血の場合が多く、Kiesselbach's plexusからの出血である.後部出血は、出血点が分かり難く、止血困難なことが多い.また、出血原因により基礎疾患がある場合とない場合とに分ける場合もある.前者には、外傷、医原性病変、腫瘍性病変(原発性良性・悪性腫瘍、転移性腫瘍)、血管病変(動脈瘤、動静脈奇形、動静脈瘻、静脈奇形)、出血傾向などが含まれる.頻度的には、原因のはっきりしない特発性鼻出血が多い.内頚動脈の外傷性仮性動脈瘤による蝶形骨洞からの鼻出血は、この項では扱わない.

 

鼻出血の治療には、電気凝固、鼻腔パッキング、止血物質の局所注入、動脈結紮(外頚動脈、内顎動脈、ethmoidal artery)、塞栓術などがある.動脈結紮を行っても側副血行路からの血流により出血コントロールが困難なことも多い.急性の鼻出血に対しては、まず鼻腔パッキングを行い出血をコントロールし、出血のコントロールが不可能なときに塞栓術を行うことが一般的になっている[1,2].鼻腔パッキングは時間が長くなると、感染や粘膜・皮膚の壊死などの問題が起こる.鼻腔パッキングを早期に抜去するために、逆に塞栓術を行う場合もある.


オスラー病(HHT)における鼻出血のコントロールは、簡単ではない.上記治療法以外に、ホルモン療法、止血剤投与、軟膏塗布、レーザー治療、鼻粘膜形成術(植皮術)、外鼻孔閉鎖術などがあり、 電気凝固は、奨められないとされる.塞栓術の効果も一過性であり、この中では、最も効果的な 鼻粘膜形成術(植皮術)も、鼻孔の前半の粘膜を大腿部から採った皮膚に置き換える手術で、出血の頻度、程度の改善が見込まれるが、数年で再発する場合もある.根治の治療がないため、鼻出血による貧血が高度の場合は、対症療法になるが輸血が必要になる.

 


鼻腔の血管解剖

 

顎動脈のpterygopalatine segmentがsphenopalatine foramenから鼻腔の中鼻甲介の後上部に入るsphenopalatine arteryが主な出血血管であることが多い.このsphenopalatine arteryはposterior lateral branch (chonchal branch)とposterior medial branch (septal branch)の2分枝に分かれる.前者は鼻腔外側壁、上顎洞、蝶形骨洞、師骨洞に分布し、後者は鼻中隔に分布する.眼動脈の分枝であるanterior and posterior ethmoidal arteriesは、鼻中隔の上部を栄養しseptal branchと吻合する.鼻中隔の前下部であるKiesselbach's plexusは、descending (greater) palatine artery、nasopalatine artery (septal branchの枝)、superior labial artery (facial arteryの分枝)の吻合点である.内頚動脈の分枝であるinferolateral trunkやvidian arteryは顎動脈と吻合する.血管結紮を行ったときなど特にascending pharyngeal artery (pharyngeal branch、accessory meningeal artery、infraorbital artery、 ascending palatine artery、 反対側からの血管吻合も考慮する必要がある.

   

      

 
       

 

                            鼻腔 外側壁                                                      鼻中隔

 


血管内手術

 

1974年にSokoloffらによって鼻出血に対して初めて塞栓術が報告された[3].鼻出血の血管内手術において、外傷による鼻出血と非外傷性のそれでは治療方法が異なるため分けて記載する[4,5].

 

非外傷性の鼻出血

 

