患者の目から見た今の医療
患者の目から見た今の医療
今は、九州で活躍中のKさんから手紙を頂きました.長い間、遺伝性出血性毛細血管拡張症(HHT)による病変と戦ってきた彼に、今までの医療に対する思いを書いて頂きました.
患者の目から見た今の医療
私が初めて入院したのは中学1年生のときでした。友達とふざけていて右即頭部を打ち脳内出血をおこし病院に運ばれました。とりあえずCTを撮って脳内出血の状態を把握し処置をしましたが、撮影したCTに大きな血管奇形が写っていました。先生方は『こんな大きな血管奇形は見たことがない。』と言われました。病状が安定してから2度ほど血管内外科の治療を試みましたが結果はうまくいきませんでした。そして、当時の医学ではどうにもできないということで経過観察をすることになりました。
その後、中学を卒業し高校、大学と進学し、就職をして働いていましたが、就職してから3年目に頭にあった血管奇形から出血し救急車で病院に運ばれました。かろうじて一命をとりとめたものの、10年以上経っているのに治療法がなかなか見つかりませんでした。倒れてから2ヵ月後に退院しましたが、何度も通院、治療法を検討する日々が続きました。1つの病院だけではなくセカンドオピニオンでいくつもの病院を回って先生方の意見を伺いましたが『治療するにしても非常に難しい治療でかなりのリスクを伴う。数年経てば再出血の可能性は低くなるのでこのままでもいいのではないか?』など様々な意見を聞きました。最終的に体に負担の少ないガンマナイフで治療することに決めました。ガンマナイフで治療をすると決めていたときに最後のセカンドオピニオンで小宮山先生にお会いして話を伺いました。その中でこの血管奇形にはガンマナイフでの治療効果は期待できないこと、血管奇形はHHTという病気がもとになってできていることを説明していただきました。今まで診ていただいた多くの医師は『血管奇形は自然に出来たもので病気からくるものではない』とおっしゃっていましたが、その説明と異なり遺伝性の疾患であること、鼻血が出たり、頭や肺に血管奇形ができやすくなる事など多くの点で自分の症状と驚くほど一致していました。そうして色々詳しく説明していただき私自身も病気全体のことを発症から10年以上経ってようやく理解でき、今までの病気にたいするモヤモヤが全てなくなりました。『このままにしておくと再出血を起こす可能性が高い』とも言われ、かなりためらいがあった治療にも積極的に取り組もうという前向きな気持ちになり、納得した上で治療をするという方法を選択し実際に入院、治療を受けました。
治療を決めたのは『よくなりたい』という気持ちが強かったのもありますが、一番大きな決め手は家族への説明をしっかりしていただいたことです。今までのセカンドオピニオンの中で色々な先生方に診ていただきましたが、セカンドオピニオンを受ける前に自分のことなので必死で調べて自分なりに理解し先生に質問などしていましたが、自分が理解することで手一杯で私から自分自身の病気について十分に家族に説明ができていませんでした。そうして、診察やセカンドオピニオンの毎に私の病気に対する理解は深まっていきましたが家族は理解が深まるどころか何を言われているのかわからない状態でした。そのような状態だったので、一から病気について小宮山先生から家族に説明していただき家族も納得した上で治療に臨みました。これはHHTに限らず全ての病気に関して言える事だと思いますが、患者本人に十分な説明することはもちろん、患者を支える家族にも詳しく説明をし、納得してもらった上で治療に臨むべきだと思います。以前と比較するとインフォームドコンセントが浸透して患者、家族に対する説明が頻繁に行われるようになっていますがまだ不十分な点も多いと私は思います。この不十分な点は、患者やその家族側の『先生も忙しいのだからあまり質問したら悪い』とか『こんな事を聞いていいのだろうか?』という遠慮からくるものが多いと思いますが、私自身は大事なことなので聴いたほうがいいと思うし家族も納得した上で治療に臨むべきだと思います。先生方も外来患者、入院患者、救急の患者と仕事に忙殺される毎日が続いていると思いますが患者はもちろん、家族も仕事などを休んで長い間順番待ちをしていることを忘れないでください。分からない、リスクが高いから経過観察するのではなく『その疾患自体治療しなければいけないものか?』『経過観察でもよいのか?』だけでもアドバイスをあげてください。また先生方がご存じない疾患やHHTなど患者数が少なくあまり先生方に知られていない疾患であっても、どなたかその疾患を治療している医師を患者さんに紹介してあげてください。先生方も必死だと思いますが患者は自分の命がかかっているんです。患者は素人で何もわからないのです。お願いですから、患者さんに的確なアドバイスをしてあげてください。
患者側も一方的に医師に要求する事だけでなく、医師が忙しいことを理解して、自分で調べられるような事柄については、インターネットなどを駆使して自分で調べてから質問するなど、医師の負担を少しでも軽減するよう努めることも必要だと思います。
これからは、患者、医師双方が尊重しあってよりよい治療ができる環境が整う事を願っています。
2008.3.3 転記