PTEN遺伝子の変異
PTEN(phosphatase and tensine homolog)遺伝子は、第10番染色体の長腕(10q22-23)にあるがん抑制遺伝子であり、phosphoinositide-3 kinase (PI3K)の経路を規定し、細胞周期の規定、細胞増殖、細胞遊送などに関連しています.その変異によりPTEN蛋白が減少するために起るいくつかの疾患・症候群が明らかになり、その中でも血管奇形と関連することがあり、ここではPTEN遺伝子と血管奇形を中心に記載します.
PTEN遺伝子の変異が原因の疾患には、Cowden症候群、Lhermitte-Duclos病、Bannayan-Riley-Ruvalcaba症候群、Proteus症候群などがあり、これらをまとめてPTEN hamartoma tumor syndrome(PHTS)という疾患概念で捉えられるようになってきました.
Cowden症候群はその80%でPTEN遺伝子の変異があり、全身に過誤腫が認められます.皮膚粘膜病変には、顔面の外毛根鞘腫、四肢末端の角化症、口腔粘膜の乳頭腫があり、消化管病変には多発性ポリープが認められます.また甲状腺、乳腺、子宮内膜の悪性腫瘍の合併も多いです.大頭症、脂肪腫、精神発達遅延なども認められます.
Lhermitte-Duclos病は、成人型小脳異形成神経節細胞腫とも呼ばれ、Cowden症候群の一表現型と考えられています.Bannayan-Riley-Ruvalcaba症候群では60%にPTEN遺伝子の変異があり、大頭症、脂肪腫、血管腫、精神発達遅延、陰茎の色素沈着(penile freckling)などが認められます.
PTEN遺伝子変異と血管奇形
多発性の血管奇形(速い流速のシャントfast-flow AV shunt)が脳以外にあり、特に導出静脈の近位部の拡大(segmental dilatation)が特徴的です.血管奇形には異所性脂肪沈着(ectopic adipose tissue)を伴い、血管奇形の筋肉内への浸潤も認められ、頭蓋内の血管病変は、high-flow lesionではなく、脳の静脈性血管奇形developmental venous anomaly(DVA)です.
これは逆に、近位導出静脈の拡張を伴う速い流速のシャントの動静脈瘻やDVAが多発性にあり、異所性脂肪沈着や筋肉内浸潤、さらに大頭症などがあれば、PTEN遺伝子の変異を考える必要があります.
参考文献
Tan WH, Baris HN, Burrows PE, et al: The spectrum of vascular anomalies in patients with PTEN mutations: implications for diagnosis and management. J Med Genet 44:594-602, 2007
2011.4.1 記