血管内手術においては鼻腔の血管解剖の理解が重要である.塞栓術は局所麻酔で可能な手技であり、必要に応じ軽度の鎮静を行う.外頚動脈は血管攣縮を起こしやすく丁寧なカテーテル手技が必要である.診断用のカテーテルを親カテーテルにして塞栓術も可能であるが、マイクロカテーテルのpushabilityや安定性が下がり、かえって時間がかかることがありガイディングカテーテルを使用すべきである.選択的に出血血管にマイクロカテーテルを誘導し、PVA(50-250μ)や場合によってプラチナコイルを使い塞栓術を行う.出血点が明らかでない場合、多くは同側のsphenopalatine arteryにカテーテルを進め塞栓術を行う.塞栓術中は内頚動脈との吻合dangerous anastomosisに細心の注意する.高圧でinjectionするとdangerous anastomosisを逆流することがあるため出来るだけ低圧で行う.出血側がはっきりしない時は両側の塞栓を行う.顎動脈の塞栓術後、顔面動脈撮影を行い鼻出血に関与がないかを確認する.さらに同側の内頚動脈撮影、反対側の頚動脈撮影を行い手技を終了する.鼻腔パッキングを行っている場合、圧迫圧と動脈圧のバランスで止血されているため、塞栓術時に必ずしもextravasationが認められるとは限らず、逆にextravasationが認められることのほうが少ない.実際に出血点そのものを塞栓するわけではなく、出血点の潅流圧の低下により止血することとなる.このため、鼻腔パッキングは塞栓術の直後に抜去のではなく、少なくとも数時間後または翌日に行うべきである.また、コイルを使用する場合、親血管を犠牲にすることとなるため、再度塞栓術が必要になったときにアクセスするルートがなくなるため、この点を考慮する必要がある.特発性の鼻出血は繰り返し出血する場合もあり、hemorrhagic hereditary telangiectasia of Osler-Weber-Rendouでは特に繰り返す鼻出血がある.Ethmoidal arteryが出血源である場合は塞栓術のリスクを考えると外科的な結札が適応となる.

 

外傷性の鼻出血

 

外傷性の鼻出血は頭部顔面外傷に加え、多くの場合、他の部位にも外傷があり全身状態が不良で、意識障害、呼吸不全、開放性出血・胸腔内出血・腹腔内出血による出血性の低血圧などを伴うことが多く、非外傷性の鼻出血と異なるアプローチが必要である.重要な相違点は、出血点がextravasationとして認められることが多く、多発性、両側性の場合が多く、全身状態が不良のため出来るだけ短時間で塞栓術を行う必要があることである[4,5].顔面骨の骨折が重症の場合、鼻腔パッキングがうまく機能しない場合も多く、鼻腔と口腔との交通性がある場合もある.診断の血管撮影では、全身の低血圧があると外頚動脈系は高度の血管攣縮が認められ針金のように見えることが多い.そのため、extravasationが認められないこともあり、またextravasationが認められる部位だけが出血源とも限らない.出血点が明らかでない場合、血管の攣縮や壁の不整などが参考になることもある.出血側が、必ずしも臨床的観察とは一致しないことも多い.全身状態が不良で、短時間で手技を終了する必要がある場合は、内顎動脈の近位部をコイルで閉塞し局所の血圧を下げるだけで止血する場合も多い.PVAを使用すると攣縮した外頚動脈から逆流する可能性が高く、この様な症例ではコイルを使用した方が安全である.Spontaneous epistaxisと異なり再発を考慮する必要がないので近位血管の閉塞を行うことも可能である.

 

口腔・耳出血

 

口腔・耳出血は、悪性腫瘍からの出血や血管病変からの出血のことが多く、塞栓術の方法の原則は鼻出血の場合と同じである.重症顔面外傷の場合、鼻出血のみならず口腔出血も認められることがある.

 

 

文献

 

1. Strutz J, Schumacher M: Uncontrollable epistaxis. Arch Otolaryngol Head Neck Surg 116:697-699, 1990

 

2. Vitek JJ: Idiopathic intractable epistaxis: comparison of therapy. Radiology 181:113-116, 1991

 

3. Sokoloff J, Wickbom T, McDonald D, et al: Therapeutic percutaneous embolization in intractable epistaxis. Radiology 111:285-287, 1974

 

4. 西嶋義彦,岸 廣成,黒瀬喜久雄,他:血管内手術による塞栓術が奏功した顔面外傷の2例.脳神経外科 21:809-813, 1993

 

5. Komiyama M, Nishikawa M, Kan M, et al: Endovascular treatment of intractable oronasal bleeding associated with severe craniofacial injury. J Trauma 44:330-334, 1998

 

 

2004.4.8記、2007.11.20、2009.1.16追記

 

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