オスラー病と鼻血: NOSE study

The North American Study of Epistaxis in HHT (NOSE study)


HHTの鼻出血は、日常生活で問題となる大きな要因です.その治療は、決定的なものはありません.今年の9月6日に、アメリカの有名な医学雑誌のJAMAにHHTの鼻出血の頻度に対する効果について、局所鼻腔内治療(鼻腔内スプレイ)の結果が出ていましたので、要点をご紹介します.


作用機序の異なる3つの薬剤を含む局所鼻腔内治療のHHTの鼻出血に対する効果を見る二重盲検法、プラセボ対照無作為化試験が米国のHHTの6つの治療センターで共同研究が行われました.2011年8月から2014年3月の間に、鼻出血の重症度スコアの3.0以上で治療の適応となった121人の大人を対象としています.2014年9月に経過観察を終了しています.


治療:対象患者は、12週間1日2回の鼻腔スプレイを行いました.スプレイの内容は、bevacizumab 1% (4mg/日)、estriol 0.1% (0.4 mg/日)、tranexamic acid 10% (40 mg/日)の3種の薬剤とプラセボは、0.9% 生理的食塩水でした.


転帰と方法:主要転帰は第5-12週における一週間の鼻出血の頻度の中央値とし、二次的な転帰は、第5-12週における鼻出血の継続時間の中央値、鼻出血の重症度スコア、ヘモグロビン値、フェリチン値、輸血が必要であったか、緊急外来への来院、治療不成功としました.


結果:121人(平均52.8歳、44%が女性、平均週7.0回の鼻出血)のうち、106人(41%が女性)が、主要転帰の研究期間(第5-12週)を終了しています.どの薬剤も有意に鼻出血頻度を下げませんでした.12週の治療終了後、一週間の鼻出血の頻度は、bevacizumab群が7.0で、estriol群は8.0で、tranexamic acid群が7.5でした.プラセボ(生理的食塩水)群は8.0でした.鼻出血の継続時間に関してもどの薬剤も効果に差はありませんでした.どの群も12週と24週において、鼻出血の重症度スコアは有意に改善しました.ヘモグロビン値、フェリチン値、輸血が必要であったか、緊急外来への来院、治療不成功も各群間に有意の差はありませんでした.


結論:HHTの患者さんにおいて、局所鼻腔内局所スプレイ治療の各群間(bevacizumab 対estriol 対tranexamic acid対プラセボ)に鼻出血の頻度に有意な差はありませんでした.


解説:bevacizumab(ベバシズマブは、アバスチンの商品名で販売されています)は、抗VEGF治療薬で、血管新生を抑える効果があり、estriol(エストロゲンの一種)は鼻粘膜の扁平上皮仮生(squamous mataplasia)を起こし、tranexamic acid(トラネキサム酸で、トランサミンなどの商品名でも販売されています)は血液凝固の安定化を起こすとされます.これらの薬剤は鼻出血に効果が期待され、今まである程度の有効性を示す臨床研究の結果が報告されてきましたが、症例数は多くなく、異なる結果も存在しました.今回報告された二重盲検法、プラセボ対照無作為化試験は、各薬剤が使われた濃度では生理的食塩水と効果に差がないことを科学的に証明しています.昔から鼻腔を通る乾燥した空気が、刺激になり鼻出血を起こし易いとされ、薬剤を含まない生理的食塩水よる湿潤化の有効性が証明されたことになります.


この研究は、米国のNPO HHT患者団体のCure HHTが、資金援助を行っています.


Whitehead KJ, Sautter NB, McWilliums JP, et al: effects of topical intranasal therapy on epistaxis frequency in patients with hereditary hemorrhagic telangiectasia. A randomized clinical trial. JAMA 316:943-951, 2016


Web: http://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/2547755


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2016.10.11 記