オスラー病と消化管出血

HHT患者さんで、慢性の鉄欠乏性貧血のかたがいます.Hb 5.0以下の場合もあり、原因は、頻回の鼻出血または慢性の消化管出血です.この項では、後者を扱います.貧血による倦怠感・疲労感などは、肺動静脈瘻の症状でもあり、両者が存在する場合もあります.安静時と軽度の運動負荷時の酸素飽和度を測定すれば肺の動静脈瘻による倦怠感への貢献度は分かります.風呂上がりや階段を1-2階上るだけで、93-4%以下になるのであれば、肺動静脈瘻と関係ありと考えます.


毛細血管拡張症 telangiectasiaは内視鏡検査で容易に検出可能で、口腔から、食道、胃、小腸、大腸までどの部位でも認められる可能性があります.遺伝性毛細血管拡張症、HHT、オスラー病で消化管出血のあった43例の報告では、食道1/41例、胃10/32例、十二指腸33/41例、小腸5/9例、大腸10/32例で、毛細血管拡張症 が認められ、十二指腸に多かったです.


毛細血管拡張が20カ所以上にあると優位にHbの値は7.9 g/dl以下であり、20カ所以下の場合は9.4 g以上でした.また毛細血管拡張が20カ所以上では年間28.3単位(1 pack: 400 ml)以上の輸血を必要とし、7-19カ所では13.4単位であり、7カ所以下では、8.7単位でした.必ずしも内視鏡検査時に出血が認められること限りません.貧血に対する鉄剤の投与は言うまでもないですが、嘔気、消化器症状で飲み難い
ときは、眠前に制吐剤と投与すると良いでしょう.(写真は胃の内視鏡写真で、矢印は、毛細血管拡張をさす).


また、高度の貧血に対しては、輸血が適応となります. 高度の貧血に対しては、積極的かつ適切な輸血が必要です. 輸血を好む患者さんがいる分けはありません.しかし、医学的に適応がある場合は、きちんとその必要性を説明し、輸血を行ないます.高度(重症)の貧血の定義はありませんが、Hb 8 g/dl以下または年間の輸血12単位以上程度が想定されます.輸血を必要とする患者さんの治療は簡単ではありません.治療は様々で、内服治療、凝固療法、レーザー治療などがありますが、決め手に欠くのが現状です.内服治療には、ステロイド(女性ホルモンのestrogenや男性ホルモンのtestosterone製剤)、止血剤(aminocaproic acidやtranexamic acid)、血管強化薬、鉄剤投与等がありますが、その効果には個人差も大きく、また副作用もあることから、必ずしも投与されるというわけではありません.鼻出血に対する内服治療の効果と同様に考えられます.ステロイドによる深部静脈血栓症の合併の報告もあります.また、凝固療法やレーザー治療も、本質的には鼻出血に対する同治療と同じ結果であり、強く奨められる訳ではありません.


中年以降の患者さんが多いため、必ずしも毛細血管拡張症からの消化管出血とは限らず、悪性腫瘍、潰瘍、ポリープ、憩室、痔核なども鑑別診断として考えておく必要があります.




参考文献


Longacre AV, Gross CP, Gallitelli M, et al: Diagnosis and managemant of gastrointestinal bleeding in patients with hereditary hemorrhagic telangiectasia. Am J Gastroenterol 98:59-65, 2003



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2007.12.9記


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